第1回 亡くなる患者さんの子どもとのかかわりに迷う理由(前編)
- 公開日: 2011/7/14
死を前にした患者さんの家族に、成人前の子どもがいるケースは少なくありません。そのような子どもに対して、「どう声をかけていいのか、迷ってしまう」「何をすればいいのか、わからない」などと悩んだり、戸惑ったことがあるのではないでしょうか。
第1回は、現場でそのような戸惑いの生まれる理由について、患者さんや子どもをとりまく状況面から考え、医療者側によるアプローチの可能性について触れます。
本当の病名を知らされずいら立つ子ども
看護師のAさんは、子どもに親の病名を告知するほうがいいのかどうか、考えさせられた事例を受け持った経験があります。
40歳代の肝臓がんの患者さんは、妻(40歳代)と2人の息子(高校2年生と中学3年生)との4人家族でした。患者さんご本人、妻、そして長男は、病名、病状に関する説明を受けていたのですが、次男は高校受験を控えているという理由から、父親の病気の詳細を知らされていませんでした。
入院1カ月が経とうというころから、次男の言動に変化がみられました。父親の病状が一向によくならない状況に不安が募るとともに、病名や病状について、母や兄、看護師に質問をしても答えてもらえないことにいら立っているようでした。
特に看護師に対して、「その点滴は何か?」など、薬や検査、処置について、かまをかけるような質問を重ねてきます。Aさんは、「弟さんは、父親の病状にうすうす気付いているのかもしれない。このまま、家族のなかで一人だけ、知らされなくていいのだろうか」「最期になって、弟さんが本当の病状を知ったとき、父母や兄に対して怒りを抱くのではないだろうか」と感じました。
子どもへの対応に看護師がもつ戸惑い
Aさんのように看護師が、子どもに対してどのように働きかければよいのかという迷いは、実はよく生じるものです。その原因の一つは、患者さんや家族と看護師が、子どもへの対応を話題にできない状況が多いことです。
ある研究者は、子どもへの対応について患者さんや家族との間で話題にできる状況かどうかで、看護師の戸惑いは異なってくると報告しています。例えば、患者さんや家族と、子どもへの対応について話題にできない場合には、看護師は、「家族関係にどこまで立ち入ってよいのかわからない」と感じたり、「看護師として、子どもに目を向けるゆとりがない」などといった戸惑いをもつ傾向があるといわれます。
子どもへのケアについて話題にできない状況としてよくみられるのは、例えば、患者さん自身が「がん」や「死にゆくこと」を受け止めきれていない場合です。
患者さんや家族の状況にも影響される
ある患者さんは、肺がんが発見されたときには、すでに転移性の脳腫瘍があり、根治療法ができず対症療法のみの適応でした。しかし、治療や根治への思いが強く、「いい治療法が見つかるまで頑張る」と話し、「まだまだ生きるのだから子どもに伝える必要はない」と考えていました。
病状からみるかぎり、予後が決して長くないことは明らかであっても、患者さんが自分の予後を受け止められていない場合は、「病気のことを子どもには伝える必要はない」と考えることも多く、子どもに病気のことを伝えるのは難しくなります。
その一方で、患者さんや家族と子どもへの対応を話題にできる場合でも、病気や予後のどこまでを伝えるかを明確に決めにくいこともあります。また、子どもが親の臨終場面などに立ち会うことに対して、祖父母や親戚などの周囲の大人が否定的な感情をもつときは、対応が難しくなります。それらが看護師の戸惑いにつながってくるといわれています。
このように、大切な人を亡くす子どもに対し、病気や治療、そして、いずれは亡くなるということを、医療者がどのように説明し対応していくかは、患者さんや家族の状況や思いによって大きく変わっていくことがうかがえます。
(『ナース専科マガジン』2010年6月号より転載)
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