進行・再発子宮体がん治療における免疫チェックポイント阻害剤・PARP阻害剤の新たな可能性 アストラゼネカ社メディアセミナー
- 公開日: 2025/2/17
2024年12月13日、アストラゼネカ社が「イミフィンジ・リムパーザ 適応拡大メディアセミナー」を開催しました。当日は、東京慈恵会医科大学の岡本 愛光先生から、進行・再発子宮体がん治療における現状と課題について、同じく東京慈恵会医科大学の西川 忠曉先生から進行・再発子宮体がんの新たな治療選択肢としてDUO-E試験の解説と今後の治療展望についての講演がありました。今回はその様子をレポートします。
進行・再発子宮体がん治療における現状と課題
東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座 主任教授
岡本 愛光先生
子宮体がんの特徴と現状課題
子宮体がんとは子宮体部に発生するがんで40代後半から増加し、50、60代で特に多く発症1)します。日本では年間約1万7800人が診断され、約2800人の死亡が報告2)されています。早期段階であれば治療後の経過は比較的良好な傾向にありますが、進行がんでは子宮以外の臓器への転移等で生存率が低下します。
子宮体がんは組織学的に分類すると、類内膜がんが8割を占めます。類内膜がんはエストロゲンに依存し、進行段階にもよりますが、組織学的には比較的リスクが低いといわれています。一方それ以外には、エストロゲン非依存性である漿液性がん、明細胞がんがあり、これらは萎縮子宮内膜から発生するもので、組織学的にはリスクが高くなります。
国内の子宮体がん(子宮内膜がん)の5年生存率は、ステージⅠの場合は92%ですが、進行期であるステージⅣになると21%3)とかなり低くなります。また、海外のデータでは、術後再発なしの5年生存率は85%である一方で、再発部位が子宮から離れれば離れるほど低くなり、肝臓、肺、骨などに再発した場合の5年生存率は17.5%4)と推定されています。つまり、子宮体がん発症後の生存率を高めるためには早期治療が重要です。
分子遺伝学的分類でみる子宮体がん
子宮体がんは今まで組織学的な分類が一般的でしたが、現在では分子遺伝学的な分類が取り入れられています。分子遺伝学的分類は包括的ゲノム解析を基にした「TCGA」分類から、ミスマッチ修復(MMR)関連タンパクと、p53の免疫組織化学染色変異パターンを用いた「ProMisE」の分類法が提唱5)6)されました。この分類は子宮体がんの病状回復の傾向とも相関する6)ことがわかっています。
これをもとにWHO分類では、類内膜がんを①POLE-ultramutated、②MMR-deficient、③p53-mutant、④NSMP(①~③の変異がいずれも起こっていない)に区分する分子遺伝学的分類が採用されました。
以下の表は、各分類の分子遺伝学的特徴や組織学的特徴、臨床学的特徴とともに、検査方法や病状回復の見通しについてまとめたものです。
表1 WHO分子遺伝学的分類とその典型的な特徴:TCGA分類およびProMisE分類参照POLE-ultramutated | MMR-deficient | p53-mutant | NSMP*⁶ | |
---|---|---|---|---|
分子遺伝学的特徴 | >100変異 /Mb 体細胞コピー数変化は非常に少ない マイクロサテライト安定性(MSS) |
10-100変異 /Mb 体細胞コピー数変化は少ない マイクロサテライト不安定性(MSI) |
<10変異 /Mb 体細胞コピー数変化は多い マイクロサテライト安定性(MSS) |
<10変異 /Mb体細胞 コピー数変化は少ない マイクロサテライト安定性(MSS) CTNNB1の変異を認める |
組織学的特徴 | 多くは高異型度散在する腫瘍巨細胞を伴う多様な形態腫瘍湿潤リンパ球(TILs*¹)が目立つ | 多くは高異型度腫瘍湿潤リンパ球(TILs)が目立つ
粘液性分化 MELF*³型湿潤 LVSI*⁴ |
ほとんどが高異型度で、広範囲に核異型を認める
腺管部と充実部が存在する |
ほとんどが低異型度で、頻繁に扁平上皮分化やmoruleを伴う
腫瘍湿潤リンパ球(TILs)はにられない |
検査法 | NGS*²
サンガーシーケンスホットスポット遺伝子変異解析 (p.Pro286Arg、 p.Val411Leu、 p.Ser297Phe、 p.Ala456Pro、 p.Ser459Phe) (MSS) |
MMR*⁵免疫組織化学
(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2) MSI検査 (MSI) |
NGS
p53免疫組織化学(過剰発現、完全陰性) |
MMR-proficient
p53野生型 POLEの病的変異を認めず |
臨床的特徴 | 若年で発症する | Lynch症候群と関連がある場合がある |
発症時に進行癌の状態にある | BMI高値 |
予後 | 良好(Excellent) | 中間(Intermediate) |
不良(Poor) | 中間~良好(Intermediate to excellent) |
*²NGS:next-generation sequencing
*³MELF:microcystic, elongated, and fragmented
*⁴LVSI:lymph vascular space invasion
*⁵MMR:mismatch repair
*⁶ NSMP:no specific molecular profile
日本産科婦人科学会/日本病理学会,編:子宮体癌取扱い規約 病理編 第5版.金原出版,2022,p.8より引用
POLE-ultramutatedはシークエンサーによる解析が必要ですが、それ以外はMMR IHCやp53 IHCなど、免疫組織化学解析(IHC)によって異常を検知できるのが特徴です。回復の見通しについては、POLE-ultramutatedが最もよく、次いでNSMP、MMR-deficient、最も悪いのがp53-mutantとなっています。
これらの分類によって、今後の子宮体がん治療の幅を広げることに繋がると考えられます。
子宮体がんにおけるMMRの状態と免疫療法について
MMRとは、DNA複製の際に生じる相補的ではない塩基対合(ミスマッチ)を修復する、ゲノム恒常性の維持に必須の機能7)です。MMRのうち、機能が低下しDNA複製時のエラーが修復されない状態をMMR deficient(dMMR)、機能が保たれ正確にDNAが複製されるよう作用する状態をMMR proficient(pMMR)といいます。
MMRの機能が低下すると、1から数塩基の繰り返し配列の反復回数に変化が生じるマイクロサテライト不安定性(MSI)が生じ、がん化に関与する遺伝子にも変化が起こりやすくなります。dMMRの状態ではMSIによって生じた複製時のエラーは修復されないまま、DNAに組み込まれた状態で複製が続き、遺伝子異常が蓄積されると腫瘍発生や増殖に関与すると考えられています7)。dMMRは多様ながん種で検出されていますが、子宮内膜がんでの検出頻度は特に高い8)ようです。
一方dMMRの腫瘍は、がん細胞がもつ体細胞遺伝子変異の量を示すTMBも高くなっており、免疫療法として免疫チェックポイント阻害剤を用いることで、がん細胞への攻撃が活性化し病状の回復が期待できるようです。反対に、pMMRの腫瘍では免疫チェックポイント阻害剤によるがん細胞への攻撃が弱く、効果が限定的である可能性がある9)と報告されています。
日本の進行・再発子宮体がん治療のこれまでとこれから
日本での子宮体がんの第一の治療は手術療法であり、術後はJSGOガイドラインに示されたリスク分類に基づいて再発リスクの評価を行い、術後の治療方針が決定されます。なおJSGOガイドラインでは、リスク因子の組み合わせから低リスク群、中リスク群、高リスク群に分類されています。
再発低リスク群の場合は追加の治療は勧められず、再発中リスク群・高リスク群になると術後の追加治療が適応となります。高リスク群に該当すると、ホルモン治療や放射線治療が行われることもありますが、日本の場合は薬物療法が一般的です。
薬物療法には、AP療法、TC療法、TAP療法、LP療法、ペムブロリズマブ単剤療法などが存在します。しかし、このうち免疫チェックポイント阻害剤を用いるLP療法とペムブロリズマブ単剤療法は、これまで術後の一次治療で選択できませんでした。
今回の子宮体がんの一次治療における免疫チェックポイント阻害剤およびPARP阻害剤の併用療法の承認により、MMRの状態に関係なく初めて免疫チェックポイント阻害剤を一次治療に利用できるようになるため、患者さんの治療選択肢が増えると考えられます。
進行・再発子宮体がんの新たな治療選択肢
東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座 講師/診療医長
西川 忠曉先生
免疫チェックポイント阻害剤とPARP阻害剤の併用療法について
この度国内で初めて、子宮体がんの一次治療における免疫チェックポイント阻害剤デュルバルマブ(薬剤名:イミフィンジ)と、PARP阻害剤オラパリブ(薬剤名:リムパーザ)の併用療法が承認されました。
イミフィンジはPD-L1を標的とし、PD-L1と受容体であるPD-1またはCD80の相互作用を阻害して腫瘍の免疫逃避機構を抑制することで、抗腫瘍免疫反応が活性化し進行・再発の子宮体がんに効果が期待できる薬剤です。リムパーザは、卵巣がん領域をはじめがん治療で用いられる薬剤で、がん細胞のDNA一本鎖切断の修復を阻害することで二本鎖切断を起こし、二本鎖切断修復機構が機能していないがん細胞を死滅させる作用があります。
イミフィンジとリムパーザを併用すると、リムパーザのPARP阻害作用による二本鎖DNA断片の蓄積による自然免疫活性化因子(STING)の活性化と、相同組換修復機能が欠損した腫瘍細胞への障害作用により免疫原性が高まり、特に免疫チェックポイント阻害剤の効果が得られにくいpMMRの腫瘍に対しても、免疫反応を高めることが期待できます。
イミフィンジとリムパーザの併用について検証したDUO-E試験(国際共同第Ⅲ相試験)の結果を共有します。
DUO-E試験からみる有効性と安全性
DUO-E試験では、白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法(カルボプラチン+パクリタキセル:TC)のみを行ったTC群、TCとイミフィンジの併用療法後、イミフィンジによる維持療法を行ったものをDUO-E Doublet群、イミフィンジとリムパーザによる維持療法を行ったものをDUO-E Triplet群とし、無増悪生存期間(PFS)を主要評価項目として、有効性や安全性の比較検討を行いました。
DUO-E試験の対象者
試験対象者は以下のとおりです。Shannon N. Westin, et al:Durvalumab Plus Carboplatin/Paclitaxel Followed by Maintenance Durvalumab With or Without Olaparib as First-Line Treatment for Advanced Endometrial Cancer: The Phase III DUO-E Trial.Journal of Clinical Oncology 2024;42(3):283-99.より引用
この試験に登録された患者さんのうち、アジア人が全体の約30%を占めていることが最大の特徴です。また、子宮肉腫は組み入れられていませんが、子宮体がんの臨床試験から除外されることが多かったがん肉腫が含まれている点も特徴といえます。
免疫チェックポイント阻害剤の効果を左右するMMRの状態については、pMMRが約8割、dMMRが約2割です。
DUO-E試験の対象者の結果概要(PFSおよび有害事象について)
PFSに関する結果
PFSにおいて、TC群に対するDUO-E Doublet群のハザード比は0.71、TC群に対するDUO-E Triplet群のハザード比は0.55であり、TC群に対してDUO-E Doublet群とDUO-E Triplet群の優越性が確認されました。また、DUO-E Triplet群とDUO-E Doublet群のハザード比が0.78であることから、DUO-E Triplet群のほうが優位に改善しているといえます。日本人集団に絞ってみると、DUO-E Triplet群とTC群との比較において優位な結果が出ていますが、サンプル数が少ないところで結果を慎重に捉えることが必要です。
MMR状態別のPFSについて、pMMRの集団ではTC群とDUO-E Doublet群に大きな差はありませんでしたが、TC群に対するDUO-E Triplet群のハザード比は0.57と優位性が示されました。一方dMMRの集団では、TC群と比べたときにDUO-E Doublet群もDUO-E Triplet群の場合もPFSが長くなっています。ただし、DUO-E Doublet群とDUO-E Triplet群のハザード比ではほとんど差がみられませんでした。このことより、DUO-EのレジメンではpMMRにはTriplet、dMMRにはDoubletが承認される結果となりました。
有害事象の発現状況
DUO-E試験での有害事象について、DUO-E Doublet群においてはこれまで報告されている免疫有害関連事象と大差はなく、脱毛症、貧血、悪心などがみられます。しかし、リムパーザを加えるDUO-E Triplet群では、骨髄抑制により好中球減少症の頻度が少し高くなり、維持療法期に絞った場合には、TC群やDUO-E Doublet群と比べて悪心、貧血、疲労などの割合が大きい結果となりました。
治療による死亡例については、TC群、DUO-E Doublet群、DUO-E Triplet群ともに2~3%と大差はないため、イミフィンジやリムパーザの投与によって死亡リスクが高まることは考えにくいといえます。
重篤な有害事象の発現状況については、DUO-E Triplet群が約35%(維持療法期では約22%)、DUO-E Doublet群が約31%(維持療法期では約12%)、TC群が31%(維持療法期では約11%)とDUO-E Triplet群がやや高い結果で、特に骨髄抑制に関連する事象で割合が高くなっています。しかし、DUO-E TripletとDUO-E Doubletのどちらも特段安全性の低い治療法ではないといえるでしょう。
イミフィンジ、リムパーザを用いた治療と今後の課題
イミフィンジは、進行型子宮体がんの患者さん、または再発子宮体がんで化学療法の治療歴がある患者さんが対象となり、pMMRの場合には維持療法期にイミフィンジとリムパーザ併用療法の対象となります。維持療法に期限はなく、効果が得られている場合は使い続けることが可能です。
進行・再発子宮体がんの一次治療での免疫チェックポイント阻害剤と化学療法やPARP阻害薬を用いた併用療法の承認は今回初めてであり、子宮体がん治療の大きな変化といえます。一方で、この変化により今後は二次治療の再検討が必要です。さらに臨床現場では、それぞれの患者さんへ最大限のメリットを届けるべく、分子遺伝学的分類に基づき発展を続ける薬物療法を上手に活用しながら、今後の治療戦略を組み立てることが求められるでしょう。
引用・参考文献
2)国立がん研究センター:がん種別統計情報 子宮体部がん.がん情報サービス(2024年12月25日閲覧)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/18_corpus_uteri.html
3)国立がん研究センター:がんの統計 2024年.がん情報サービス(2025年1月15日閲覧) https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/2024_jp.html
4)Jeppesen, MM, et al:The nature of early-stage endometrial cancer recurrence-A national cohort study.Eur J Cancer 2016;69:51-60.
5)Talhouk ,et al:A clinically applicable molecular-based classification for endometrial cancers.Br J Cancer 2015;113(2):299-310.
6)日本産科婦人科学会/日本病理学会,編:子宮体癌取扱い規約 病理編 第5版.金原出版,2022,p.3-9.
7)日本癌治療学会 編: Ⅱ dMMR 固形がん.がん診療ガイドライン(2024年12月24日閲覧)http://www.jsco-cpg.jp/precision-medicine/guideline/
8)Le DT,et al:Mismatch repair deficiency predicts response of solid tumors to PD-1 blockade.Science 2017;357(6349):409-13.
9)P-S Kok,et al:The impact of single agent PD-1 or PD-L1 inhibition on advanced endometrial cancers: meta-analysis.ESMO Open 2022;7(6):100635.
・日本婦人科腫瘍学会 編:子宮体がん治療ガイドライン 2023年版.金原出版,2023,p.23, 102-3.
・アストラゼネカ:アストラゼネカのイミフィンジとリムパーザ 日本における進行または再発子宮体がんの治療薬として承認取得.(2025年1月15日閲覧)https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2024/2024112201.html
・アストラゼネカ:リムパーザとイミフィンジの併用療法、ミスマッチ修復機能が正常な、進行または再発子宮体がん患者さんの治療薬として、EUで承認を取得(2025年1月15日閲覧)https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2024/2024082201.html