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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第2回 未だ根治療法のない認知症患者さんに安心を提供するには?

  • 公開日: 2015/6/7

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、病棟業務の中では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならない日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療上の悩みや困難さを訴えるのも勇気のいることでしょう。

そこで今回、患者の病いの語りをデータベース化しているDIPEx-Japanの協力のもと、看護師が患者に対応する上で知っておくべき患者の気持ち・考えを解説します。


認知症患者が言葉にできない感情面を支える

高齢の入院患者さんの中には認知症も合併している人が少なくありません。認知症患者さんは、進行に伴って物忘れをしたり判断力が鈍ったりしていきますが、「物忘れをするから何もわからない人だ」と思うのは大きな誤りです。

57歳で認知症の診断を受けた男性(インタビュー時61歳)

インタビュー動画

体調がですね、急にですね、わたし自身が、非常にあのー、うーん、何ていう言葉でいいですかね……。うーん、どういう言葉がいいかなあ…、急に自分自身が自分でないような感じ。で、何だろうっていうことがよく分からなかった。

そうすると、だんだん、だんだん自分自身が分からなくて、で、わたしは誰なのだ、っていうようなことを考えました。

それと、妻がですね、心配して、どうなったのかっていうことでね、何回も、「どうしたの。どうなったの」、えー、そういうような関係のような言葉をたくさん使われましたね。

だから、わたしがあの、説明しようと思ってもですね、説明ができないわけですよ。「自分がどうなっているか、よくわからない」って言っても、妻もわからないわけですよね。わたし、それがもう本当に、ここにおる、○○は誰なのかっていうような、あー、感じっていうかね、そんなことですね。非常に心細いですね。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 認知症の語り」より

この人は若年性認知症ですが、若年者・高齢者にかかわらず異変に戸惑い、大きな不安を抱えている人がほとんどなのです。言葉で表現されないからといって、何もわからない人だと思いこんでしまわないように、認知症の人に寄り添い、理解力が落ちるほど繊細になっていく感情面を支えましょう。

また、認知症の薬物療法(抗認知症薬)は、認知機能低下の進行を遅らせるだけであり、認知症を治すものではありません。ですから薬物だけに頼るのではなく、できるだけ今までに近い状態で暮らせる期間が長くなるように、「手と目で護る看護」が必要です。

入院という非日常で患者が孤立しないよう配慮する

58歳で認知症の診断を受けた男性(インタビュー時60歳)

インタビュー動画②

アリセプトか何かのんでますけど、……のまなくても間に合うと思うんですけどね(笑)。

でも、1人っていうのが、やっぱり、駄目だと思うんですね。やはり、ま、こういう環境だから、コミュニケーションとる相手がいっぱいいたりとかするから、何ていうのかな、精神的に、あの、リラックスできる町でもあるわけですよね。そういう仲間がいっぱいいるから。ちょっと歩けばね、おう、おう、おうっていうようなね感じの町ですからね。

ああ、そういうことが、あの、ま、進行しているのか進行していないのかよく分らないけど、うーん、…そういう、ま、コミュニケーションをとること自体が、その仲間とコミュニケーションをとることが、そういう病気を少しでも、こう、何ていうんですかね、あの、軽くさせるような効果になる、なるのかな、なんていうふうに思ってるんですけどね。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 認知症の語り」より

今まで仲間とコミュニケーションをとりながら暮らしていた人が、入院という非日常の環境の中で孤独感を募らせていかないように、また、認知症によって生活の質が低下していかないように、看護師は患者さんと触れ合い、目配りし、言語的あるいは非言語的コミュニケーションをとり続けていくことが重要なのです。

そうでなければ、早期発見・早期薬物療法によって、早期に不安を抱かせ、さらに不安な期間を長引かせるという逆効果を生み出してしまうことになりかねません。

さあ、認知症患者さんの目を覗き込みながら微笑みましょう。大丈夫、私が付いていますよというメッセージを眼力で伝えましょう。認知症患者さんに安心を提供するのは、看護師ができるのことの一つです。


健康と病いの語り ディペックス・ジャパン(通称:DIPEx-Japan)

英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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