❝みえない多様性❞に優しい職場づくりプロジェクト―健康経営の新たな視座:片頭痛事例から紐解く―
- 公開日: 2021/2/5
2020年11月18日、「“みえない多様性”に優しい職場づくりプロジェクト―健康経営の新たな視座:片頭痛事例から紐解く―」をテーマに、日本イーライリリー株式会社によるプレスセミナーが開催されました。セミナープログラムのなかから、富永病院副院長・脳神経内科部長・頭痛センター長の竹島多賀夫先生と、日本イーライリリーの山縣実句さんの講演を中心にレポートします。
片頭痛が職場に与える影響
講演:富永病院 副院長 脳神経内科部長・頭痛センター長 竹島 多賀夫先生
片頭痛とは
片頭痛は生命にかかわらないものの、患者さんのQOLを阻害する疾患です。女性の有病率が高く(男性の約3.76倍)1)、疾病負担は腰痛、難聴、糖尿病に次いで第4位(生命にかかわる疾患は除外)に位置付けられています2)。
脳硬膜の三叉神経血管系の周囲で神経原性炎症が生じることで、激しい痛みが起こると考えられており、発作を時々繰り返すのが特徴です。また、痛み以外に、さまざまな随伴症状を伴います。食欲亢進や易疲労感、浮腫といった漠然とした変化が予兆としてみられるほか、人によっては閃輝暗点(視野にギザギザした光が広がる現象)を認めたり、光・音・臭いに対し過敏になるケースもあります。
激しい痛みや各種症状は、治療の有無にかかわらず、通常、半日から3日で回復して正常な状態に戻ります。
片頭痛の診断
片頭痛の診断は『国際頭痛分類』にある診断基準に沿って行われますが、さらに簡単に確認できるツールとして、問診票や片頭痛スクリーナーなどが開発されています。
例えば、日本人の片頭痛症例をもとに作成された片頭痛スクリーナーでは、「①日常的な動作により頭痛がひどくなる、じっとして動けなくなる、動くとつらいといった症状があるか」「②悪心があるか」「③普段は気にならない程度の光をまぶしく感じるか」「④臭いが嫌だと感じるか」の4項目について、どれくらいの頻度(半分以上、ときどき、まれ、なかった)で発生するか確認します。
頭痛の患者さんで、発作中に「半分以上」または「ときどき」にあてはまる項目が2つ以上ある場合は、片頭痛の可能性が高いと考えられます。
片頭痛が及ぼす影響
片頭痛は、働き盛りの年代における障害生存年数が圧倒的に多い、つまり生産性への影響が非常に大きいということがわかっています3)。
片頭痛の就業に関するインパクトを調べた研究によると、アブセンティーズム(病欠)の平均支障率は片頭痛で6.4%、非片頭痛では2.2%と有意差を認めます4)。着目すべきは、何とか我慢して出勤しているものの労働生産性が落ち、ミスや能率低下が生じうる「プレゼンティーズム(疾病就業)」で、こうした経験を有している片頭痛患者さんは、40.2%にものぼります4)。
片頭痛の対処法(非薬物療法)
片頭痛の対処法としてもっとも大切なことは、安静と冷却です。暗くて静かなところで静かに過ごす、短時間でも睡眠をとる、そして保冷剤などを用いて頭部を冷やすとかなり改善します。
周囲に求められること
第一に、片頭痛という脳神経疾患への理解が挙げられます。頭痛によるつらさに加え、周囲に理解されないことは、片頭痛の患者さんにとって苦しみにつながります。
また、職場環境にも配慮が求められます。片頭痛は痛み以外に、集中力の低下、光過敏、音過敏といった症状を伴うことから、もし可能であれば、席の配置や騒音への配慮、室温・照明を調整することも大切です。片頭痛発作時には、ほんの数時間でも休養してもらう、もしくは早退できるような体制を整えておくのもよいでしょう。
職場環境によって片頭痛の患者さんはつらい思いをしていることが多く、生産性の低下を生んでいる場合もあります。医療による介入も重要ですが、職場環境を含め、周囲が理解を深めるとともに適切に対処することで、労働者と企業双方において生産性の向上が期待できると考えます。
“みえない多様性”に優しい職場づくりプロジェクト/啓発ツールについて
講演:日本イーライリリー株式会社 コーポレート・アフェアーズ本部 広報・CSR・アドボカシー 山縣実句さん
みえない多様性とは
片頭痛は、疾患名はほぼ知られている一方で、実際の症状の認知度は低いために周囲から支障がわかりづらく、休暇や労りの対象となりにくい疾患といえます。
さまざまな健康課題に紐づいた現象を周囲に理解されないことで、当事者のなかに「不安、支障、働きづらさ」が起こります。この当事者一人ひとりが抱える「不安、支障、働きづらさ」を「みえない多様性」と定義しています。
「“みえない多様性”に優しい職場づくりプロジェクト」は、この多様性に配慮しながら、健康の観点から多様な背景をもった人々が共に働きやすい職場づくりを目指し、健康経営®に取り組む企業・団体、自治体、専門家が共同で立ち上げたプロジェクトです。
「みえない多様性があることを知り、当事者と周囲の人の相互理解を深めることで一人ひとりが行動を変え、だれもが働きやすい環境を作る」。これを本プロジェクトの目的とすることで、個人のQOL向上や組織の生産性向上を目指します。
当事者が望むこと
この活動と並行して、「片頭痛」「腰痛症」「アレルギー性鼻炎」の患者さんに対するインターネット調査を実施しました。調査を通して、仕事に支障が出るほどの症状が出ても多くの人が我慢しながら就業している実態が明らかになりました。
中でも片頭痛は、「たまに我慢する」以上の頻度で勤務時に症状を我慢している割合が71%と他疾患よりも高く、「周囲に迷惑をかけたくないから」という理由で仕事を休めないと考えている人も7割を超えることがわかりました5)。一方で、周囲の嬉しい対応として「理解を示してくれる」がいずれの疾患でも高い割合となっています5)。
片頭痛以外の疾患でも、「みえないつらさ」を抱えながら働いている人がいます。当事者が周囲に伝える機会やきっかけをつくり相互理解を図ることが重要と考えます。
啓発ツールの活用
職場における「みえない多様性」から起こる問題の解決に向け、プロジェクトに参画する企業、自治体、専門家と共同で、啓発ツールを作成しました。職場・組織における健康課題の考え方、健康課題を抱える当事者とともに考える職場環境づくりのポイントについて、具体的な事例を交えながら紹介しています。
また、「みえない多様性」を考えるきっかけづくりの一つにワークショップがありますが、ワークショップの取り組み方についての解説や、実施時に使える「カードゲーム」も付録として付いています。ぜひ、本ツールを通し、新たな視点や捉え方を知ってもらうとともに、さまざまな健康課題をもつ人にとって働きやすい職場づくりに活かしてほしい思います。
◆啓発ツールのダウンロードはこちら
引用文献
1)F Sakai,et al:Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey.Cephalalgia 1997;17(1):15-22.
2)Theo Vos,et al:Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 328 diseases and injuries for 195 countries, 1990-2016:a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.Lanset 2017;390(10100):1211-59.
3)StovnerLJ, et al:Global, regional, and national burden of migraine and tension-type headache, 1990-2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.Lancet Neurology 2018;17(11):954-76.
4)Kikui S,et al:Burden of migraine among Japanese patients: a cross-sectional National Health and Wellness Survey.J Headache Pain 2020;21(1):110.
5)日本イーライリリー:片頭痛、腰痛、およびアレルギー性鼻炎の患者さんの症状と仕事への影響に関するインターネット調査