第20回 患者さんの家族内での役割―「父・夫・息子」として、抱えていること
- 公開日: 2015/12/24
- 更新日: 2021/1/6
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
診断をうける。入院する。外来治療を始める・・・。治療の過程の折々で、患者さんの日常は変化を余儀なくされます。その影響は、患者さんの家族にも及ぶ可能性があります。
目の前の患者さんだけでなく、患者さんの家族の暮らしにも、目を向けてみてください。ごく当たり前のことですが、病院を出て家に帰れば、その人は「患者」ではなく、さまざまな役割を担う、かけがえのない家族の一人なのです。
ここでご紹介する前立腺がんの患者さんも、ご自分の病いを抱えながら、父として、夫として、息子として、病気や障害を抱える家族を支えるキーパーソンになっています。
変わりつつある男性の家族内での役割
68歳の時に前立腺がんと診断され、治療を受けた経験のある男性(インタビュー時70歳)
ちょうどそのもう(自分が)手術をしなきゃならない、いうときに、実は母が、あの、介護で、そのデイサービスとか行っていますよね。そのときに、ちょっと血を吐いたりして、救急車で運ばれて行って、それで、救急車で病院に入って、病院の方で、「自分とこは」、あの僕もびっくりしたんですけども、あの、「介護できないから家族で、夜もずっとみとってくれ」という話だったんですよ。
それで、わたしも救急車で一緒にいきまして、そのままそこで付いて寝ると。で、もう年寄りですからねえ。痴呆もちょっとはいっていますし。介護するなり、ま、わからんからもう、点滴のチューブ引っこ抜いたり 目が離せないんですよ。それで、ウトウトっとしたときに、抜いてしまったりとかあってね、大変だったんですよ。
それで、まあ、わたしも、あの、手術をせないけんという直前いいますかね、状況ですので、あの、ま、本人は、あまりその自覚はなかったんですが、ちょっと、発疹が出たんですよ、わたしに。そうして、皮膚科に行ったら、あの、これは、あの、カタカナでは何か、ひかえていますけどね、カタカナで何とかの、ようするに内出血をして、皮膚ももうこうおそらく体の中はみんなそういう状況だろうと。だから、安静にしとかんといかんと言われたんですよ。いや、安静にしとけ言われても、安静にしとられる状況じゃないと。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 前立腺がんの語り」より
この方は、自分自身が病気を抱え、これから手術を受ける身として体調を整えなければならないそのときに、老親の急病と介護で、ストレスから体調を崩してしまいました。
このように、ときにのっぴきならない事情で、患者さんは病気を治すことを中心にすえた生活や行動を、とりたくてもとれない場合があります。
73歳の時に前立腺がんと診断され、治療を受けた経験のある男性(インタビュー時76歳)
あの、娘がね、あの、知的障害がある。で、まあ、軽度の知的障害がありましてね。で、この子のことがやっぱり一番気がかりですよね。
で、まあ、入院したときもそうだったし。それから、まあ、もしね、自分が2年かそこらしか余命がないなんてことになったら、それはもう大変だなというふうにね、こう思いましたですね。
今でもやっぱり一番気がかりなのは、やっぱり親亡き後の、それも現実の問題として、もう本当にどれぐらい後、余命があるのかなというふうにも思うんですけども。もうこれはPSAの数値いかんで(笑)考えなきゃいけないことなんですけれどもね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 前立腺がんの語り」より
家族のケアの担い手というと、女性を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
超高齢化社会を迎え、すでに介護者の3人に一人が男性となっている今、このお二人のように、高齢の親の介護を担っていたり、障害を抱えた子どもの生活を支えたり、ケアの中心的な役割を果たしている男性も珍しくありません。
その人が家族内でどのような役割を果たしているのか。介護や支援を必要としている家族はいないか、目を向けてみてください。場合によってはソーシャルワーカーやケアマネージャーなどの他職種と協働する必要があるでしょう。
患者さんが安心して療養できるよう、患者さんと家族の双方に関心を向け、必要な支援をしていくことが大切です。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。