低カルシウム血症・高カルシウム血症|原因・症状・治療のポイント
- 公開日: 2014/7/30
カルシウムの調整機序 3つのポイント
ポイント1 Caイオン上昇が細胞の機能を調整
体内におよそ1kgあるCaは、99%以上が骨や歯に貯蔵され、1%弱が心筋・骨格筋、細胞外液などに存在しています。
このCaの役割には、
- ●骨や歯の構造と機能を支える
- ●細胞膜を安定させて細胞膜でのNaの透過性を低下させる
- ●シナプスからの神経伝達物質の放出に関与
- ●心筋・骨格筋収縮の促進
- ●血液凝固の活性化
などがあります。
細胞外のCaについては、正常な血清Ca濃度は10mg/dl前後です。血清Ca値は、mg/dlとmEq/lの2通りの表現がありますが、数値はmg/dlがmEq/lの2倍に相当します(8.5~10.5mg/dl→4.2~5.2mEq/l)。
一方、細胞内のCa濃度は0.001mg/dl(100nmol/dl)と、細胞外濃度よりかなり低くなっています。細胞膜を介して生じているこの濃度勾配によって、細胞内のCaイオンの濃度の一過性の上昇がシグナルとなり、細胞のさまざまな機能の調節が行われます。
Caイオン自体は細胞毒であるため、細胞内での濃度上昇が持続すると細胞機能が低下して細胞が壊死してしまいます。そのため、細胞内のCaイオン濃度は、極めて低く、かつ狭い範囲で厳密にコントロールされています。
ポイント2 腸吸収と腎排泄でCa濃度は調節される
体内のCaの調節にかかわる器官で重要なのが、小腸、腎、骨、副甲状腺の4つです。
Caは通常、1日に1000mgのCaを経口摂取しており、小腸の腸管でその20%が吸収されます。これに対して、出口の役割を果たしているのが腎臓です。
腎臓では1日に8000mgのCaが濾過されますが、近位尿細管でそのほとんどが再吸収された後、遠位尿細管でも再吸収されます。ここで再吸収された量が尿中に排泄されるCaの量となるのですが、その量は腸管から吸収された量とほぼ同量の100~200mg程度になります。
骨からは1日に500mgのCaが細胞外液へと移行し、同時に骨形成のために500mgのCaが細胞外液から骨へと移動しています。こうした体内のCaの調節の舵を取っているのが、副甲状腺ホルモン(PTH)と活性型ビタミンDです。
ポイント3 副甲状腺ホルモンの働きが要になる
PTHには、細胞外Caイオン濃度を感知するセンサーの機能が備わっており、Caイオン濃度が低下すると、PTHの分泌が亢進します。そして、腸管でのCa吸収を刺激、腎臓での再吸収の促進、骨吸収の促進によって、Caイオン濃度を補正・適正に保持します。
逆に、Caイオン濃度が上昇すると、PTHの分泌が抑制され、骨からのCaの放出や腎臓での再吸収、腸管からの吸収が減少します。それによって正常濃度へと調節します。
また、ビタミンDは腸管でのCaとPの吸収を促進、腎臓の遠位尿細管でのPTHの作用を促進し、PTHと連携してCaイオン濃度を維持します。
従って、PTHと活性型ビタミンDのいずれかに異常がみられると、Caイオン濃度の平衡は崩れてしまいます。前述したように、イオンバランスが崩れると細胞機能が低下するため神経細胞や平滑筋細胞、横紋筋細胞などの膜興奮を障害し、神経・筋症状が出現します。
薬剤性のカルシウム異常の原因薬剤
低カルシウム血症
低カルシウム血症の原因
血清Ca濃度が8.5mg/dl未満、血清イオン化Caが4.5mg/dℓ未満となると、低Ca血症とされます。
体内のCaが減少するのは、Caの摂取不足や腸管からの吸収不足、摂取量を上回る過剰なCa排泄などがあります。
通常、体内のCaが減少するとPTHと活性型ビタミンDの作用によってCaの吸収が亢進されて、血清Ca濃度が補正されます。しかし、その調節因子であるPTHや活性型ビタミンDが作用不全になると、調節がきかなくなり低Ca血症が起こります。
低カルシウム血症を呈する病態
低カルシウム血症の症状
低Ca血症では、細胞膜のナトリウム透過性を上げるため、細胞膜の興奮性が高まり神経・筋に影響を与えるほか、腸蠕動の亢進、心収縮の低下などがみられます。
主な症状としては、知覚異常、手指・口唇のしびれ、筋攣縮、テタニー、急な腹痛や下痢、過換気症候群、不安、イライラ感、パニック障害などがあります。
テタニーとは、末梢神経筋の強い拘縮症状です。手足の痙縮が数日間続くようなら、低Ca血症が疑われます。
また、低Ca血症ではQT間隔延長、ST部分の延長という特異的な心電図上の変化がみられます。このとき、呼吸困難や喘鳴を伴う喉頭痙攣、気管攣縮がみられると呼吸停止につながる可能性もあるので、緊急な対応が必要になります。
低カルシウム血症による心電図変化
このほか、テタニーを確認する方法としては、上腕圧迫後のトルソー徴候、耳側の顔面刺激によるクボステック徴候などが、ベッドサイドでのアセスメントに役立ちます。
テタニーの確認方法
低カルシウム血症の治療ポイント
低Ca血症は、薬物療法と食事療法で必要なCaとビタミンDを摂取できるようにします。急性の低Ca血症では、Caの静注投与を行います。
このとき、低Mg血症を合併している場合には、Caだけでは反応しないことがあるのでMgも補充します。
慢性の場合にはCa製剤やビタミンD剤の経口投与で改善を図ります。必要に応じて低Ca血症についての説明と栄養指導を行います。
高カルシウム血症
高カルシウム血症の原因
血清Ca濃度が10.5mg/dl以上のときに高Ca血症と診断されます。高Ca血症は、腸管からの吸収と骨から吸収されたCaの量が、腎から排泄される量を上回ったときに起こります。
吸収量が排泄量を上回る原因には、
- ●腸管からのCa吸収の増加
- ●骨からのCa放出の亢進
- ●腎機能低下によるCa排泄の障害
- ●Ca補給剤や薬剤
などによる過剰摂取などがあります。
通常、血清Ca濃度が高くなると、体内でPTHや活性型ビタミンDの分泌抑制、正常濃度に補正されます。
しかし、何らかの原因によって分泌が抑制できなかったり、逆に亢進されると腸管からの吸収、骨からの吸収が増加し、高Ca血症が発現します。高Ca血症を呈する病態には、内分泌疾患、悪性腫瘍によるもの、薬剤性、肉芽腫性疾患などがあります。
高カルシウム血症を呈する病態
高カルシウム血症の症状
高Ca血症の症状には、口渇、多尿、食欲低下、悪心・嘔吐、脱水、筋力低下、不眠、腎機能低下などがありますが、こうした症状は、高Ca血症に特異的な症状ではなく、他の疾患でもみられる症状です。
特異的な変化が表れるのは心電図です。その特徴は、QT間隔とST部分の短縮です。重度の高Ca血症では、心室性不整脈が起こることがあります。
高カルシウム血症による心電図変化
高カルシウム血症の治療ポイント
高Ca血症の治療は、発症原因の除去が基本ですが、身体症状がみられる場合には、Caの排泄を促し、骨からの吸収を抑制するような治療が必要になります。
特に、昏睡や意識低下、中枢神経症状がある場合には、緊急を要します。急性期では生理食塩液に加えてループ利尿薬の点滴によって尿へのCaの排泄を増加させますが、このとき、心負担が大きくなるので心機能には十分に注意します。また、悪性腫瘍の場合には、ビスホスホネートを投薬して骨融解を阻害します。
(『ナース専科マガジン』2014年8月号から改変引用)
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