第3回 乳がん患者さんが抱える妊娠・出産に関する悩みとは?
- 公開日: 2015/6/14
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、病棟業務の中では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療上の悩みや困難さを訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで今回、患者の病いの語りをデータベース化しているDIPEx-Japanの協力のもと、看護師が患者に対応する上で知っておくべき患者の気持ち・考えを解説します。
挙児希望を確認し、妊孕性温存方法などの治療情報を伝える
22歳で若年性乳がんと診断された未婚の女性(インタビュー時25歳)
将来に対しては、やっぱ若いので結婚して子どもを産めたらいいなっていう気持ちはすごくあるんですけれど、治療で子宮(卵巣)の機能を低下させてしまったので、ちょっと生理とかも不順なので、妊娠がやっぱりできるのかなあとか。
あと、先生からもやっぱ薬の影響がどのくらい子宮とか、卵巣に影響しているのかはちょっと目で見てわからないから、妊娠したとしても、順調にこう妊娠、出産っていかない可能性があるから・・・。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 乳がんの語り」より
28歳で乳がんと診断された既婚の女性(インタビュー時34歳)
やっぱり抗がん剤をしてしまうと、その卵巣の生殖器の方にやっぱり影響があるということで、「じゃあ、どうする?」ってなった時に、若いから、このまま閉経するということは年齢が上の人に比べたら少ないだろうけど。
でも、(病気になる前に)ちょっと、子どもがなかなかできにくいことがあって、病院に通ってたりもしたので、もしかしたら、(卵巣の)働きが弱いかもしれないから、やっぱり抗がん剤で弱いところを叩かれてしまって。
で、(治療を)やった後に駄目になっちゃったで後悔するよりは、「卵子の凍結保存っていう方法もあるよ」っていうことを教えていただいて。で、もうそれは、やったほうがいいなと。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 乳がんの語り」より
未婚・既婚、子供の有無に関わらず、生殖年齢にある乳がん患者さんは、妊娠・出産に関する不安や気がかりを少なからず抱いていると思われます。
がん治療による妊娠・出産や子供への影響を危惧されている場合もあり、適切な情報提供が必要です。またこのような問題には、同病者とお話しすることで癒される場合もあるので、患者会などの情報提供や退院後も看護師が相談にのることができるということも伝えておくとよいでしょう。
近年、生殖年齢にある乳がん患者さんに対し、化学療法前やホルモン療法前に妊孕性温存方法(卵子・受精卵・卵巣組織凍結保存)を実施することが可能となっています。
手術で入院した生殖年齢にある方が、外来で挙児希望の確認がなされているのか、挙児希望のある方が妊孕性温存方法について説明をうけているかどうかは必ず確認しておく必要があるでしょう。そして説明がなされていない場合は、退院前に主治医にも相談し、化学療法前やホルモン療法前に生殖医療専門医にコンサルテーションできるように準備した方がよいでしょう。
妊孕性温存方法は、妊娠・出産を保証するものではなく、必ず実施したほうがよいというものではありませんが、本人やパートナーが適切な情報を得て、納得した意思決定ができるよう支援する必要があります。
日本がん・生殖医療研究会のホームページに妊孕性温存についての基本知識や妊孕性温存について相談できる医療機関が紹介されていますのでご覧ください。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。