患者さんの視点から語る看護師に知っておいてほしい情報とは
- 公開日: 2019/8/13
がんは高齢者だけでなく、現役で仕事をしている年代にも増えています。
同時に、がん治療と支持療法の進歩により、治療と仕事の両立が可能になってきました。
しかし、医療従事者にも、患者さんにも、まだまだ「がん=命にかかわる大変な病気」という意識があるのではないでしょうか。そのため、患者さんは告知されたことのショックで仕事を辞めてしまったり、周りの無理解から仕事を辞めざるを得なかったりする人も少なくありません。
今回は、ご自身もがん患者さんであり、社会保険労務士として、実際にがん患者さんの就労相談にあたっている藤田久子さんに、仕事と両立させながら治療を受ける患者さんの思いや、看護師に知っておいてほしい支援制度について解説してもらいます。
がん治療を経験して感じたこととは
私は、2007年に「左乳がん」と診断されて手術、抗がん剤、ホルモン剤の治療を一通り行いました。
その後、2015年12月に腫瘍マーカーが上がり、 2016年3月に乳がんの遠隔転移(再発)がわかり、「ステージIV」と診断されました。再発してからはホルモン剤、分子標的薬、抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)と、その都度、最適と思われる治療を行ってきました。今も通院治療を行っています。
私は、最初にがんと診断された病院から、現在の抗がん剤治療を行っている病院まで、3つの病院にかかりました。最初が首都圏の国公立系のがん拠点病院、2番目が私立医大系の大学病院、3番目の現在は都内の総合病院です。
がんの初発で手術のために入院したとき、ものすごく不安だったのですが、病棟看護師さんが、私の趣味を聞いてくれたり、「大丈夫ですよ。一緒に治していきましょうね」と言って、寄り添ってくれたことが、とてもうれしかったです。
また、がんが再発してから、2018年に血管留置のためのポートを入れたのですが、留置するときも不安だったのですが、担当看護師さんが、「実は私も治療中で、ポートを入れているのですよ」と、ご自分のポート留置の部分を見せてくれ、「お互い、頑張って治療していきましょうね」と言ってくれたのです。目の前の看護師さんが、私と同じように治療を受けながら元気で働いているということを知って、とても気持ちが楽になり、励まされました。
今、通院治療をしている総合病院の看護師さんたちの対応には、いつも感心しています。例えば、毎回、担当となる看護師さんが違うのですが、前の看護師さんに話したことがちゃんと伝わっていて、情報共有がしっかり行われていることがわかります。また、私が「がん治療と就労」に関する仕事をしていることもご存知で、いつも「仕事はどうですか」と気にかけてくれます。お互いに共通する話題を見つけながら、その話の中から私の問題を引き出そうとしてくれる姿勢が、いつも素晴らしいなと思います。
そうした姿勢は、私に対してだけでなく、例えば主婦の方の場合は、家庭内やお子さんの話をするなど、その人の生活背景をさりげなく聞き出すコミュニケーション能力が、どの看護師さんにも身についていると感じます。
逆にこれまで通院していて残念に思ったこともあります。2番目の大学病院では、外来で治療を行っていたのですが、その外来待合室に看護師さんの姿が見えないのです。大学病院ということもあり、がん患者さんがほとんどで、外来の待合室で泣いている人もいて、「ああ、今、がんの告知を受けたばっかりなのだな」とわかります。それなのに、看護師さんの姿はなく、外来待合室に一人放っておかれています。せめてその病院の誰かが、個室や人目のつかないところに、そっと泣いている患者さんを連れていってあげるだけでもいいのにと思うのですが、それを伝える相手もいません。
私は3つの病院を経験しているため、看護師さんの対応が比較できるからこそ、とても残念に思うのですが、多くの患者さんは1つの病院だけで治療していることがほとんどのため、「病院というところはこんなものだ」と諦めているのかもしれません。
看護師に知っておいてほしい3つのこと
患者の立場としてぜひ看護師さんに知っておいてほしいと思うことは、3つあります。まず1つ目は、仕事と治療の両立支援に関することです。看護師さんが患者さんの仕事の悩みを解決する必要は全くありません。患者さんの問題を拾い上げて、つなぐ先を知っておいてほしいのです。
看護師さんは疾患のことや抗がん剤の副作用については、詳しく丁寧に答えてくれますが、患者さんが「仕事が……」と言うと、一瞬身構えてしまう方が多いように思います。看護師さんにとっては仕事のことは専門外ですから、すべてを受け止める必要はありません。ただ、「こういうことは、どこにつなげばいいのかしら」と考えてほしいと思います。
具体的なつなげる先は、がん診療連携拠点病院に設けられている「がん相談支援センター」です。特に最近の相談窓口には、私のような社会保険労務士やキャリアコンサルタント等を置き、がん患者さんの就労相談について、積極的に支援しているところも増えています。そこから、就労支援を行う団体につないでもらうのもいいと思います。あるいは就労に関しては産業保健センターや、仕事を探したい人にはハローワークの「長期療養者支援事業」もあります。私も相談員をずっとやっているので、自分の知らないことを聞かれることほど、怖いことはありません。看護師自身が不安にならないためにも、患者さんのためにも、連絡先について知っておいてほしいです。
2つ目は、自分の病院の支援を把握しておいてほしいということです。看護師さんは「傾聴」や「寄り添う」ということは一生懸命にやってくださり、上手だと思います。しかし、聞いたことに対して「大変ですね」で終わるのではなく、解決するにはどうしたらよいのか、その先の専門機関につないでほしいのです。そのためには、まずは自分の病院がどのような支援をしているのか、相談機関があるのかを知っておく必要があるでしょう。もし、自身の病院にそういった機関がないのであれば、少なくとも地域のがん診療連携拠点病院はどこなのかを知っておきましょう。
3つ目が患者さんの困りごとは、拾い上げないと出てこないことを知っておいてください。患者さんは仕事やお金のことで困っていても、病院は治療をするところだと思っているため、その悩みを相談できるとは思っていません。でもそこを「仕事はどうですか」、「この副作用は、今の仕事に支障はないですか」と看護師さんが一言聞いてくださると、患者さんは「実は~」と話し出すのではないでしょうか。もしかしたら患者さんは医師には訴えているのかもしれませんが、医師はどうしても治療中心になってしまいます。私は、治療と仕事を両立する上での問題を拾い上げられるのが、看護師さんだと思うのです。
寄り添うだけではなく、その先に繋げるアプローチを
看護師さんには、患者さんが社会との接点の中で悩んでいることを知って、寄り添ってもらいたいのです。その上で、自分で解決できなければ、さまざまな相談先につないでください。
また、看護師さんが忙しいのはすごくわかりますが、忙しくて余裕がない様子だと、患者さんはそうした看護師さんには相談しようとは思いません。患者さんたちは、看護師さんたちが思っている以上に、よく看護師さんのことを見ています。
現在、通院治療している総合病院の外来の看護師さんたちも、とにかく忙しくて大変そうですが、それでも患者さんと積極的にかかわろうとされ、いきいきと働かれていることが伝わってきます。そうした看護師さんの姿を見ていると、「患者さんのためにやってあげる」だけではなく、自分自身が充実するために、どうしたらいいかを考えて行動していくと、結局はそれが患者さんのためになるのではないかと思います。
Column 藤田さんのがん患者支援の主な活動
がんの患者支援団体の一つに、就労支援に特化した「一般社団法人CSRプロジェクト(http://workingsurvivors.org/)」があります。
がん経験者のスタッフを中心に、がん患者さんの就労支援を行う団体で、私も活動しています。活動は主に3つあり、その1つがすでに10年続いている、無料電話相談の「患者さんのための就労相談~ほっとコール~」です。全国の患者さんから相談がありますが、通話料も相談料も無料です。
対応するのは社会保険労務士、キャリアコンサルタント、社会福祉士、看護師、ピアカウンセラー、企業の人事担当者など、違う職種の人が2人1組となり、電話会議サービスを使い、1人の患者さんの話を40分間聞いて解決方法を探します。
もう1つ、医療従事者や人事労務担当者などサポーター向けの「就労サポートコール」も用意しています。
看護師さんにはぜひこうした無料電話相談サービスがあることを知って、がん治療と仕事の両立で悩んでいる患者さんがいたら、つないでほしいです。
また、現在、東京だけですが、「サバイバーシップ・ラウンジ」を月に1回開いています。がん患者さん同士が仕事に関する悩みを顔の見える形で、お互いに知恵を出し合いながら解決しようという会です。
3つ目はミニシンポジウムなどのさまざまなイベントです。今年は実際の相談事例を基にした事例検討会を2月に開催しましたが、8月25日に東京で開催されるので、興味のある看護師さんはぜひ参加してください(申し込みの締切は2019年8月19日)。
ここでは産業医、医師、看護師、カウンセラー、ソーシャルワーカー、ピアサポーターらが、現場で出合った仕事に関する困難事例を持ち寄り、話し合っていきます。
事例検討会で最近取り上げた事例には、治療の後遺症で両下肢の浮腫がはなはだしい休職中の患者さんが、休職の延長を希望して主治医に就労不能の診断書を求めたところ、復職可能なので診断書を書けないと言われたというものがあります。それぞれの立場からこうしたケースをどのように考えるのか、どう介入したらよいのか、などを話し合っていきました。さまざまな立場の人が互いに意見を出し合うなかで、いろいろな解決策が出されたのが非常に印象的でした。
また、今年の2月の事例検討会で、ある看護師さんがお話しされたことで、とても印象的だったことがあります。その看護師さんは、「私は患者さんから仕事の話をされるのが、正直、すごく怖かった。でも、今は怖くありません。なぜなら、自分で全部受け止める必要はないとわかったから。つなげる先がわかったので、そこさえ押さえておけば大丈夫だとわかったら、すごく楽になった」というのです。
このように医療従事者の方々にも、さまざまな事例に触れ、気づきを得られる機会となっています。
そのほかにも患者支援団体の「NPO法人・がんと暮らしを考える会」(https://www.gankura.org/)でも、がん患者さんの就労支援をしています。
この会は、がん患者さんのお金や仕事などについての「困りごと」を、たくさんの専門家が一緒に考え、問題解決を図ることを目的としたNPO法人です。社会保険労務士とファイナンシャルプランナー(FP)がペアになり、がん拠点病院で「お金と制度に関する相談会」を全国10カ所で、がん診療連携拠点病院を中心に実施しています。私も病院で相談員としてかかわっています。