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【連載】今さら聞けない! 基礎看護技術をおさらい

体温調整の目的、方法(冷罨法・温罨法)、観察項目、注意点

  • 公開日: 2023/8/1

患者さんが発熱したとき、悪寒を訴えているときなど、さまざまな場面で体温調整が必要になることがあります。ここでは、体温調節のしくみに触れながら、体温調整の目的やその方法などについて解説します。


体温調整の目的

 体温をその人にとっての正常範囲に回復させ、それが維持されるように援助したり、体温の上昇・低下による身体的な苦痛(表1)を緩和したりするために行います。

表1 体温の上昇・低下に伴う身体的苦痛

体温主な身体状況体温の異常に随伴した主な症状
上昇発熱・悪寒戦慄 
・発汗 
・熱感 
・身体各部の痛み
熱中症・頭痛 
・倦怠感 
・嘔気・嘔吐 
・意識障害
低下低体温・皮膚知覚の鈍麻 
・筋肉硬直

体温調節のしくみ

 通常、私たちの体温は、体内酵素が活性化する37℃前後に保たれています。体温を一定に維持できるのは、身体各部の受容体が「寒さ」「暑さ」を感知し、間脳の視床下部にある体温調節中枢が体温をコントロールしているからです。体温が高くなると、皮膚血流量の増加や発汗により体温を調節し(熱放散)、逆に体温が下がると、シバリングという筋肉の動き、皮膚血管の収縮や立毛などにより、体温を調節します(熱産生)。

熱放散、熱産生

体温に影響する主な因子

日内変動

 人間の体温は、1日のうちで変化します。これを日内変動といい、午後3時ごろにもっとも高くなり、睡眠中である午前2~6時にもっとも低くなります。睡眠中の体温が低くなるのは、大脳の活動が低下しているためで、寒さで目が覚めることがないよう、十分に保温して休む必要があります。

年齢

 乳児期は皮下脂肪の量が少ないこと、身体活動が活発であることなどが影響し、一般的に体温が高めです。一方、高齢者は基礎代謝が低下しているため、成人に比べて体温が低めです。年齢を加味して、平熱を把握することが大切です。

体温調整の方法

体温が上昇した場合

 体温が上がると、皮膚血流量の増加や発汗により、熱放散を促します。熱放散がうまくできていないのを放置すると、熱中症が引き起こされる危険があります。また、発熱に対して適切な対応をしないままでいると体力を消耗します。

体温の上昇を緩和するための援助

【環境調整】

 室温を下げる、衣服を脱ぐなど外界の環境を変えることで、体表面の温度を変化させることができます。

【冷罨法】

 冷罨法とは、氷枕、氷嚢、氷頸を用いて、局所の皮膚温を低下させる方法です。氷枕、氷嚢、氷頸を適切な部位に置くことで、暑さや発熱による不快感を軽減させます。動脈が体表面に近いところにある頸部、腋窩、鼠経部を冷却すると、全身に送られる動脈血の温度が下がり、体温下降の効果が期待できます。

 また、氷枕を頭部に置き臥床し、局所を冷却すると、感覚神経の感受性が低下するため、発熱による頭痛が和らぎます。前額部に氷嚢を置くことでも、同様の効果が期待できます。

 なお、発熱時に冷罨法を行う場合は、タイミングに注意が必要です。外部から細菌やウイルス、化学物質などが侵入すると、体内の免疫活性食細胞(好中球、単球、マクロファージなど)による防御作用として発熱します。この段階で冷罨法を行うと、防御作用を妨げるおそれがあります。

 シバリングが消失していて、患者さんが熱感による苦痛を訴えるようであれば、氷枕、氷嚢、氷頸などを当てる部位を検討したうえで行えるとよいでしょう。

★氷枕の作り方
①水1/3程度、氷2/3程度の割合で作成します。最初に氷を入れ、その後に水を入れます。
②氷枕を平らな場所に置き、口を上に向けて空気を抜きます。空気が入っていると、冷却効果が下がります。
③留め金で氷枕の口を止めます。

冷罨法

④表面に付いた水分をふき取り、ビニールに入れます。

冷罨法

⑤専用のカバーを掛けます。

冷罨法

体温の上昇を緩和する際(冷罨法実施時)の観察項目

●貼用後、発熱による不快感が軽減し、冷罨法の効果が得られているかを確認します。
●一般的に、15℃以下のものを長時間貼用すると、皮膚が感覚麻痺を起こします。冷却した部分に発赤が生じていないか、極端な皮膚温低下がみられないか確認します。
●冷却に用いた氷が解けると、氷枕や氷嚢の表面に水滴ができて濡れることがあります。氷枕や氷嚢の表面が水滴で濡れていないか、患者さんが不快感をもっていないか観察します。

体温の上昇を緩和する際(冷罨法実施時)の注意点

●意識障害や知覚麻痺のある患者さんに用いる場合は、皮膚の色と温度を観察し、凍傷を予防します。
●創部や傷がある患者さんでは、氷枕や氷嚢表面にできる水滴で汚染されないように注意します 。

体温が低下した場合

 人間は、極寒で遭難するような環境に置かれると、体温調節機能が低下し、シバリングという筋肉の動きによって熱を産生しようとします。それでも体温が上昇せず34℃以下に低下すると、皮膚知覚が低下し、循環障害から凍傷になる危険もあります。

 このような極限状況でなくても、手術直後などは、手術室の室温や麻酔の影響により低体温に陥ります。このときもシバリングにより熱を産生しようとします。低体温が続くと、交感神経が刺激され心拍数が上昇するなど、身体への負担が大きくなるため、適切な方法で保温する必要があります。

体温の低下を緩和するための援助

【保温】

 衣類や掛物で保温します。一般的に、室温25~26℃以下で衣類の調整が必要とされています。室温に注意し、患者さんが寒さを訴えたときなどは衣類や掛物で調整しましょう。

【温罨法】

 温罨法とは、湯たんぽ、カイロ、温湿布などを用いて、局所の皮膚温を上昇させる方法です。湯たんぽによる温熱刺激で皮膚温が上昇するのに伴い、血管が拡張し、血流も増加します。これにより身体が温まるだけでなく、筋肉や神経にも作用し、疼痛緩和、リラックス効果も期待できます。

★湯たんぽの作り方
①湯たんぽの注入口から、お湯を入れます。ゴム製のものは一般的に、1/3~2/3程度注入します。プラスチック製のものは、注入口いっぱいまでお湯を入れましょう。
②ゴム製の湯たんぽを使用する場合は、平らな場所に置き、口を上に向けて空気を抜きます。

ゴム製湯たんぽの空気の抜き方

③しっかり栓をしめた後、逆さにして漏れがないか確認します。
④専用のカバーを掛けます。 

体温の低下を緩和する際(温罨法実施時)の観察項目

●体温が下がることによって、血圧低下や呼吸の異常など、バイタルサインに変化が生じることがあります。体温だけでなく、バイタルサインの測定も行いましょう。
●低体温が重症化すると、四肢の知覚麻痺を認めるほか、意識障害により自ら訴えられないことも考えられます。全身状態を丁寧に観察しましょう。特に皮膚の色を観察し、変化があれば中止します。
●身体が温まってきたかどうかは、皮膚の色や温かさなどから評価します。

体温の低下を緩和する際(温罨法実施時)の注意点

●もっとも注意すべき点は熱傷です。皮膚に接する表面温度が43℃以上の場合や、42℃であっても長時間用いると、低温熱傷を発症する可能性が高いとされています1)。熱傷による事故を防ぐため、湯たんぽを使用する際は、湯温と置く場所に十分気をつけます。

湯たんぽの向き

●意識障害を認める患者さん、糖尿病性神経障害がある患者さん、知覚麻痺や運動麻痺がある患者さんに使用すると低体温熱傷の危険があるため、通常は禁忌とされています。
●湯たんぽは、素材により使用する際の湯温が決まっています(表2)。決められた以上の湯温にすると、器具が劣化するので注意しましょう。
●動きが活発な乳幼児、皮膚感覚について伝えることが難しい高齢者、意識障害や麻痺のある患者さんに用いるのは危険です。

表2 素材ごとの湯温のめやす

素材湯温のめやす
ゴム製湯たんぽ60℃くらいまで
プラスチック製湯たんぽ60~80℃まで

引用・参考文献

1)飯田智恵,他:低温熱傷発症条件に関する実験検討.日本看護研究学会 2004;27(1):43‐50.
●平松則子:基礎看護技術ガイド.照林社,2007,p.163-8.
●三上れつ,他:演習・実習に役立つ基礎看護技術―根拠に基づいた実践をめざして(第4版).ヌーベルヒロカワ,2015.
●林静子,他:苦痛の緩和・安楽確保の技術.基礎看護学技術Ⅱ.医学書院,2022,p.152-65.
●柴藤治:体温とその調節. 標準生理学 第9版.大森治紀,他編.医学書院,2019,p.919.

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