動脈血採血の看護|目的、部位、手順、検体の取り扱い、看護の注意点
- 公開日: 2023/12/9
動脈血採血とは
動脈血採血とは、経皮的に橈骨動脈や大腿動脈等を穿刺して、動脈血を採取することをいいます。動脈血採血は基本的に医師が行う手技であり看護師は行ってはいけない行為と思っているかもしれません。しかし、看護師は医師の指示のもと診療の補助として動脈血採血は実施可能であり、2015年から特定行為に位置付けられています。
動脈血採血を行う目的
動脈血採血によって動脈血中のPaO2、PaCO2、HCO3–などを測定でき、現在のガス交換能や酸塩基平衡の評価を行うために実施されます。また、Na、Kなどの電解質やLac(乳酸値)の測定をすることでもできます。
表1 動脈血液ガス分析で主にわかるものと基準値
基準値 | |
PaO2 | 80〜100mmHg |
PaCO2 | 35〜45mmHg |
HCO3– | 22〜26mmol/L |
SaO2 | 95〜97% |
pH | 7.35〜7.4 |
動脈血採血を行う際の穿刺部位
穿刺部位は、シチュエーションや患者さんの背景を踏まえて臨機応変に選択します。
図1 穿刺部位と特徴
動脈血採血の手順
必要物品
図2 血液ガス採血キット例
動脈血採血の手順
医師 | 看護師 |
1 患者さんに説明し同意を得る | 患者さんに説明し同意を得る。必要に応じて患者さんの理解を確認して、補足説明を行う。 |
2 穿刺部位に応じて適切な体位を整える | 穿刺部位に応じて適切な姿勢を整える |
3穿刺部位の血管を確認する | |
4 採血キットを準備する | 採血キットを準備する |
5 穿刺部位を消毒する | 消毒の準備をする |
6 穿刺し、逆血を確認する | |
7 必要量まで血液が貯まるまで動かず待つ | 針捨て容器を使えるように配置する |
8 針を抜き、穿刺部位を圧迫止血する | |
9 圧迫止血を継続しながら針を廃棄容器に捨てる | 圧迫止血用テープを準備する |
10 キット内の気泡を全て出してからキャップをする | |
11 圧迫止血用テープを貼る | 手技終了後に出血や腫脹の有無を経過観察する |
検体の取り扱い
動脈血採血を行い、血液ガス分析をすることで患者さんの呼吸状態や酸塩基平衡の状態を評価することができます。特に呼吸状態に関しては大気中にも酸素や二酸化炭素が存在するため採血後は時間を空けずに速やかに検査が開始されることが望ましいでしょう。
血液ガス分析が行われるまでに時間が掛かった場合は、採血キット内で血球が酸素を消費して二酸化炭素を産生するため、測定された血液ガス分析の結果はPaO2が低下してPaCO2が上昇している可能性があります。どうしても時間が掛かってしまうことが考えられる場合は、血球が酸素を消費するスピードを遅らせるために採血キットを氷冷保存して時間を稼ぐという方法がありますが、行う際は自施設の臨床検査科に相談したほうが無難でしょう。
また、血液が採血キット内に満たされた後は気泡を全て抜くことが大切です。空気中にも酸素や二酸化炭素は含まれているため、採血キット内の気泡を抜かずにそのままにしておくと採血した動脈血は空気中の酸素や二酸化炭素に影響されて正しく血液ガス分析が行われない可能性があります。
動脈血採血実施後の観察ポイント
圧迫止血が不十分な場合は皮下血腫ができる可能性があるので圧迫止血部の周囲の皮膚を観察しましょう。皮下血腫を疑う所見としては、腫脹、紫斑、硬結、疼痛、しびれなどがあげられます。
動脈の周囲に神経も走行しているため採血後にしびれや疼痛の有無を確認します。
特定行為研修を終了している看護師が動脈血採血を行う際の注意点
特定行為研修を修了している看護師が手順書を用いて動脈血採血を行う際の医師との違いは、手順書に記載がある項目に基づいて行われることです。手順書は施設や臨床に合わせて柔軟に作成することが可能ではありますが、例えば厚生労働省HPに掲載されている「特定行為に係る手順書例集」を見てみると「何らかの原因でSpO2の測定が適切に実施できない場合」や「酸素濃度の低下が疑われる場合」など対象となる患者さんが定められており、「意識レベルの低下がある」ことや「末梢循環不全の徴候がみられる」などの対象となる患者さんの病状の範囲が決められています。また、穿刺部位も「橈骨動脈を第一選択とする」と定められており、上腕動脈や大腿動脈は神経損傷や血腫形成に十分留意して実施するように定められています。
そのため、必要だからといって手順書に記載されている対象となる患者さん以外の誰に対しても動脈血採血を実施することはできません。また、病状の範囲を逸脱している場合も医師に報告をして判断を仰ぐ必要があります。もちろん、所属する施設の考え方によっては手順書の内容に柔軟性を持たせることで対象となる患者さんや病状の範囲を広げることで特定行為研修を修了した看護師が動脈血採血を実施できる幅が広がることはあるでしょう。