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肺がんゲノム医療の新たな展開 ~RET融合遺伝子陽性肺がんに対する新薬の登場~

  • 公開日: 2022/6/8

肺がんゲノム医療の新たな展開~RET融合遺伝子陽性肺がんに対する新薬の登場~

国立がん研究センター東病院 呼吸器内科 後藤功一先生

 肺がんは、日本における部位別がん死亡数の第1位です。患者数が多いことで分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬などの治療が進歩してきましたが、肺がんはまだまだ難治性のがんといえます。RET融合遺伝子は非小細胞がんの希少性ドライバー遺伝子です。今回、このRET融合遺伝子に対する治療薬が日本で初めて承認されました。

肺がんの分類

 肺がんは小細胞肺がん(15%)と非小細胞肺がん(85%)の2つのタイプがあります。非小細胞肺がんは、さらに腺がん(60%)、扁平上皮がん(20%)、その他のがん(5%)に分類されます。喫煙と関連性が高いのは小細胞肺がんと扁平上皮がんです。一方、RET融合遺伝子は主に腺がんの病理組織からみつかっています。

肺がんの治療法

 肺がんは、まず上肺野に原発巣ができ、そこからリンパ節や血液を介して頭、肝臓、骨、副腎などに遠隔転移を起こします。基本的に、肺がんの根治を狙う場合にはできるだけ無症状あるいはリンパ節転移がない段階で発見し、がんを切除することを目指します。がんがリンパ節までに限局している場合は、手術や放射線療法といった局所療法が有効です。ただし、手術のみとするのはごく早期のがんに限られており、大抵は全身療法として薬物療法を併用することが一般的となっています。

遠隔転移をしてしまったいわゆるⅣ期の肺がんの治療法は薬物療法です。
①殺細胞性抗がん剤:シスプラチンやカルボプラチンなど
②遺伝子解析に基づいて対象を選択する分子標的治療薬
③免疫チェックポイント阻害薬(免疫療法)

 RET融合遺伝子は②の分子標的治療薬を用いて治療します。がん細胞を採取し遺伝子解析すると、さまざまな遺伝子変化が多数見つかります。遺伝子変化でもっとも重要なのはドライバー遺伝子です。ドライバー遺伝子の変化によって細胞核にシグナルが発信され、細胞が無制限に増殖します。この増殖スピードが上がると、遺伝子の複製エラーも起きやすくなり、さまざまな遺伝子変化を誘発します。がんの発生、増殖、生存に直接関連しているため、がん治療の際はこのドライバー遺伝子をターゲットとした治療をする必要があります。

 これまで、肺がんの治療法は病理組織診断の結果に基づき化学療法を行っていました。しかし、非小細胞肺がんに抗がん剤のみの治療法を選択した場合、生存期間の中央値は1年程度と非常に不十分な治療であったことがわかっています。

 20年来の研究の末、非小細胞肺がんの6割を占める腺がんはさまざまなドライバー遺伝子が原因で発生しているということが明らかになりました。そのため、腺がんではまず遺伝子変化を確認し、それぞれの変化に対応する分子標的治療薬を選択して治療を行います。これを個別化医療、ゲノム医療、プレシジョンメディスンといいます。

 アジア人における遺伝子変化の内訳は、EGFR変異が50%、KRAS変異が10-15%、ALK遺伝子が3-5%です。1~2%の頻度で起きる希少な遺伝子変異に対しても基礎研究の段階では有効な治療薬の予測はついていましたが、頻度が少ないため臨床への応用は非常に難しいという実情がありました。

LC-SCRUM-Asiaという取り組み

 現在、肺がんは他のがん種に比べると非常に個別化が進んでいます。しかし、希少肺がんのように対象が少なければ臨床試験の実施が難しく、臨床試験が行えないと科学的な有効性が証明できません。結果として、治療開発が進まず患者さんに治療薬が届きにくくなります。製薬会社としては、症例数の少なさなどさまざまな理由から治療薬の開発が進んでいませんでした。医師主導治験として進める手立てもありましたが、時間や金銭的な制限がありこちらも困難を極めました。そこで、2013年2月、LC-SCRUM-Asia(当時はLC-SCRAM-JAPAN)の活動を始動しました。

 LC-SCRUM-Asiaの活動目的のひとつは、有効な治療薬を患者さんへ届けることです。希少がんの遺伝子スクリーニングを行い、遺伝子解析の結果に基づいた治療開発やコンパニオン診断薬の開発サポートを行っています。

 現在の参加施設は非小細胞肺がんのスクリーニングで178施設、2019年からは台湾の6施設も参加し、現在は国際的な遺伝子基盤として東南アジア各国、オーストラリア、中国とも連携しながらスクリーニングを実施しています。2021年10月31日現在、肺がん患者さんの登録は14577例にのぼり、遺伝子解析を通して個別化医療の確立に貢献しています。

 7213例の非小細胞肺がん次世代シークエンサーの解析結果をみると、主に腺がんの約7割の患者さんに何らかのドライバー遺伝子が見つかっています。RET融合遺伝子は2%にとどまっており、実臨床の検体を預かっても頻度は少ないです。

RET融合遺伝子の特徴

 RET融合遺伝子とは、10番染色体上にある遺伝子です。この遺伝子が途中で切れ、主にKIF5BやCCDC6などのパートナー遺伝子と融合します。融合することで活性化し、異常なタンパクを生み出します。RET融合遺伝子陽性の肺がん患者さんの特徴は、若年者(年齢の中央値が63歳、20~30代にもみられる)、男性よりも女性、喫煙者よりも非喫煙者に多い傾向にあります。

新薬:レットヴィモ(セルペルカチニブ)

 セルペルカチニブはRET融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対する、世界で初めて承認された治療薬です。奏効割合は未治療例に対して70.5%、既治療例に対して56.9%で、中枢神経系への転移に有効性が示されており、QOLの改善にも効果を認めています。外来での内服で治療を行います。主な副作用は高血圧、肝機能障害、皮疹などで、ほとんどがグレード2以下と患者さんのQOLが保たれます。そのなかでも、セルペルカチニブ特有の過敏症をマネジメントすることがこの薬剤の効果を最大限に引き出すには大切だと考えられます。


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