【10】マインドコントロール(否定的ダブルバインド)│ハラスメント対処のポイント
- 公開日: 2019/10/26
パワハラの域を超えたマインドコントロール
逃げられない関係においては、人は相手の矛盾にたやすく洗脳されます。逃げられない関係とは、親や先生、恋人や親友といった簡単には否定したり関係性を切ることができない相手のことです。
筆者の母は、感情の起伏が激しく、あきらかに不機嫌だということがよくありました。眉間にしわが寄っていて、部屋の扉をわざとバタンと閉めたり、飼っている犬を大声で叱ったりするので、「怒っているの?」と聞くと、「怒ってなんかない」と言うのです。怒らせたのならば、謝ったり解決に向けて動いたりできますが、母は「怒ってない」のでこちらは混乱します。
「怒っているみたいなのに怒っていない」というように相手の言語と非言語が矛盾しているとき、こちらはなんとか矛盾を解決しようとして「自分が何か気に障ることをしたんじゃないか」と自分を責めるようになります。幼い子どもであれば、「自分が悪い子だからお母さんを怒らせたんだ」と、少しでも母親の機嫌がよくなるように、相手の望むことを自らしようとするようになります。
こうして、人は次第に相手の言いなりになっていきます。「わからないことがあったら自分で判断しないで、何でも相談しなさい」と言ってくれた上司の言うとおりに相談しにいくと、「そんな簡単なこともわからないの?」と否定されたとします。そこで「そうか、簡単なことは相談しちゃいけないんだ」と反省し、できるだけ自分で判断していると今度は「なぜ、相談せずに何でも決めるの!」と怒鳴られたとします。相談しても相談しなくても怒られ、関係から逃げ出すこともできません。
どちらを選んでも不正解で逃げ場もない状況を「否定的ダブルバインド」とよびます。本当は相手が矛盾しているのですが、人の心は矛盾が苦手です。逃げられない関係性の相手から矛盾した命令をされると、人は自分を変えたり責めたりすることで「矛盾ではない」と思い込もうとします。つまり、矛盾した相手を変えるのは難しいために、自分を変えたり責めたりすることで、矛盾を解消しようとするのです。これは「自分の判断能力が低いから叱られるんだ」と自分を責めていれば、相手の矛盾をみなくて済むためです。
これをくり返していると、あなたは悪くないのにどんどんあなたの「自分への自信」は失われます。そして、矛盾した相手に対しての思考が停止し、無批判のまま、矛盾した相手の言うことに従うようになります。このようにして、人は大切な人によって洗脳されるのです。
すぐに断ち切れる関係で洗脳は起こりません。大切な人だからこそ無意識にマインドコントロールされてしまうのです。