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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第47回 治療の決め手になるもの

  • 公開日: 2016/10/28

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


患者さんは様々なことを勘案して、治療を決めます。医療者にとって見えやすい、5年生存率などの「エビデンス」や「医師の勧め」、「その施設でその治療ができるかどうか」などが、患者さんの治療選択の決め手になることもあります。しかしその一方で、家族のことや仕事のこと、ご自身の好みなども、治療を決める時には非常に重要な要素です。

本人の好みや価値観を優先して、治療法を決める

この男性は、主治医から80代という年齢を考慮して経過観察か保存療法を勧められたのですが、あえて手術を選びました。

83歳で前立腺がんの診断を受け手術を選んだ男性(インタビュー時87歳)

83歳で前立腺がんの診断を受け手術を選んだ男性の写真
(この語りはテキストのみです。画像をクリックすると患者さんの語りの全文が読めます)

病気と仲よく暮らそう、(自分の)患者さんには、腎臓の病気の人によくそういうことを申し上げるんですけども、自分のがんのときに、がん細胞と仲良く暮らすというのは「江戸っ子の俺に性にゃあ合わねえや」と。(中略)
で、「80歳以上の人の生存率は、手術と他の療法との差がないのは、それは昔の統計であって、今は100歳まで生きる人がたくさんおられるんだから、100歳まで生きた人にがんを切らなかった人と切った人との差がなければ、それは私も承服するけど、ただ単に10年生存率が変わらないというんであれば、それはよくわかりませんから、とにかく私は切ってください」と。「それでは、初めての経験だけども、まあ先輩を立てて切りましょう」ということで、取り除いてくださったんです。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 前立腺がんの語り」より

80代でも現役医師として活躍されていたこの方は、これまで自分がかかわった腎臓病の患者さんに対しては、病気と仲良く過ごすことを勧めてきました。しかし、自分がいざがんになってみると病気と仲良く暮らすのは「性に合わない」と言い、手術を希望されています。江戸っ子の気性に合わないという理由もあります。また、80歳以上では手術しなくても生存率に差がないというエビデンスは単なる一般論に過ぎず、ご自身のような元気な(「100歳まで生きる」可能性のある)高齢者には当てはまらないと考えたからです。

61歳で前立腺がんの診断を受け、小線源療法を選んだ男性(インタビュー時62歳)

61歳で前立腺がんの診断を受け、小線源療法を選んだ男性のインタビュー動画

もう、予約をずうっと入れちゃっているんですね、私の仕事の場合は。予約が1年先まで入っている。そうするとね、摘出手術だと1ヶ月。それからその先、おしっこがうまく止まらない、というようなことは、ちょっと耐えられないし、考えられないのですよね。そうすると、日常の仕事を続けていきながらというのはもう絶対考えなきゃいけない選択肢でした。
それでやれるのは何だろうか。そうなると放射線が出てくるわけですけども、外から照射をしてもらう、位置決めをして…何十回と通わなきゃいけない。連続してね、毎日照射しなきゃいけないよということがありますのでね。中途半端に仕事を続けるということできない状況なわけですから、「廃業しました」はまだ言いたくない。とすると、数日仕事を休むだけで、そのまま社会復帰できる。平常どおり、今までどおり仕事を続けられることっていうのは大事だよね、ということなんですね、はい。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 前立腺がんの語り」より

この方にとって治療選択で重要だったのは、「今まで通り仕事が続けられること」でした。この中では触れられていませんが、本を読み、複数の医師の意見を聞いたうえで、経過観察も含めた複数の選択肢の中から、ご自身の仕事を優先した治療選択をされています。

お二人のように、治療の選択には、様々な要素が関係してきます。生存率などのエビデンスも重要ですが、ご本人の好みや、仕事・家族など生活に関する希望が治療の決め手になることもあるでしょう。看護職は、ご本人が大事にしたいものが治療選択に反映されているか、多様な視点から意思決定を支援することが求められています。


「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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