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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第11回 インフォームド・コンセント:自己決定の条件

  • 公開日: 2015/10/22

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。

そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


真の“自己決定”とは?

患者の意思、「自己決定権」を尊重することの大切さに異を唱える人はいませんが、現実の場面では、患者さん本人も判断に悩むことがしばしばあります。

インフォームド・コンセントという言葉は、この国にもすっかり定着したように見受けられますが、その決定が本当に患者さんの意思に適っているのか疑問を感じることも少なくありません。真の自己決定を実現するためにはどんな注意が必要でしょうか。

60歳で乳がんと診断された女性(インタビュー時62歳)

インタビュー動画

私の中では「そんなに、抗がん剤の治療って必要なのかな?」っていう思いがすごくありまして、(中略)最初、私は、「したくない」っていうふうに言ったんです。そしたら、お医者さんが「じゃあ、まあ、とにかくご家族と相談してきてください」って言われて。

それで、家族に言いましたら、主人と娘はやっぱり「やるだけのことはやってほしい」って言うんですね。で、それはやっぱり、「やらなかって再発したときにね、『あんときやらなかったから』っていう気持ちが残る」って言うんですね。

まあ、考えたらそうですね。私は先に、死ぬわけですから、私自身は自分で納得して死ねますけれども、残された家族は、やっぱり思い、引きずりますよね。私が父に、「(がんだったと)言ってあげられなくてごめんなさい」っていう気持ちをやっぱりずっと引きずったような気持ちをね、やっぱり家族に持ってほしくなかったっていうのがありまして。で、「じゃあ、もう頑張る」っていう感じで、抗がん剤の治療を受けることにしたんです。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より

自分の本心はこうなのだけれども、家族の気持ちを思うと別の選択をしてしまう。

それはまた、自分がかつて父の死を体験したときの後悔にも連なり、残される家族のために自分の気持ちを抑えて、頑張ろうと思う――この短い語りの中から、私達はどんなことを読み取る必要があるでしょう。

複数の選択肢をぽんと提示するだけで、あとは患者の「自己決定権」に任せれば患者中心の医療が成立するという考えはどうみても単純に過ぎます。

患者が最良と信じる選択をし、まわりの家族は皆、その気持ちを大事にしてこれを支えるという構図がいつでも用意されているわけではないからです。そのため、それぞれの選択肢のメリット・デメリットをできるだけわかりやすく説明し、患者とその家族が理解を共有できることが適切な選択を行うための必要条件です。

不安や迷いの中から、患者とその家族が納得の行く意思決定が行えるよう、面談を繰り返し、周りから支える体勢を作ることが真のインフォームド・コンセントを実現するためには必要なのです。

SKさんの語りは、また、家族と患者の関係についても考えさせます。

私達はしばしば、介護する者(強者)・される者(弱者)という単純な図式でとらえがちですが、SKさんのように患者のほうが家族を思いやって選択を変える場合もあります

患者と家族の意向や目的は必ずしも合致すると限りません。

そこにはさまざまな思惑と感情が交錯しますから、そんなときには第三者としてどのように関わるべきか家族関係に配慮しながら助言をする必要があります。

家族を含めた周囲との人間関係が、その人の「自己」を形作っているわけですから、側面から柔らかく「自己決定」を支援する工夫が必要かもしれません。

「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)

会社紹介

英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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