医療従事者にもHIVの正しい理解を!~「はたらく細胞」コラボ漫画に込めた想い~【PR】
- 公開日: 2022/5/13
近年、抗HIV薬の目覚ましい進歩により、HIV感染者は非感染者と同様に寿命を全うできるようになった1)。2016年には、適切な治療により血中HIV RNA量が持続的に抑制されているHIV感染者は、他者にHIVを感染させないことを示す”U-U”(Undetectable=Untransmittable:検出限界値未満=HIV感染しない)というメッセージが米国を中心に発信され、世界保健機関(WHO)や米疾病対策センター(CDC)などの賛同を受け世界的なムーブメントとなっている2)。しかし、日本の医療機関および介護施設などでは、いまだにHIV感染者の受診または入所が断られる事例が散見されるという。HIVに対する正しい理解の促進に向けた医療従事者側の課題とは何か。人気漫画『はたらく細胞』(講談社)とコラボレーションしたオリジナルストーリー『はたらく細胞 HIV特別編』および『はたらく細胞 HIV検査編』(ともにギリアド・サイエンシズ提供)の医療監修を担当した千葉大学医学部附属病院 感染症内科・感染制御部 講師の谷口俊文氏にお話を伺った。
インテグラーゼ阻害薬の登場でHIV治療が進歩
― HIVを取り巻く現在の状況について教えてください
以前とは異なり、HIV感染症は早期に発見し適切な治療を受ければ、病状を悪化させることなく日常生活が送れるようになりました。今では、高血圧や糖尿病のようにコントロールできる慢性疾患として治療が可能になっています。
目覚ましい進歩を遂げてきた抗HIV薬の中でも、HIVインテグラーゼの触媒作用を阻害することでウイルス抑制効果を発揮するインテグラーゼ阻害薬(INSTI)によりHIV治療は大きく変わり、『抗HIV治療ガイドライン』において初回治療時に選択すべき抗HIV薬の1つとして推奨されています1)。現在、多くのHIV感染者に処方されているビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビン・テノホビル アラフェナミドフマル酸塩配合剤(商品名ビクタルビ配合錠(c))は、食事に関係なく1日1回1錠を服用すればよく、良好なアドヒアランスが期待できます。同薬は、多くの併存疾患を有する高齢者でも服用できる例が多いのも特徴です。
ただし、治療が遅れると免疫の状態が悪化し、病状が進行してしまうため、HIVを早期に発見することが極めて重要です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以前は、各自治体の保健所や検査施設で無料かつ匿名のHIV検査を実施していましたが、パンデミック以降はCOVID-19への対応に追われ、検査を中止せざるをえない自治体が続出しました。保健所などにおけるHIV検査数および相談件数は、2019年と比べ2020年には半減しています(図1)3)。また2020年にHIV感染者数が大きく減少した一方で、エイズ患者は4年ぶりに増加に転じており(図2)3)、検査が受けられないためにHIVの診断が遅れている患者が増えている可能性が指摘されています。
ただ、HIVに感染しても直ちにエイズを発症するわけではなく、多くは数年から10年程度の無症候期を経験します1)。そのため、 2020年に見られたエイズ患者の増加が、本当にコロナ禍に伴うHIV検査数の減少による影響かどうかは慎重に見極める必要があり、2021年の状況も踏まえて判断したいところです。
― HIV検査数の減少に対しては、どのような対応が求められるでしょうか
COVID-19への対応で多忙を極める保健所にHIV検査体制の整備を求めるのは現実的ではないので、郵送検査や自己検査キットの活用など、医療機関に行かなくても検査が行えるような体制をつくることも一案と考えます。
また、日本の保健所では梅毒検査時にHIV感染の有無についても調べられますが、英国のロンドンでは、HIVをはじめ梅毒、淋菌、クラミジアなどの性感染症を簡便にスクリーニングできる“Dean Street Express”というセクシャルヘルス外来が普及しています。タブレット機器を用いて検査の手続きなどを簡略化し、検体の採取もスピーディーに行うもので、利用者は90分以内にスクリーニング結果をスマートフォンで確認することができます。必要に応じて適切な医療機関を案内する体制も整備されており、公費で運営されているため無料または低額で検査が受けられ、1日当たり200~300人が訪れているそうです。今後、日本でもこうしたセクシャルヘルス外来の整備を進めていく必要があるかもしれません。


(図1、2とも厚生労働省エイズ動向委員会.令和2(2020)年発生動向年報.https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html)
適切な治療を受ければ、体液曝露でも感染しない
― 一部の医療機関では、HIV感染者の受診を断るケースがあるようです
HIV感染者は、適切な治療を受ければ日常生活を送る中で他者にHIVを感染させるリスクはほとんどありません。
現在、“U=U”というキーワードが世界的に発信されています。これはUndetectable= Untransmittableの略称で、血中HIV RNA量が200コピー/mL(検出限界値)未満の状態を6カ月以上保っているHIV感染者は、性行為などを通じて他者にHIVを感染させるリスクがないことを端的に伝えるもので、HIVに対する正しい理解を促進するための世界的なキャンペーンです。
ところが、HIVに対する理解が十分でない医療機関や介護施設などでは、HIV感染者の受診や入所が断られるケースが見受けられます。通常、標準予防策(スタンダード・プリコーション)を実施していれば、さまざまな感染性病原体による院内感染の予防が可能ですが、HIVに関しては、標準予防策が十分でない場合でも、血中HIV RNA量が検出限界値未満にコントロールできていれば、体液曝露などによる感染が成立することはほとんどないのです。
HIVの治療では、定期検査で血中HIV RNA量が検出限界値未満にコントロールできているかを確認しているため、そうした検査結果を踏まえた上で安心して診療を行ってもらいたいと思います。
― HIVに対する正しい理解の促進に向けて、どのような取り組みが必要でしょうか
先述した“U=U”の概念が広く共有されることが重要だと思います。この言葉は非常にシンプルなのでメッセージが伝わりやすく、多くのHIV感染者が「適切な治療を受け、 HIVの増殖を抑制できていれば、誰かにHIVを感染させることはないんだ」と安心感をもって日常生活を送れるようになりました。医療従事者においても、血中HIV RNA量が検出限界値未満であれば、万が一体液曝露があってもHIVの感染が成立するリスクはない点が明確に伝わるため、HIV感染者に対する心理的バリアの解消につながります。世界中で認知が広がりつつある“U=U”というパワーワードを、医療従事者を含めた多くの人に知ってもらう必要があると思います。
また、HIV感染血液による針刺し事故が起こった場合のマニュアル整備も重要です。適切なマニュアルの整備を促すことで、HIV感染者の受け入れも進むのではないでしょうか。
医療現場でも活躍! 『はたらく細胞』とコラボしたオリジナルストーリー
― 『はたらく細胞』とコラボレーションした「HIV特別編」「HIV検査編」は、HIV感染者やその周囲の人も含めて、HIVの正しい理解を広く伝えていく意義ある取り組みですね
今回、両作品の医療監修を担当することになり、とても光栄に思っています。HIV感染症という複雑な病態についても、『はたらく細胞』のストーリーで描かれることですんなりと頭に入ってきやすくなりますし、HIV検査の重要性を伝えていく上で素晴らしい機会をいただいたと考えています。
作中、重要な役割を果たす抗HIV薬が登場するのですが、そのデザインをよく見ると、実は“U=U”を表現したものになっています。医学的に見て不正確な内容がないように細心の注意を払うと同時に、そうしたHIVに関するメッセージを込める工夫も行いました。
― 最も印象に残っているシーンはどこですか
「HIV特別編」のラストでHIV感染により増殖した真菌の撃退に成功した後、HIVに感染してしまったヘルパーT細胞とキラーT細胞が相対するシーンです。原作でも戦友として描かれていた2 人が別れを惜しむこのシーンには感動しました。私はとても気に入っています。
完成した漫画の冊子およびウェブページはHIV感染者やパートナーの方、ご家族などにお見せしたり、SNSを通じて紹介したりしています。医学生や看護学生をはじめ、医療従事者にもお薦めです。特にHIVの診療に携わる看護師にはとても好評で、患者さんに漫画のことを紹介すると興味を持ってもらいやすく、「HIVという病態の理解を深めてもらえた」「検査の重要性を理解してもらえた」といった感想をよく耳にします。
これまでHIVにあまり関心を持っていなかった人にも『はたらく細胞 HIV特別編』および『はたらく細胞 HIV検査編』などを通じて、HIVの早期発見や検査の重要性、 “U=U”の概念を認識していただき、HIVに対する正しい理解がさらに広がってほしいと願っています。

(c)清水茜・かいれめく/講談社

(c)清水茜・かいれめく/講談社
はたらく細胞キャンペーンページはこちら ▶ https://hiv-hataraku-saibou.com/
【文献】
1)HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班. 抗HIV治療ガイドライン(2021年3月発行)
2)Prevention Access Campaign https://preventionaccess.org/
3)厚生労働省エイズ動向委員会.令和2(2020)年発生動向年報.https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html
添付文書情報はこちら ▶ https://www.g-station-plus.com/product