第1回 はじめてがんの告知を受けた患者さんの気持ちとは?
- 公開日: 2015/5/31
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、病棟業務の中では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療上の悩みや困難さを訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで今回、患者の病いの語りをデータベース化しているDIPEx-Japanの協力のもと、看護師が患者に対応する上で知っておくべき患者の気持ち・考えを解説します。
がん患者が感じるショックや怒りの理由
がんをはじめ、重大な病気であることを伝えられた患者さんに接するとき、どんな注意が必要でしょうか。
病気の受け止め方はひとさまざまです。その人の年齢や職業、経済状況、家庭内での役割、病気についての知識やそれまでの人生経験、性格によっても反応は違います。重大な病気であればあるほど、患者さんは大きなショックを受け、頭の中は真っ白になって何も考えられなかったという話をよく聞きます。
そんなときに患者さんに寄り添って、不安や恐怖を和らげるのは看護師の役割です。
27歳で乳がんの診断を受けた女性(インタビュー時33歳)
診察室の外に出て、初めて、先生もいなくなったので、1人に病室になって。そのときに、すごい恐怖がおそってきて、なんて説明していいかわからないんだけど。その手足がかたかた震えだして、涙はやっぱり出ないんですけども怖くて怖くって、もう手がすごく震えだしたのを覚えています。
で、そうしていたら、看護師さんが入ってこられたので、少し、ほっとして。
あ、看護師さんがきっと慰めてくれるんだろうと思って、期待して待っていたんですけど。
「10日後に手術がもう決まりましたので、今から入院説明を始めます」っていう。
「大丈夫ですか?」の一言もなく、ほんとに淡々と説明が始まったので、自分も「はい、はい」って聞いてはいたんですけど、全く頭に入らなくて。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 乳がんの語り」より
これから受けることになるさまざまな検査や治療の手順、注意事項など、看護師が説明しなければならないことは沢山あるのですが、まずは、ご本人がその病気をどのように理解し、受け止めているか、一人ひとりの表情や言葉を見極めた上で、どんな言葉をかけたらよいかを考える必要があります。
支えてくれる家族や友人も周囲にいない病室で、ひとり不安や恐怖と闘っている患者さんの様子を想像してみて下さい。中には、不安だけでなく、持って行き場のない怒りに駆られる人もいます。
38歳で乳がんの診断を受けた女性(インタビュー時42歳)
いったんはそのがんっていうことは一応は受け止めて、受け入れてるんですけれども、ショックっていうものよりも今度はだんだん腹立たしさが襲ってきたんですね。
で、それは何に対してかって言えば、やはり“なんで自分ががんに、それもすごくボディダメージを受ける乳がんにならないといけないんだ。ならなければ私は今でも全然普通に、普通の生活をしている”。
で、おまけにやっぱり経済的なことも出てきますよね。お金もかかるし、仕事も復帰できるかどうかわからない。
・・・その先が見えないんですよね。そうなると不安も襲ってきますし、なんかがんに対して腹が立ってくるんですよね。でも当たるところがないんですよ。どこに当たったらいいかわからなくて。
で、こう、それも突然襲ってくるんですよ。普通に何かをしていて、急に頭をこう、「がん」というものがよぎって、急に腹が立つんですね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 乳がんの語り」より
こうした怒りの矛先は、ときに医療者に向けられることもあります。ほんの些細な手違いで生じたトラブルをきっかけに激しい攻撃を受けることもありますが、そんなときにも患者さんのやりきれない思いを理解すれば、それを柔らかく受け止める知恵も生まれてきます。
怒りはあなた個人に向けられたものではないことを理解し、患者さんの心の奥底にある苦悩に耳を傾けてみましょう。怒りを受け止める仕事も、私たち医療従事者に与えられた役割の一つなのです。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。