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新たな分子標的薬で急性骨髄性白血病の寛解をめざす

  • 公開日: 2026/2/23
日本セルヴィエ株式会社が、「国内初、IDH1遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病を対象とした治療薬『ティブソボ錠』発売―強力な寛解導入療法が適応とならない患者さまにとっての新たな治療選択肢が登場―」と題したメディアセミナーを開催しました。ここでは、山口博樹先生(日本医科大学付属病院 院長)の講演をレポートします。


白血病とは

 白血病は、骨髄に存在する造血幹細胞ががん化することで起こる血液がんの一種です。

 造血幹細胞から多くの血球が分化し、全身に酸素を運ぶ「赤血球」、細菌やウイルスなどの微生物から身体を守る「白血球」、出血を止める役割を担う「血小板」といった、異なる機能をもつ血球が作り出されます。

 しかし、何らかの原因で造血幹細胞に遺伝子変異が起き、骨髄という非常に狭い空間に白血病細胞が増殖すると、正常な血液細胞を作るためのスペースが奪われてしまいます。その結果、赤血球、白血球、血小板が減少し、貧血、易感染性、出血傾向などの症状がみられるようになります。

 白血病の発症率は人口10万人あたり10人前後で、肺がんや胃がんなどと比べると少ないといえますが、70歳以上での罹患率が顕著に増加します1)。日本では高齢化が急速に進んでいる背景もあり、高齢者の発症率は年々高まっています。

 また、白血病は、がん化した細胞の種類と発症するスピードにより、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)の大きく4つに分けられ、中でもAMLは白血病の約50%を占めます2)。今回取り上げる「ティブソボ錠 250mg」(一般名:イボシデニブ、以下「ティブソボ」)は、このAMLを対象とした薬剤です。

急性骨髄性白血病の治療

 AMLの治療において、血液内科医がまず目指すのは「寛解」と呼ばれる状態です。治療により白血病細胞が減少すると、骨髄のなかに正常な血液細胞を作るスペースが再び戻ってきます。それに伴い、減少していた赤血球や白血球、血小板の数値が回復し、血液検査上は治ったようにみえる状態になります。この状態を「寛解」と呼び、そこに至るために行う治療を「寛解導入療法」といいます。

 これまでの寛解導入療法は強力な抗がん剤治療が中心で、無菌室での管理を要するような非常に厳しいものでした。そのため、年齢が若く、心臓・肺・肝臓などの機能が良好で、感染症を合併していない、限られた患者さんに対して行われていました。

 一方で、AMLは高齢の患者さんが多いという特徴があります。高齢であっても全身状態が良好な場合は、若い患者さんと同様に強力な寛解導入療法を行うこともありますが、現実には高齢患者さんの約3分の2は、こうした強力な治療の適応にはなりません。

 現在、強力な寛解導入療法が適応とならない高齢者や臓器の機能低下・異常がある患者さんに対しては、BCL-2阻害薬「ベネトクラクス」と代謝拮抗薬「アザシチジン」の併用療法が第1選択の標準治療として広く採用されています。

急性骨髄性白血病における遺伝子変異

 AMLの発症には、遺伝子変異が極めて重要な役割を果たしています。造血幹細胞は常に増殖(コピー)と分化を繰り返し、寿命の短い血液細胞(赤血球は約100日、白血球や血小板はわずか1~2日)を絶えず補給しています。しかし、何十年にもわたってこのコピーを続けているとエラーが生じることもあり、これが遺伝子変異として蓄積していきます。高齢者にAML患者が多いのは、加齢とともにこうした遺伝子の傷が積み重なっていくためと考えられています。

 AMLの発症・進展にかかわる遺伝子変異に、「IDH1遺伝子変異」があります。IDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)は、骨髄系細胞が成熟した血液細胞へと成長する分化にかかわる重要な酵素で、骨髄系細胞の分化を促進する「α-KG」という物質を作り出す役割を担っています。ところが、変異型IDH1はα-KGを「2-ヒドロキシグルタル酸(2-HG)」という別の物質に変換し、分化のプロセスを止めてしまいます。分化ができずに細胞が未熟なままの状態で留まると、さらに別の遺伝子変異を獲得するリスクが高まり、最終的に白血病の発症へと至ると考えられています。

 このように、白血病の発症機序に特定の遺伝子変異が深くかかわっていることが解明されたことで、治療のあり方も大きく変わりつつあります。現在では、欧米のみならず日本においても、個々の遺伝子変異を検索し、それに基づいて予後を予測したり、最適な治療法を選択したりする細分化・個別化の時代を迎えています。

急性骨髄性白血病の新たな治療薬「ティブソボ

 こうしたなかで登場したのが、IDH1遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病を対象とした分子標的薬「ティブソボ」です。変異型IDH1の酵素活性を阻害することで、腫瘍細胞における2-HGの産生を阻害し、AML細胞の分化を誘導することにより、腫瘍増殖を抑制します。

 「ティブソボ+アザシチジンの併用療法」と「プラセボ+アザシチジンの併用療法」を比較した臨床試験では、主要評価項目として無イベント生存期間(EFS)が設定されました。治療の主な対象が高齢者であることから、単なる有効性だけでなく、副作用による治療中断などのイベントも含めて安全性を厳格に評価するためです。結果として、ティブソボとアザシチジンの併用療法群は対照群と比較して、EFSを有意に改善しました3)

 加えて、副次評価項目である寛解(CR)率は47.2%(対照群は14.9%)と有意に高く、全生存(OS)率も40%に近いラインで安定しており3)、治療効果が得られた患者さんにおいては、その有効性が長期にわたって維持されやすいという特徴を示しています。

 副作用として最も多くみられたのは、心電図のQT延長でした。また、ティブソボに特有の反応として分化症候群が挙げられます。白血病細胞の分化が促進されることで一時的に白血球が増加し、感染症に似た発熱などの症状が出るものですが、ステロイド投与などにより制御可能な範囲でした。さらに、好中球減少の発症率はアザシチジン単剤の場合とほぼ同等であり3)、ティブソボを加えることによる追加の毒性は限定的であることが確認されました。

個別化医療の新たな時代へ

 高齢のAML患者さんにおいて、強力な寛解導入療法が行えないと判断された場合、もし変異が陽性であれば、有効性と安全性の両面で優れたティブソボとアザシチジンの併用療法が第一選択となる新たな時代を迎えたといえます。患者さん一人ひとりの遺伝子変異に基づき、最適な治療を選択する「個別化医療」の推進が期待されます。

引用文献

1)国立がん研究センターがん情報サービス:がん種別統計情報 白血病.(2026年2月10日閲覧)https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/27_aml.html
2)鈴木久三:日本人白血病の発生頻度と病型分布.medicina 1990;27(4):562-3.
3)日本セルヴィエ株式会社:国際共同第Ⅲ相試験(AG120-C-009試験)[承認時評価資料](2025年3月27日承認、CTD2.7.6.2)

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