第22回 子どもに“がん”をどう伝える?
- 公開日: 2016/1/14
- 更新日: 2021/1/6
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
子育て中のがん患者は5万人を超え、親ががんである子どもの数は8万人を超えています。2014年からがん教育総合支援事業(文部科学省)が始まり、子どもへのがん教育が推進されています。しかし、親は子どもに自分の病気を伝えることに悩み、その伝え方も様々です。
子どもに“伝えても” “伝えなくても”、揺れる親の心
子どもにがんのことを詳しく話していない乳がん再発治療中の母親(インタビュー時47歳)
―お子さんには、今はどういう形で伝えてらっしゃるんですか?
ええ、毎週病院に行ってますから、「じゃあ、お母さん、病院行ってくるね」って言って、もう病気のことで、治療でもう髪の毛も抜けちゃっているし、お金もかかって大変なんだっていう話をしているんですけれども、こう、きちんと「乳がんだから」「転移しているから」っていうのは、実はちゃんと話してあげたことはないんですね。
ただ、がんセンターに電話をかけたり、ほかの病院に治療の話を電話で話したりしているのは聞いているんで、分かってはいると思うんですが、ちゃんと話したことがないです。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より
インタビュー当時、お子さんは中学生と小学生高学年ですが、生まれた頃から母親は乳がんの治療をしていたので、病院に通う姿が当たり前のようになっていたようです。
母親としては、改めて話していないけど…、わかっているとは思うけど…、話した方がいいかなと思いつつタイミングを見ているうちに…、という感じだったのかもしれません。残念ながら、この方のインタビューからは子どもたちが実際どのように理解していたか、どんな気持ちだったかはわかりません。
病気のことを小学生と中学生の子どもに話した乳がんの母親(インタビュー時40歳 )
子どもたちにも、ちゃんと言おうと思って、子どもたちにもちゃんと話をして、で、お兄ちゃんは「そう」みたいな感じだったんですけど、小学生の子に話したときに、すごいなんかこう、静かに泣いたんですね。ぽろぽろぽろぽろって。あー、この子こんなふうに泣くんだーと思って、やっぱりすごいショックだったんだろうなって思って。
で、ちょうど今(2008年当時)流行ってます、『ホームレス中学生』を読んだすぐで、あれお母さんがちょうどがんで亡くなるんですよね(笑)。それがちょうどかぶさっちゃったのかな、「死んじゃうの?お母さん」って言われて、「死なないようには頑張るよ」みたいな感じで話はしたんですけど。「絶対死なないよ」とも言えないんですよね、これがなんか、私。
なんでだろうと思いながらも、うーん。「絶対死なないから」とも言えなくて、「頑張るからお母さん」、とか言って、は言ったんですけど。ねえ、そうですね、家族にはそんなふうに伝えましたね、子ども、協力をしてもらわないといけないからですね、お兄ちゃんたちにも。でした。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より
2人目の方は、授乳期に乳がんが見つかり、ほかにも中学生と小学生の子どもがいました。「すぐに生活にいろんな変化が起きるから話さずにはいられない」という思いがあり、ご自身の病気を子どもに伝えようと心に決めたのではないかと思います。そして、話した後の子どもの反応や気持ちに気づいています。また、その時のご自身の気持ちについても語っています。
患者さんの中には、子どもへの伝え方に悩み、「伝えた後どうしよう」「伝えることで子どもを傷つけてしまうんじゃないか」と心配している方もいるようです。罹患の状況、罹患した時の家族の状況、子どもの発達段階は異なります。まず、看護師は患者が子どもに伝えることについてどのように考えているのか、患者の気持ちを知ることからはじめてみましょう。
子どもは大人の想像以上に困難に立ち向かう力をもっています。親の病いを伝えられた子どもはその子なりに理解し、よきサポーターとして親を支える存在になってくれるでしょう。日本ではNPO法人Hope Treeや全国8カ所の医療機関で多職種が連携し、がん患者とその子どもを支援する活動が始まっています。
親の悩みや迷い、揺れる思いに心寄せつつ、親子が共に生活していくことができる社会をめざして、看護者としてサポートしていきたいですね。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。