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術後せん妄の看護|予防、ケア、看護計画

  • 公開日: 2022/6/13

術後せん妄とは

 術後せん妄とは、手術を受けたことがきっかけで起こる意識の混乱です。手術の侵襲によって、術後の患者さんは身体機能だけでなく、精神機能も低下するため、覚醒レベルが短いスパンで変動し、それが混乱状態として出現します。

 主な症状としては、失見当識、興奮、妄想、不安、抑うつ、幻覚などが挙げられます。また、安静が保たれず歩き回る、自覚なくチューブ・カテーテル類を抜管してしまうといった行動も認めることがあり、このような状態を「過活動型せん妄」といいます。反対に、傾眠傾向や反応に乏しいといった状態を「低活動型せん妄」、いずれの症状も認めるものは「混合型せん妄」と呼びます。

 術後せん妄は誰にでも起こり得ますが、一過性のもので、身体侵襲からの回復とともに症状は消失します。

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術後せん妄の予防

 術後せん妄を予防するためには、患者さんの状態を把握してチーム全体で共有し、早期に適切な介入や対策を講じることが必要です。また、家族の協力も不可欠なため、患者さんはもちろん、家族に対しても丁寧な説明や対応を心がけます。

患者さんの評価

 一般的に、せん妄にはきっかけとなる3つの因子があるとされています。具体的には、せん妄を発症しやすくする「準備因子」、単体でせん妄を起こし得る「身体因子(直接因子)」、せん妄を促進・遷延させる「促進因子(誘発因子)」です。

 術後せん妄の予防には、術前の段階で準備因子(70歳以上、認知症、脳血管障害の既往、アルコール多飲、せん妄の既往など)を確認し、患者さんがせん妄ハイリスク群にあたるか評価します。ハイリスク群に該当する場合は、チームで情報を共有し、せん妄の発症予防につなげるためのケアや対応を考えます。

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患者さん、家族への説明

 手術を控えた患者さんと家族には、誰もが術後せん妄を起こす可能性をもっていることを事前に説明し、準備因子の有無や服用している薬剤などについて聞き取りを行います。

 場合によっては、家族の面会により患者さんの安心感が維持され、術後せん妄の発症予防につながることがあります。家族の協力が得られるよう、術後せん妄の説明を行う際には、パンフレットなどの視覚情報を活用するとよいでしょう。

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環境整備

 術後せん妄の誘発因子のひとつに、不安などの心理的ストレスがあります。患者さんは入院や手術といった、普段とは異なる環境や状況に身を置かなければならないため、患者さんの心理的負担感は強いと推測されます。

 術後せん妄の予防には、患者さんの日常生活に近い環境を整えることが必要です。例えば、普段使用している小物や家族の写真を飾ったり、ケア提供者を統一したりすることで、安心できる空間を確保します。見当識を保てるようにカレンダーや時計を置く、定時のケア提供やわかりやすいコミュニケーションを心がけることも大切です。

 術後疼痛による苦痛が強い場合は、十分に安静が保てるように、体位調整やバイタルサイン測定は最低限に留め、空調や照明を調整するなどして、できるだけ落ち着いた環境を保つようにします。

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術後せん妄のケア

 術後せん妄に対するケアを実施する上で大切なのは、患者さんの苦痛をチーム全体で共有し、その苦痛をできるだけ早く取り除いていくことです。自分の置かれている状況をきちんと把握できない患者さんに対しても、ただ行動を制止するのではなく、気持ちに寄り添った対応を心がけるようにしましょう。

カテーテル管理

 術後は点滴、ドレーンチューブ、尿道カテーテルなど、複数のチューブ・カテーテルが挿入された状態にあり、患者さんの安静度は制限されています。

 しかし、せん妄状態になると、なぜこれらのチューブ・カテーテルが体内に入っているのか、なぜベッド上にいなければならないのか理解することが難しくなります。その結果、カテーテルがつながったまま歩き回ろうとしたり、自己抜去しようとしたりという行動を起こすのです。

 このようなリスクを回避するためには、本当にチューブ・カテーテルが必要な状態であるか適切に評価し、経過によっては、せん妄が比較的落ち着いている日中の間だけ点滴をする、尿道カテーテルの早期抜去を試みるなどの対応を検討します。ほかに、ドレーンチューブの固定位置を患者さんの目や手に触れない位置に変更するといった対策を講じることも重要です。

生活リズム、睡眠リズムの調整

 医療機器のアラーム音や慣れない入院生活、安静度の制限、昼夜にわたる治療などにより、患者さんは入院前とは異なるリズムでの生活を余儀なくされます。

 環境の変化が心理的ストレスとなれば、術後せん妄の遷延を招きかねないため、術後のケアと並行して、生活リズムも整えるようにアプローチしていくことが大切です。具体的には、術前の生活リズムに近い状態で食事や清潔を実施する、テレビやラジオ視聴などの習慣があれば取り入れる、ケアをする際に日にちや時間を告げて見当識を保つなどです。

 また、睡眠リズムの変調も生活リズムの乱れにつながります。朝は陽の光を浴びられるようにする、夜は照明を落とす、日中はベッド上以外の場所で活動できる時間帯を少しでも確保するなど、患者さんが入眠しやすい環境を整えられるように配慮します。

コミュニケーション

 術後せん妄のある患者さんは、今何が起きているか判断する力が十分ではありません。不安感が強い場合は、ケアや治療を拒否することもあります。ケアをする際は、これから行う内容をわかりやすく説明し、患者さんが不安や不信感を抱くことのないように注意します。

 患者さんに話しかける際は、患者さんの正面に回り、目線を合わせた状態でわかりやすい言葉を使うようにします。大声で叫ぶなど興奮状態にある患者さんに対しても、行動を制止することに終始せず、低いトーンでゆっくり、そしてはっきり話すと、患者さんも落ち着いて聞き取ることができます。会話の中で、「今日は〇月〇日ですね」など、日時や曜日感覚が保たれる情報を入れるようにすることも大切です。

家族ケア

 術後せん妄の予防やケアに家族の協力を得る場合、家族もケアの対象として介入する必要があることを忘れてはなりません。

 医師や看護師から説明を受けて、患者さんの入院や手術について納得し、理解しているようにみえても、実際にせん妄の症状を呈する患者さんを目の当たりにすると、人が変わってしまったとショックを受けるケースは少なくありません。面会時にはせん妄について改めて説明し、具体的な対応の仕方や今後の見通しなどを伝えるようにしましょう。

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看護計画

 「高齢で術後せん妄を起こすリスクが高い患者さん」を例に、看護計画を紹介します。

看護問題
#1 術後せん妄ハイリスク状態

看護目標
・せん妄発症に対する予防的アプローチができる
・せん妄の兆候を早期に発見でき、治療につなげることができる

観察計画(O-P)
・意識レベルの変化
・見当識障害の有無
・記憶障害の有無
・言動の変化
・睡眠リズム
・疼痛の有無と程度
・排泄状況
・食事摂取状況
・IN/OUTバランス
・バイタルサイン
・血液データ(炎症反応、電解質異常など)
・処方薬
・術後せん妄の既往

ケア計画・援助計画(T-P)
・入院時に患者さんの普段の状態を家族から聴取しておく
・アセスメントツールを用いたせん妄の評価を定期的に実施し、せん妄症状を認めた場合はチームで情報を共有するとともに、医師に報告する
・術後せん妄の説明に使用するパンフレットを用意する
・チューブ・カテーテル類は衣服の下に通したり、見えない位置に配置したりするなどして、自己抜去を予防する
・時計、カレンダー、普段使っている小物や身の回り品などを病室に飾る
・転倒・転落の可能性を考慮し、ベッド周囲の環境を整備しておく
・定期的な訪室を心がけ、日時や曜日を会話に盛り込む
・会話の際には患者さんと目線を合わせ、聞き取りやすいトーンとわかりやすい言葉を使って話す
・患者さんが心地よい室温・湿度に調整する
・排便コントロール
・疼痛コントロール

教育計画(E-P)
・入院時、患者さんと家族に術後せん妄について説明する
・面会に来たり、患者さんが普段使用している小物類を病室に持ち込んだりすることで、せん妄予防につながることを家族に説明する

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