日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン ―心不全の合併率も高い不整脈「心房細動」の最新知見―
- 公開日: 2022/11/3
2022年10月6日、第23回日本心臓財団メディアワークショップがオンラインで開催されました。ここでは、「日常に潜む脳卒中の大きなリスク、『心房細動』対策のフロントライン」と題した、京都府立医科大学 循環器内科学 不整脈先進医療学講座 講師 妹尾 恵太郎先生の講演をレポートします。
不整脈とは
不整脈とは、心拍数やリズムが一定でない状態をいいます。通常、心臓は1分間に60~100回、規則正しく拍動していますが、不整脈ではこれが速くなったり、遅くなったり、リズムが乱れたりするなどの異常を認めます。突然死の原因になりうる不整脈も存在しますが、健常者でも体調不良時に不整脈が起こることがあり、常時不整脈を起こしている人でも日常生活を問題なく送れるケースも多くみられます。
心房細動とは
心房細動とは不整脈の一種で、電気信号が乱れることで心房が痙攣したように小刻みに震え、心機能が低下する状態です。心不全、狭心症、心筋梗塞といった心疾患の既往がある人だけでなく、肥満、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、飲酒や喫煙習慣をもつ人でもリスクが高くなります。
症状としては、動悸、めまい、失神のほか、まれに痙攣を認めますが、症状を認めるのは60%ほどで、40%は無症状であることがわかっています1)。日本における推定患者数は、2030年に108万人を超えると予測されていますが2)、無症状の患者さんも含めると、さらに多くなることが考えられます。
心房細動による脳梗塞発症リスク
脳梗塞の20~30%は心房細動によるものです。心房細動を発症すると心房の中で血液がよどみ、血栓が生じやすくなることから、心房細動の人はそうでない人に比べて脳梗塞を起こすリスクが高くなります。
心房細動から起こる脳梗塞を心原性脳塞栓症といい、命にかかわるケースが多く、一命をとりとめても麻痺や寝たきりなど、重い後遺症が残る可能性が高いとされています。
心原性脳塞栓症の予防には抗凝固薬が有効ですが、毎日服用する必要があり、内服開始から年数が経つほど、アドヒアランスは低下していきます。その理由として最も多いのが飲み忘れです。1日でも薬を飲み忘れると脳梗塞のリスクが戻ってしまいます。
近年では、飲み忘れを防止する機能が搭載された「心房細動アプリ」なども開発されているため、継続的な服薬に役立てるとよいでしょう。
心房細動を早期発見するためのポイント
心房細動による死亡リスクは心房細動でない人に比べて高く、上述した脳梗塞以外に、心不全の合併や認知症の発症リスクも高まります。そのため、心房細動を早期に発見することは大変重要です。軽い息切れや動悸など、ちょっとした症状も見過ごさないようにするとともに、自己検脈や家庭用心電計を用いて心電図を測定するのもよいでしょう。
心房細動の疑いがある人を対象に、連続心電図による不整脈検出率を1日と14日間で比較した研究によると、1日では9%、14日間では66%と大きく差が出たほか、心房細動の検出率も1日で3%、14日間で19%と、期間が長いほど検出率が上がることがわかっています3)。長く、そして多く計測することが、検出率を上げるためのポイントといえます。
ほかに、高血圧を合併している人は心房細動の検出率が高い4)という最新の知見もあり、早期発見につなげるためにも、注意してみていく必要があると考えます。
病院受診時のポイント
検脈や心電計で異常が認められても、症状がないために受診する必要性を感じなかったり、受診をためらったりする場合があります。軽い息切れや動悸の症状を見過ごしているうちに、徐々に身体が慣れてしまうケースも少なくありません。心房細動は症状の有無にかかわらず脳梗塞のリスクが高いため、早期発見で終わらせるのではなく、病院受診につなげることが大切です。病院受診時のポイントは次のとおりです。
• 症状があったときは、偽陽性を減らすため、家庭用心電計でなるべく多く記録する
• 家庭で記録した心電図があれば持参する
•家庭用心電計だけでは確定診断できるとは限らないため、自己判断はせずに病院を受診し、確定診断をつける
2022年に改定された『不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン』でも、スマートフォンやスマートウォッチを用いた心電図記録で心房細動の検出率が向上する可能性があるとする一方で、「このような新しい心電計を用いての心房細動の検出においては、現時点では多くの制限および課題があり、診療において活用できる状況ではない」としていることからも5)、自己判断は避けて、病院を受診して確定診断をつけることが重要といえます。
心房細動の主な治療法
病院受診後、医師から治療法を提示します。心房細動の治療には、抗不整脈薬の服用とカレーテルアブレーションの大きく2つがあります。
抗不整脈薬は、心房細動を抑える目的で使用され、早期の段階で用いることでより効果が期待できます。薬剤による治療で効果がみられない場合は、カテーテルアブレーションが行われます。カテーテルアブレーションは、カテーテルを足の付け根から心臓まで入れ、異常な電気信号を出している部位を焼灼する方法で、根治を目指せます。ただし、約30%の患者さんに再発リスクがあり、そのうち約半数以上が無症状のため、術後も持続的なモニタリングが必要です。
引用文献
1)Senoo K,et al:Progression to the persistent form in asymptomatic paroxysmal atrial fibrillation.Circ J 2012;76(4):1020-3.2)Ohsawa M,et al:Rapid Increase in Estimated Number of Persons with Atrial Fibrillation in Japan: An Analysis from National Surveys on Cardiovascular Diseases in 1980,1990 and 2000.Journal of Epidemiology 2005;15(5):194-6.
3)Su-Kiat Chua,et al:Comparison of Arrhythmia Detection by 24-Hour Holter and 14-Day Continuous Electrocardiography Patch Monitoring.Acta Cardiol Sin 2020;36(3):251-9.
4)SenooK, et al:PLoSONE 2022;17(6):e0269506.
5)日本循環器学会,他:2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン.p.73.(2022年11月1日閲覧)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf