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【連載】脳神経内科で必要な看護技術を学ぼう!

神経疾患によるコミュニケーション障害の看護|障害の特徴(構音障害など)、コミュニケーションのポイント

  • 公開日: 2022/6/9

コミュニケーション障害の原因は多岐にわたります。ここでは、神経疾患によるコミュニケーション障害について解説します。


コミュニケーション障害とは

 コミュニケーションには、「社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと、言語・文字・身振りなどを媒介して行われる」という意味があります1)

 つまり、コミュニケーションは情報伝達の手段だけではなく、他者と意思の疎通を図り、思いや感情を共有することが含まれます。コミュニケーションによって、思いや気持ちを「分かち合う、共有する」ことは、心豊かに生活するうえでも大切です。

 コミュニケーション障害とは、何らかの原因で情報を伝達したり、他者と意思疎通を図ったり、思いを共有したりすることが困難な状態をいいます。神経疾患では、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)や脊髄小脳変性症、パーキンソン病、多系統萎縮症などによりコミュニケーション障害が生じます。これらは神経難病であるため、病状の進行に応じてコミュニケーション障害のレベルが変化していく特徴をもちます。

神経疾患によるコミュニケーション障害の特徴

 神経疾患では、上位運動ニューロン、下位運動ニューロン、錐体外路などが障害されることで構音障害が生じるほか、運動機能が障害されることで書字困難がみられたり、ボデイランゲージなど非言語的なコミュニケーションサインを使用したりすることも難しくなります。

 ALSでは、球麻痺症状や呼吸不全に伴う声量の低下、舌の萎縮および舌運動の低下などからコミュニケーション障害が認められ、パーキンソン病では仮面用顔貌を呈することで、表情から訴えを読み取ることが困難となります。

 ここでは、神経疾患で特に生じやすい構音障害について解説します。

構音障害(dysarthria)の症状、分類

 構音障害では、発語の不明瞭さや声のかすれのほか、抑揚、話すスピード、リズムなどに異常を認めます(表1)。

表1 障害部位と主な症状

障害部位状態主な症状
上位運動ニューロン仮性球麻痺・発音が不明瞭になる
下位運動ニューロン球麻痺・声がかすれる ・嚥下障害を伴う
錐体外路小脳失調・音節が断続的で抑揚がなくなる断綴性(だんてつせい)言語を呈する

 構音障害はその原因により、運動障害性構音障害、器質性構音障害、聴覚性構音障害、機能性構音障害に大別されますが、神経疾患が原因で起こる構音障害は、運動障害性構音障害に分類されます。

【運動障害性構音障害】

 運動性構音障害は脳卒中をはじめ、パーキンソン病やALSなどの神経難病でみられ、発声に必要な器官(口唇、声帯、軟口蓋、舌、下顎)の錐体路・錐体外路系の障害に伴い、運動機能あるいは協調運動機能が障害されることで生じます。また、三叉神経、顔面神経、舌咽神経、舌下神経、迷走神経や小脳の障害によっても起こります。口唇の麻痺では、「ぱ」「ば」「わ」「ま」行の発音が困難となり、舌の麻痺では、「た」「さ」「な」「ら」行、咽頭の麻痺では、「か」行の発音がしにくくなります。

【器質性構音障害】

 器質性構音障害は、口腔疾患の術後や先天性の障害により、発声に必要な舌・口唇などの形態的異常が原因で起こります。

【聴覚性構音障害】

 聴覚性構音障害は、聴覚障害により、正しい発音や自身の声を聞き取ることができないために、正しい発音が行えない状態をいいます。

【機能性構音障害】

 機能性構音障害は、発声器官の障害など明らかな原因を認めないにもかかわらず、適切な発音ができない状態をいいます。

構音障害の評価

 構音機能の評価は、発声・発音(声の性質・大きさ、共鳴)、話し方(スピード、抑揚、音節の連続性)、会話の明瞭さ、舌の動きなどを確認したうえで行います。会話の明瞭度は、会話明瞭度尺度を活用することで5段階に評価できます(表2)。

表2 会話明瞭度評価尺度

よくわかる
時々わからない言葉がある
話の内容を知っていればわかる
時々わかる言葉がある
全然わからない

コミュニケーション障害をもつ患者さんの看護

コミュニケーション能力のアセスメント

 他者と円滑なコミュニケーションを取るためには、思いや気持ち、情報を発信する力、発信された情報を理解し、さらに相手に自分の考えや思いを返す力が必要となります。

 コミュニケーションが障害されるということは、日常生活や社会生活を営むうえで障壁となるだけでなく、心理社会的影響をもたらします。言語機能の障害を有する患者さんのアセスメントでは、主に次の3つについて観察・把握していきます。

①言語障害(失語症、構音障害など)の有無・程度、主な症状など言語機能の状態に加え、表情や顔面の動き、手足の動きなど、非言語的コミュニケーションがどの程度活用できるか観察します。
②言語機能の障害による日常・社会生活への影響、対人関係への影響を確認します。
③言語機能の障害が患者さんや家族に与える心理的影響などについてとらえていきます。

 ALSをはじめとする神経難病では、病状の進行に伴い、残存機能を活用したコミュニケーション方法を選択する必要があります。早い段階からコミュニケーション能力のアセスメントを行い、患者さん、家族、医師、リハビリテーションチームメンバーなど多職種と連携し、より活用しやすい方法を検討することが大切です。

コミュニケーション方法の選択

 神経疾患では構音障害のほかに、四肢の運動麻痺、顔面麻痺、振戦、不随意運動が起こることで、書字、表情、身振りや手振りなどの非言語的コミュニケーション手段も障害されます。そのため、障害レベルに応じたコミュニケーション方法を選択します。

 コミュニケーション方法は、まばたきや眼球運動、視線といった、患者さんの残存機能を生かした方法が用いられます。文字盤やブザー、センサースイッチ、意思伝達装置などの補助・代替コミュニケーション手段(AAC)の使用も検討されますが、これらのコミュニケーション補助機器に切り替えていく場合は、患者さんが受け入れられるように、心理的な支援をしていくことが重要です(表3)。

表3 主なコミュニケーション方法

コミュニケーションエイド

コミュニケーションのポイント

【患者さんの訴えを確認する場合】

★Point
・緊急性のある事柄から質問する
・患者さんが「はい」「いいえ」で答えられる質問をする

 著しい構音障害がある場合や、指文字、表情、眼球運動など非言語的コミュニケーションによる会話では、患者さんの訴えを十分に聞き取れない場合があるかもしれません。そうしたときは、患者さんの訴えを漠然と聞くのではなく、緊急性のある事柄から質問します。例えば、「今すぐ何かしてほしいことがありますか?」のように、患者さんが「はい」「いいえ」で答えられる質問を行います。「はい」と答えた場合は、それが身体に関することなのか、思いや気持ちに関することなのかを確認します。

 その際に重要なのは、訴えがあったタイミングで、患者さんの状況をよく観察することです。「最後にトイレに行った時間から考えると、そろそろトイレに行きたいころかな?」「病室の室温が低いけれど寒くないかな?」「不安な表情をしているけれど、何か気になることがあるのかな?」といったように、患者さんが求めていることを推測し、確認してみることも一つの手がかりになります。患者さんが日常的に必要とするケアについては、「吸引」「体位変換」「トイレ」など、具体的なケア内容を記載したボードを活用するのもよいでしょう。

 また、文字盤によるコミュニケーションでは、患者さんが言いたい言葉を目線や指差しで表現します。身体的な苦痛など緊急性が高いと判断される場合は、気づいた時点で先読みをしたほうがよい場合もあります。ただし、患者さんの気持ちや思いなどは、文字盤で示す表現を最後まできちんと読むことで伝わることも多くあるため、先読みは状況に合わせて判断します。

患者さんの訴えが聞き取れない場合

★Point
・わかったふりをすることは慎む
・詳細な表現にとらわれず、訴えの内容を大きくつかむ
・看護チームのメンバーや家族の協力を得る

 患者さんの訴えが聞き取れなかったときに、わかったふりをすることは慎む必要があります。患者さんの訴えがどうしても聞き取れなかった場合は、正直に聞き取れなかったことを伝え、謝罪します。

 訴えが聞き取れないと焦る気持ちも出てきますが、詳細な表現にとらわれず、緊急性のあることなのか、看護師として何か行う必要があるのか、思いや気持ちの話なのか、訴えの内容を大きくつかむことを心がけます。それでも聞き取れず、患者さんに疲労や負担が生じそうな場合は、看護チームのメンバーや家族の協力を得るとよいでしょう。

 コミュニケーション障害によって、自分の思いや気持ちを十分に表出できないことは、ストレスフルな状態を引き起こします。また、言葉をうまく出せなくなることでは自尊心の低下をもたらし、心理・社会的な孤立を招きます。患者さんと向かい合う際は、障害の程度にかかわらず、患者さんの訴えを真摯に聞く姿勢をもつこと、患者さんが安心して話せるような環境づくり(忙しそうにしない、急かさない)に努めることも大切です。

★Column:患者さんが伝えたかったこと

 著者の看護師時代に、こんな経験がありました。気管切開により声が出せない患者さんがICUから帰室したため、すぐにバイタルサインを測定しようとしたところ、患者さんが病室の窓を指して、何かを懸命に訴えてきました。

 患者さんが何を訴えているのか全くわからないまま、「先に血圧を測りましょう」とバイタルサインの測定を進めようとしてしまいましたが、患者さんは血圧測定をしようとせずに、窓の外を見て、「〇〇〇〇〇〇」と口を6回動かし、なおも私に何かを訴えようとするのです。

 「6つのワードは何だろう?」と考えながら、患者さんが指差す窓の外を一緒に見たところ、とてもきれいな青空が広がっていました。あまりにきれいな青空で、「空がきれい」と言うと、患者さんは大きくうなずき笑顔になり、そこでようやく、空がきれいなことを伝えたかったのだと気がつきました。

 改めて考えると、ICUから一般病床に戻ってきた患者さんが、窓の外に関心を寄せ、空に目を向けられるのは、全身状態が安定しているからこそできたことです。状態を確認しなければと焦ってバイタルサインを測定するより、患者さんときれいな青空を一緒に見て、その美しさを共有することのほうが回復意欲にも繋がると思いました。

 この経験を通じて、本当の意味で患者さんの全身状態を把握できていなかったと深く反省しました。また、コミュニケーション障害があるからといって、患者さんは自分の要求だけを看護師に訴えるのではなく、他者と共感することや、自分の思いや感情を伝えたい気持ちがあることを忘れてはならないと学びました。

引用・参考文献

1)松村明 監:大辞泉 第2版 上巻.2012,p.1359.
●成田有吾:症状と障害の看護(9)コミュニケーション障害.難病看護の基礎と実践.中山優季 編,桐書房,2014,p.143-9.
●井村保,他:神経筋疾患に対するコミュニケーション機器導入支援ガイドブック~ALSを中心とした支援にかかわる医療職のための基礎知識~.(2022年5月2日閲覧)https://rel.chubu-gu.ac.jp/files/2016-rep/guidebook-all.pdf
●森島亮:言語・コミュニケーション障害.神経疾患 難病看護ガイド.東京都立神経病編,ヴァンメデイカル,2020,p.111-21.

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