【5】パワーハラスメント(パワハラ)③ 個の侵害│ハラスメント対処のポイント
- 公開日: 2019/9/21
「余計なお世話」と感じたら個の侵害
「こんなことで辞めてたら、どこに行っても勤まらないよ。前のところもどうせ何かあって辞めたんでしょ?」。これは筆者が独立したてのころ、アルバイト先の訪問看護ステーションの所長に、本当に言われた言葉です。
そのころ、月に何度か研修や講演の依頼があったものの、それだけでやっていく自信がなかったため、訪問看護ステーションでアルバイトをしていました。数カ月後、筆者が書いた本が3冊同時に出版されたころから研修依頼が多くなり、アルバイトを続けていけなくなったため退職を申し出たところ、所長から冒頭のように言われたのです。
日頃は、優しい所長だったため、「ずっと私のことをそんなふうにみていたのか?」と思うと、非常にがっかりしてしまいました。
ほかにも、こんなことがありました。患者宅へ先輩と同行したとき、先輩がご家族と話をしていたので、ニコニコうなずきながら話を聴いていたら、帰り際に「もっと自分からぐいぐい行かないとダメだよ。施設内看護と違って、訪問は最後にお金をもらって帰ってこなきゃいけないんだから」と注意を受けました。先輩が話している間に割り込むのも悪いと思っていただけなのですが、退職時に所長からも「奥山さんは、コミュニケーションにも課題があるから、本当はここでみんなに育ててもらえばいいのに……」と言われたのです。もはやショックを通り越して、「人はいろいろな見方をするものなんだな」とおかしくなってしまいました。
退職の日、「お世話になりました。これからはコミュニケーションを教える仕事をしていきたいと思います。よりよい職場内コミュニケーションの参考にされてください!」と、出版された3冊の本と研修のチケットを手渡すと、所長は目を丸くしていました。ほかのスタッフもヒソヒソと「あれ?そういえば、どこかの雑誌でみたことある」と言っているのを横目に、ステーションを後にしました。
また、東京の看護学校に勤めていたときには、鍵を忘れてよく職員室にくるわが子をみて、「お子さん、なんか変わってるよね。障害でももってるの?」と、先輩にあたる人が失拗に言ってきて、とても不愉快な思いをしました。
どちらも今考えれば、個人のプライバシーに入り込んでくる、いわば余計なお世話であり「個の侵害」です。つまりパワハラだったわけです。
その当時は、パワハラという概念が浸透していなかったため、悶々として眠れない日々を過ごすしかありませんでした。それだけに、この数年でパワハラの概念が浸透し、職場環境をよくしていこうというムードが社会全体に高まってきていることにうれしくなります。
(ナース専科2018年6月号より転載)