リラクセーション法|目的、意義、実施方法(足浴、呼吸法、漸進的筋弛緩法、自律訓練法)
- 公開日: 2022/8/5
リラクセーション法とは(看護におけるリラクセーションの位置づけ)
Relaxation(リラクセーション)は、くつろぎ、緊張・筋肉・精神の緩みと訳され、身体と精神の緊張状態、不安な状態を緩和する意味合いをもちます。
リラクセーション法とは、緊張の緩和を促すために、筋肉の緊張を和らげると同時に、呼吸を整え、心身を安らいだ状態にするための技法のことを指します。看護においては、癒やしのケアの技法として、また、身体を安楽にするケアの中に位置づけられています。
リラクセーション法の目的
リラクセーション法は、ストレスへの対処や疼痛緩和を目的として行います。看護においては、精神看護学領域で活用されるほか、自己の癒やし、健康回復を目的に実施されることもあります。
看護師が実践するリラクセーション法の意義
看護師が実践するリラクセーション法の意義は、卓越した技術の提供ではなく、身体的・心理的な不安、療養上の人間関係に着目して行えるところです。例えば、不眠、不安、緊張の訴えに対して行うことで、患者さんや家族の気持ちを和らげることができます。何より、緊張する場面に遭遇することが多い看護師自身にも活用できるという利点があります。
リラクセーション法を行う環境
リラクセーション法では、自分の身体に意識を向けることで、気持ちを安定させていきます。そのため、周囲の環境の影響を受けずに、意識を集中できる静かな環境で行うのが好ましいです。十分に四肢が伸ばせるスペース、ゆったりと座ることができる椅子などもあるとよいでしょう。患者さんによりリラックスしてもらうために、部屋の照明や温度・湿度を調整したり、音楽をかけたりすることもあります。
リラクセーション法の種類と方法
リラクセーション法には、さまざまな種類があります。ここでは、筋肉をほぐし、身体の末梢からリラックスを促す足浴および呼吸法、自己を見直し、認知的にリラックスさせる自律訓練法と漸進的筋弛緩法を紹介します。
足浴
足浴とは
足浴とは、下肢だけをお湯につける入浴方法のことをいいます。足浴により循環動態が変化する可能性があるため、実施する際は十分注意します。
期待される効果
足浴の実施で、下肢に加え背部の皮膚温も上昇すること、下肢の血流量が上昇すること、副交感神経が優位になることが確認されており1)、温熱刺激によって血液循環が促進され、清潔や爽快感を得られるだけでなく、さまざまリラックス効果が期待できます。また、足浴で一時的に上昇した深部体温が低下することで、入眠が促されることも報告されています2)。
確認事項
足浴により、皮膚温、深部体温、血圧、心拍数が一過性に変動するため、バイタルサインが安定しているかを確認します。
実施方法
①患者さんにとって、楽な姿勢に調整します。②お湯の温度を調整します。一般的に38~40℃に調整しますが、患者さんの好みに合わせて調整します。
③お湯の量を調整します。お湯の量は、足底から15cm程度で副交感神経が優位になるとされています3)。
④お湯に下肢をつけます。足浴時間は、10~15分程度で副交感神経が優位になるとされています3)。実施する際は参考にするとよいでしょう。
呼吸法(腹式呼吸)
呼吸法とは
呼吸は意識的に調整できる営みであり、自律神経とも密接に関係しています。呼吸法によって、ガス交換が活発になる、呼吸中枢が刺激され脳がリラックスした状態になるなどの生理的効果も報告されています4)。
リラクセーションを促す呼吸法としては、基本的に腹式呼吸が用いられます。特に緊張状態のとき、リズムが乱れてしまう呼吸を意識的にゆったりとした呼吸に変えることで、精神的にリラックスすることができます。ただし、咳嗽で呼吸がしづらい、喘息などの呼吸器疾患がある患者さんに対しては、無理に実施しないように注意します。
期待される効果
腹式呼吸では、次のようなメカニズムで副交感神経が優位になり、不安・緊張、生理痛、慢性疼痛、術後疼痛の緩和などの効果が期待できます。
◆腹式呼吸のメカニズム息を吐く→腹腔内圧が上昇する→静脈が圧迫され血液が心臓に戻りにくくなる→心拍出量が減少し、血圧が低下する→交感神経が優位になる→息を吸う→静脈からの血液を心臓に戻りやすくしようとする→心拍数・血圧を改善しようとする→副交感神経が優位になる
確認事項
呼吸器疾患がある場合は、医師に相談・確認したうえで行います。
実施方法
①胸部や腹部を締め付けない服装で実施します。衣服を緩め、身体の力を抜いて、患者さんが最も楽に腹式呼吸ができる体位をとります。座位の場合は、足底をしっかりと床に付けて椅子に深く腰かけ、仰臥位では手足を楽な位置に置き、腹式呼吸がしやすい姿勢をとります(図1、図2)。
図1 座位
図2 仰臥位
②呼吸する際の身体状況がわかるように、手の位置を決めます。膝の上や腹部など、どこに置いてもよいですが、座位、仰臥位ともに、臍部付近に手を当てると呼吸を意識しやすくなります(図3)。
図3 腹式呼吸時の手の位置
③目は閉じても、開けた状態でもかまいません。患者さんがよりリラックスできるほうを選択してもらいます。
④「吸気」から開始します。腹部に空気が入るようなイメージで、鼻から大きくゆっくり息を吸います。「吸い込んだ空気が全身に広がるイメージ」「吸い込んだ空気でお腹を膨らませるイメージ」など、患者さんが理解しやすい言葉で伝えます。
⑤腹式呼吸をしている間は、胸部や腹部など、身体の動きに意識を集中するように声をかけます。
⑥呼吸のリズムは、6~8回/分となるようにします。最初のうちは、看護師が回数を数えてあげるとよいでしょう。
⑦一連の呼吸法を7~10回実施した後、「そのまま静かに呼吸を続けてください」と声をかけます。
⑧約1分間、深呼吸を続けてもらった後、目を閉じている場合は「ゆっくり目を開けてください」と声をかけ、終了します。
⑨1日10分程度を目安に実施するとよいでしょう。
漸進的筋弛緩法
漸進的筋弛緩法とは
筋肉を意図的に緊張させた後、弛緩させる動作を実施することでリラックスを促す方法です。精神科領域で考案されて発展しました。実施する際は、患者さんに筋肉の緊張と弛緩の感覚を意識してもらうとともに、継続的に取り組むことで、緊張をコントロールできるように指導するとよいでしょう。
期待される効果
不安・緊張緩和、不眠の改善、疲労回復の効果が期待できます。
確認事項
下肢の筋肉は、力を入れることで痙攣を誘発する恐れがあるため、無理はさせず、状態に変化がないか確認するようにします。
実施する際の基本的な考え方
●実施する筋群は、両上肢、両下肢、頸部・胸部、顔のような枠組みに分けられ、練習しながら、実施する部位を広げていきます。
●例えば、前腕や上腕で実施する場合、基本的に、「利き手→反対の手」「両上肢」の順で行いますが、両方の部位から開始することもあります。順番は実施者に合わせるとよいでしょう。
●筋肉の動きとしては、緊張と緩和を繰り返します。
●緊張させる時間より、弛緩させる時間を長くして、無理のないリズムで実施します。目安として、緊張が7~10秒、弛緩が10~20秒です。
実施方法(部位別)
実施する筋肉の部位はざまざまですが、ここでは看護領域で活用しやすいものを紹介します。
<前腕の筋群>
◆前腕内側(緊張)親指を強く握りこみ、手関節を屈曲するようにして力を入れます(図4)。
(弛緩)手をゆっくりと広げながら、手関節をもとに戻して力を抜きます。
図4 前腕内側の筋肉の緊張
◆前腕外側
(緊張)親指を内側にして、強く握りこむようにします(図5)。
(弛緩)手をゆっくりと広げながら力を抜きます。
図5 前腕外側の筋肉の緊張
<上腕の筋群>
◆上腕内側(緊張)親指を強く握りこみ、両腋窩を締めるようにしながら、肘関節を屈曲します(図6)。
(弛緩)ゆっくりと手を広げ、肘関節を伸展するようにして力を抜きます。
図6 上腕内側の筋肉の緊張
◆上腕外側
(緊張)指をまっすぐにして手を開いたまま肘関節を伸展し、肩の高さまで挙上します(図7)。
(弛緩)力を抜いて、上肢を下ろします。
図7 上腕外側の筋肉の緊張
<下肢の筋群>
◆下腿および大腿(前面)(緊張)足関節を背屈(つま先を上げるような動き)し、前脛骨筋に力を入れます(図8)。
(弛緩)足関節の力を抜きながら、もとに戻します。
図8 下腿・大腿(前面)の筋肉の緊張
◆下腿および大腿(後面)
(緊張)足関節を底屈(足底を床に押し付けるような動き)し、膝関節とその周囲の筋肉に力を入れます(図9)。
(弛緩)足関節、膝関節の力を抜きます。
図9 下腿・大腿(後面)の筋肉の緊張
<胸部の筋群>
(緊張)上肢の力を抜き、両肩を広げるようにしながら、息を吸い込みます。(弛緩)少しずつ息を吐き出します。
<肩・頸部の筋群>
◆肩(緊張)両肩を挙上し、首をすくめるような姿勢をとりながら、筋肉(僧帽筋、肩甲挙筋)に力を入れます(図10)。
(弛緩)両肩を下ろします。
図10 肩の筋肉の緊張
◆頸部(左右)(図11)
(緊張)頭部を右側に回し、左側の筋肉(胸鎖乳突筋を含む頸筋群)を緊張させます。
(弛緩)首の位置をもとに戻します。
(緊張)頭部を左側に回し、右側の筋肉(胸鎖乳突筋を含む頸筋群)を緊張させます。
(弛緩)首の位置をもとに戻します。
図11 頸部(左右)の筋肉の緊張
◆頸部(前後)(図12)
(緊張)頸部を前屈し、喉周辺の筋肉(胸鎖乳突筋を含む頸筋群)を緊張させます。
(弛緩)首の位置をもとに戻します。
(緊張)頸部を後屈し、後頸部の筋肉(胸鎖乳突筋を含む頸筋群)を緊張させます。
(弛緩)首の位置をもとに戻します。
図12 頸部(前後)の筋肉の緊張
<顔の筋群>
◆前額部(緊張)軽く閉眼し、額の筋肉(前頭筋)にしわを寄せるように動かします(図13)。
(弛緩)もとに戻します。
(緊張)軽く閉眼し、眉を上げるように前頭筋を動かします。
(弛緩)もとに戻します。
図13 前額部の筋肉の緊張
◆口唇
(緊張)口をすぼめて、口唇全体(口輪筋)に力を入れます。
(弛緩)もとに戻します。
自律訓練法
自立訓練法とは
催眠法から発展したリラクセーション法で、自己暗示により、心身のリラックスを促します。「温かさ」「重さ」など、自らの内的感覚に焦点を当て、自分で実施できる方法です。
「安定して落ち着いている状態」を感じ取る<背景公式>と、それぞれの部位に自己暗示を行い、内的体験をする6つの<標準公式>を確認しながら進めます(図14)。
身体的感覚を感じながら実施するため、楽な姿勢、集中できる静かな環境で行うとよいでしょう。感覚を大事にするあまり、無理に身体感覚を誘導させることがないよう注意します。
図14 背景公式と標準公式
期待される効果
不安や緊張に身体が反応(手足のふるえ、動悸など)してしまう場合や、心身にストレスを抱えている状態の患者さんが自ら実施することで、緊張状態を緩和させることができます。また、不眠や痛みなどの緩和も期待でき、日常生活をより快適にするための方法として活用されます。
確認事項
自らの内的感覚に焦点が当てられる状態でなければ実施できません。そのため、ある程度の理解力をもっているか確認します。
実施方法
①衣服を緩ませ、時計や装飾品など、身体を締め付けるものは外します。②椅子での座位、背もたれ椅子での半座位、仰臥位など、心地よい姿勢をとります。このとき、両上肢は膝の上に置く、または身体から少し離して力を抜き、リラックスした状態にします。
③1つの公式を5~6回繰り返します。
<背景公式>
目を閉じて、「気持ちが落ち着いている」という背景公式を、声に出さず頭の中で繰り返します。日々の煩わしさなどが浮かんできたら、無理にかき消さず、「ああ、〇〇を思い出してしまった」と浮かんだことを反芻します。気持ちが落ち着いたら、第1公式から開始します。
<第1公式>四肢の重感練習
「右腕がとても重たい」といったように、四肢が重たい感じを自己暗示します。利き手から開始し、利き手側の上肢→反対側の上肢→利き手側の下肢→反対側の下肢の順で5~6回繰り返した後、消去動作*を行います。
*上半身であれば背伸びをする動作、下半身であれば下肢を伸ばすような動作。すべての公式で同様の消去動作を実施する
<第2公式>四肢の温感練習
「右腕がとても温かい」といったように、四肢が温かい感じを自己暗示します。利き手から開始し、利き手側の上肢→反対側の上肢→利き手側の下肢→反対側の下肢の順で5~6回繰り返した後、消去動作を行います。
<第3公式>心臓の調整練習
公式1、公式2ができるようになると、心拍数が安定してきます。心臓の拍動を感じながら、「心臓が規則正しく動いている」と頭の中で唱えます。5~6回繰り返した後、消去動作を行います。
<第4公式>呼吸の調整練習
深く落ち着いた呼吸を練習します。「楽に呼吸している」「呼吸が落ち着いている」といった自己暗示を5~6回繰り返した後、消去動作を行います。
<第5公式>腹部の温感練習
内臓器官を調整する自律神経に暗示をかけるようにします。四肢に比べると温感を感じにくいため、心窩部周辺に手を当て、温かい感じを意識するとよいでしょう。5~6回繰り返した後、消去動作を行います。
<第6公式>額の清涼感の練習
額だけでなく前頭部全体に意識を向け、前頭連合野を中心とした大脳を鎮静させるために暗示をかけます。眉間、眼窩付近の緊張を取るように、額に心地よい風が当たるイメージで、「額が涼しくて心地よい」と自己暗示します。5~6回繰り返した後、消去動作を行います。
引用・参考文献
1)香春知永:足浴ケアが生体に及ぼす影響.看護実践の根拠を問う.小松浩子,他編.南江堂,1998.2)瓜巣敦子,他:足浴時間の違いが深部体温・睡眠に与える影響.岐阜医療科学大学紀要 2013(7):119-122.
3)清水三紀子,他:成人女性を対象にした生理・心理的評価に基づく足浴の最適な「水深」の検討.日本看護科学会誌 2015;35(0):18-27.
4)五十嵐透子:リラクゼーション法の理論と実際 第2版.医歯薬出版株式会社,2015.
●荒川唱子,編:看護にいかすリラクゼーション技法.医学書院,2001.
●小坂橋喜久代:リラクセーション技法のエビデンス. ケア技術のエビデンス.深井喜代子,監.へるす出版,2006.
●小坂橋喜久代,他:リラクセーション法入門.日本看護協会出版会,2013.