医療用麻薬の管理|取り扱いの注意点、記録の書き方、トラブル発生時の対処
- 公開日: 2021/9/7
医療用麻薬とは
医療用麻薬は、オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)とも呼ばれ、脳や脊髄に高密度に分布しているオピオイド受容体に結合することで、がんによる痛みや呼吸困難感を緩和する薬剤です。
オピオイドには、悪心・嘔吐、便秘、眠気などの副作用もあるため、使用する際はオピオイドの種類に合わせた副作用対策が必要です。
オピオイドの種類
オピオイドは、使用上限のある(鎮痛効果に限界のある)弱オピオイドと、使用上限のない(鎮痛効果に限界のない)強オピオイド(表)に大別されます。
表 がん性疼痛に用いられる主な強オピオイド
一般名 | 商品名 | 特徴・使用上の注意点など |
---|---|---|
モルヒネ | MSコンチン® アンペック® など | ・腎機能が低下している患者さんには注意が必要 ・オピオイドで唯一坐剤がある ・副作用として悪心・嘔吐、便秘、眠気などがある |
ヒドロモルフォン | ナルサス® ナルベイン® など | ・副作用はモルヒネと同等 |
オキシコドン | オキシコンチン®TR オキファスト® など | ・副作用はモルヒネと同等 |
フェンタニル | フェントス® デュロテップ®MT など | ・オピオイドで唯一貼付剤がある。高熱により吸収が促進されるため注意が必要 ・速放性製剤に、舌下錠とバッカル錠があり、使用方法の指導が必須 ・副作用である便秘と眠気は、モルヒネよりも比較的少ない |
タペンタドール | タペンタ® | ・便秘、傾眠、悪心・嘔吐などの副作用は他のオピオイドより少ない ・速放性製剤がないため、レスキュー薬は他のオピオイドの速放性製剤を使用する |
メサドン | メサペイン® | ・他のオピオイドで効果が不十分な場合に使用する ・QT延長や呼吸抑制に注意が必要 |
※術後疼痛などに使われるペンタゾシン(ソセゴン®など)やブプレノルフィン(レペタン®など)もオピオイドだが、拮抗作用があるため、他のオピオイド使用中は併用しない。例えば、オキシコンチン®TRを内服している患者さんに、レスキュー薬としてソセゴン®は使用しない(かえって痛みが増強することがある)。
比較的痛みの程度が軽い場合は、弱オピオイドのコデインやトラマールを開始することがあります。弱オピオイドで鎮痛効果が十分得られない場合や、強い痛みで早急に対処が必要な場合は、強オピオイドからの開始が推奨されています1)。
強オピオイドは、徐放性製剤を定期的に使用し、急に出現する突出痛や体動に伴う強い痛みに対しては、徐放性製剤と同じ種類の速放性製剤(レスキュー薬)を使用することが基本です。
また、ロキソプロフェンやアセトアミノフェンといった一般的な鎮痛薬や、リリカ®などの鎮痛補助薬と組み合わせて使用することで、より効果的な疼痛緩和がはかれるとされています。
オピオイドの取り扱いの注意点
オピオイドは、「麻薬及び向精神薬取締法」により、取り扱いが厳しく定められています。自己管理が可能な状態の患者さんには、自分でオピオイドを管理してもらうことが可能ですが、他者の目に触れないよう自宅でも引き出しなどに保管し、紛失や盗難に十分に注意するよう指導します。
また、残数確認をすること、他者に譲渡しないこと、中止になった場合は薬局や病院に持参することも伝えます。
病状などにより自己管理が難しい場合、入院中は病棟管理とします。筆者の病院では、オピオイドは麻薬処方箋(図1)と引き換えに薬剤部から受け取ります。薬剤部からオピオイドを受け取る際と返納する際は、必ず麻薬取扱記録簿に記載し、使用するたびに使用量と残量、確実に患者さんに投与したことを確認します。薬剤の変更や中止があった場合は、病棟で廃棄するのではなく、必ず薬剤部に返納します。
図1 麻薬処方箋(例)
実際に、患者さんに薬剤を使用する際も注意が必要です。フェントス®などの貼付剤は、薬剤に触れないように手袋を装着して取り扱い、除去する際も同様に、薬剤に触れないように二つ折りにします。
オピオイド使用時の記録の書き方
オピオイドの受け取りや返納、使用した際は、院内で決められた記録場所に、薬品名と使用量、残量、返納する場合は返納数(量)などを記載します。
筆者の病院では、薬剤部からオピオイドを受け取った際(または自宅から患者さんが持ち込んだ際)、麻薬取扱記録簿に、①受取日、②患者ID、③患者氏名、④薬品名、⑤受取数量、⑥受取者氏名、⑦持参薬か、⑧看護師管理か自己管理かを記載します(図2)。
返納する際は、麻薬取扱記録簿の受取欄に記載されている対象薬剤の欄に、①返納日、②返納数(量)、③返納者氏名を記載します。
図2 麻薬取扱記録簿(例)
受け取り、返納のいずれも麻薬取扱記録簿のほかに、診療録中の経過表にも同様の記載をしています。薬剤の受け取りと返納時には、看護師と薬剤師によるダブルチェックを行っています。
オピオイドを使用した際は、経過表と麻薬施用票(患者さんが自己管理している場合は自己管理表)(図3)に、①使用日時、②施用量、③残数(量)、④確認看護師氏名/実施看護師氏名を記載しています。
図3 麻薬施用票(例)
オピオイド使用時のアセスメントのポイント
オピオイドは患者さんの苦痛を緩和するためにとても有用な薬剤ですが、患者さんによっては、「寿命を縮める」、「最後の薬」など抵抗感を持っていることも少なくありません。
特にオピオイドを開始した際は、眠気や悪心、便秘などの副作用に不慣れで、使用することに不安が高まりやすいものです。医師や薬剤師と連携しながら薬剤の特徴を説明し、安全に使用できることなど正しい知識を伝えるほか、患者さんと一緒にレスキュー薬を使用するタイミングを考えて効果を評価するなど、丁寧な支援を心がけましょう。
オピオイド開始前に、痛みの評価シート(図4)を用いて、患者さんとともに痛みの包括的な評価と実現可能な目標(痛みに妨げられず眠れるなど)を設定し、定期的に薬物療法の評価を行うことも疼痛緩和を促進するうえで有効です。
図4 痛みの評価シート(例)
日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版.金原出版,2020、p.25-37.を参考に作成
痛みを自分で表現しづらい患者さんの場合は、ベッドからトイレまで移動する際に、苦痛な表情がみられなくなったといった日常生活の観察や、「今の疼痛緩和に満足しているか」を確認することも評価方法の一つです。
また、なるべく苦痛を感じずに過ごせるような日常生活の援助や、精神的支援なども薬物療法とあわせて行いましょう。
トラブル発生時の対処の仕方
オピオイドの破損、紛失、盗難などが生じた際は、都道府県知事への「麻薬事故届」が必要となり、盗難の場合には警察への通報も必要です。病棟で破損や盗難などがあった場合には、ただちに病棟管理者に連絡のうえ、麻薬管理者(薬剤部長など)に報告します。
患者さんの不注意で薬剤を取り落としたり、紛失した場合は、麻薬事故届の提出は不要とされていますが、状況をよく調べ、盗難や詐取の疑いがある場合は、都道府県や警察への届け出が必要です。
引用・参考文献
1)World Health Organization:WHO Guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents 2018.
●日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会,編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014年版.金原出版,2014,p.36.
●日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会,編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版.金原出版,2020、p.34-8,p.53-66.
●余宮きのみ:がん疼痛緩和の薬がわかる本 第3版.医学書院,2019,p.46-51.
●岡本禎晃:知識をつけよう!オピオイド.がん看護 2021;26(1):7-31.
●厚生労働省医薬食品局 監視指導・麻薬対策課:病院・診療所における麻薬管理マニュアル.2011(2021年6月10日最終閲覧)https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/mayaku_kanri_01.pdf