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気管挿管患者さんのQOLを見据えたケア【PR】

  • 公開日: 2021/3/8
  • # 注目ピックアップ
  • # 人工呼吸器の合併症
  • # 口腔ケア

集中治療室(ICU)では、患者さんの命を守る医療処置が優先されるのはもちろんですが、同時に回復後の患者さんの状態を見据えたケアも求められています。気管挿管中は、口腔ケアや固定テープによる皮膚トラブルの予防、気管内チューブによる口唇や口腔内のトラブルの予防といったケアも大切です。今回は、公立陶生病院のICUにおける気管挿管患者さんのQOL向上のための取り組みについて、さまざまな視点から紹介します。


皮膚トラブル改善のため、気管内チューブ固定具の導入を検討

 気管挿管は、患者さんの生命を維持するために重要ですが、気管内チューブの固定は、気管内チューブ圧迫による口角・口唇・口腔内トラブル、固定テープの剥離刺激による皮膚トラブルなどの原因となります。口腔内トラブルは、抜管後の食事摂取の苦痛や障害となることもあり、これらは患者さんのQOLに大きな影響を及ぼすこともあります。当院のICUではかねてより、テープ交換や巻き方、固定方法の改善に努めてきましたが、皮膚の剥離(スキン-テア)や口腔内の潰瘍などの発生を著しく減らすにはいたりませんでした。


 そのような中、テープを用いることなく、気管内チューブを所定の位置に固定できるデバイス(気管内チューブ固定具)に着目しました。この気管内チューブ固定具は、①気管内チューブを固定したまま簡単に左右に動かすことが可能で、口腔ケアが容易となり、口唇や皮膚への圧力を緩和できること、②皮膚に接触するパッドに皮膚保護剤(ハイドロコロイド)が用いられており、皮膚に愛護的であることなどの特長がありました。導入にあたっては、本当に患者さんにとってメリットがあるデバイスなのかを見極めるため、皮膚トラブルなどの発生について、従来のテープ固定との比較検討を行いました。


図1 気管内チューブ固定具の例

アルケア アンカーファスト


皮膚トラブルとともにコストパフォーマンスも検証

気管内チューブ固定具の導入により皮膚トラブルが減少

 対象は、テープ固定をした患者さん127名(2009年9月~2010年8月)と、気管内チューブ固定具を使用した患者さん119名(2012年5月~2013年5月)で、両群間に皮膚トラブルに影響を及ぼすと考えられる栄養状態や重症度などの患者背景に差はみられませんでした(表1)。皮膚トラブル(口角・口唇・口腔内トラブルも含む)の発生率は、テープ固定群は29.1%、気管内チューブ固定具群では6.7%と有意に低下していました(表2)。テープの剥離刺激や気管内チューブによる同じ部位への長時間の圧迫は、皮膚トラブルの大きなリスクとなります。気管内チューブ固定具を使用することで、これらのリスクを回避できたことがトラブル低下につながったと考えられました。


表1 気管内チューブ固定具導入前後の患者背景
気管内チューブ固定具導入前後の患者背景


表2 気管内チューブ固定具導入前後の皮膚トラブルの発生割合
気管内チューブ固定具導入前後の皮膚トラブルの発生割合


 一方で、気管内チューブ固定具群では口唇に4.2%、口腔内に5.0%のトラブルがみられました(表3)。①浮腫による皮膚の脆弱化で傷つきやすい状態であったことや、②バイトブロックによる密着刺激がリスク要因として考えられました。バイトブロックは気管内チューブを噛むことができないように挿入するものですが、患者さんにとって異物であり、苦痛をもたらすものです。この検証をきっかけに、バイトブロックは極力使用しない方針へと切り替えました。患者さんに十分に説明して噛まないよう理解を促したり、脳の障害などでバイトブロックがどうしても必要な患者さんには、気管内チューブに直接取り付けるタイプを使用するなど工夫しています。


表3 気管内チューブ固定具導入前後の部位別トラブルの割合
気管内チューブ固定具導入前後の部位別トラブルの割合

人件費と材料費を合わせたコストパフォーマンスを検証

 実際に患者さんへのメリットは確認できたものの、現実的に病院として導入が可能かどうか、コストパフォーマンスも検証する必要がありました。そこで、気管内チューブ固定にかかわるコストを、テープ固定群と気管内チューブ固定具群で比較しました(調査実施期間2012年8月~12月)。コストの内訳は「材料費」「人件費」「固定に伴う皮膚損傷の年間処置費」としました。気管内チューブを固定する間、対象施設では医師が必ず気管内チューブを保持するルールになっていたことから、人件費としては看護師だけではなく医師のコストも算出しました(図2)。


図2 気管内チューブ固定にかかわるコスト(時間)の比較
チューブ固定にかかわるコストの比較


 人件費にかかわる平均実施時間は、初回固定では両群に差はなかったものの、交換時にはテープ固定群782秒に対し、気管内チューブ固定具群は320.7秒と有意に減少していました。これは交換時に行うケアの違いによるもので、テープ固定の場合、1日1回の交換時のみ気管内チューブ位置の変更が可能なため、このタイミングで口腔ケアや口唇・頬部の清拭を十分に行う必要があり、時間がかかります。その間、医師はずっと気管内チューブを保持することになり、医師の時間もとられます。一方の気管内チューブ固定具群は、パッドの汚染などのトラブルがなければ数日間の使用が可能で、いつでも気管内チューブの位置を移動させることができるため、交換時のケア時間は短くて済みます。


 材料費は、気管内チューブ固定具群よりもテープ固定群のほうが、1日1回の交換でテープ代とリムーバー(剥離剤)代合わせても安価でした。しかし、実施時間から算出した医師と看護師の人件費を合わせて計算すると、3日以上の挿管では気管内チューブ固定具群のほうがコストパフォーマンスは優れていました。さらに、固定に伴う皮膚損傷の年間処置費を皮膚トラブルの発生数から算出すると、テープ固定群11,701円に対し、気管内チューブ固定具群は715円となり、気管内チューブ固定具群のほうが安価でした。


 これらの結果をもとに、院内の許可を得て気管内チューブ固定具導入にいたりました。現在では、皮膚トラブルの予防を優先的に考え、翌日(約12時間後)に抜管予定の患者さんはテープ固定、それ以外の患者さんには気管内チューブ固定具を装着するようにしています。


自信をもってケアを提供できるまでトレーニングを徹底

 ICUでは、新しいケアを導入する前には、スタッフ全員が患者さんに自信をもってケアを提供することができるまで、トレーニングを徹底して行っています。気管内チューブ固定具の場合も、看護師と医師がともに、添付文書を見なくても正しく装着できるように、発泡スチロールの人形に気管挿管した患者モデルを使って繰り返し訓練を重ね、チェック表をもとに一つずつ手順を確認していきました。


 気管内チューブ固定具の装着方法自体はそれほど難しいものではなく、スタッフが習得しやすいという印象でした。ただし、皮膚保護剤パッドがしっかりと患者さんの両頬の皮膚に密着していないと、唾液などで汚染され、皮膚トラブルの原因となります。皮膚保護剤パッドの剥離紙を剥がす前には、患者さんの皮膚にフィットするか実際に当てて確認しています。痩せて頬骨が出ていたり、顔が小さい患者さんなど、密着させるのが難しいときは、パッドに切れ込みを入れてフィット感をよくします。固定の際には、しっかりと開口させて、気管内チューブが中でたわんでいないことを確認すること、取り外す際にはリムーバーを用いて、皮膚保護剤パッドを愛護的に剥がすことが大切です。


気管内チューブ固定具の装着における注意点
・装着前に、皮膚の清拭を行い、よく乾燥させ脂分が残らないようにする。
・しっかりと開口させて、口腔内で気管内チューブがたわんでいないことを確認して固定する。

アルケア 固定具のコツ



 これを機にテープ固定についてもケアの見直しを行い、医師とともに手技の統一を図りました。特に重点を置いたのが、気管内チューブへのテープの巻き方、皮膚へのテープの貼り方と剥がし方でした。テープを貼るときには、テンションをかけずにテープを皮膚の上に落としていくような感覚で貼るようにし、テープを剥がすときには、リムーバーを必ず使うようにします。これにより、テープ剥離時の皮膚トラブルはほとんど発生していません。


テープ固定のポイント
<気管内チューブのテープの巻き方>
口角に圧がかかるのを防ぐため、気管内チューブをすくい上げるようにテープを巻く。その際、気管内チューブが直接皮膚につかないよう、テープをクロスさせて巻く。

テープ固定のコツ


<皮膚へのテープの貼り方>
テンションをかけずに、上からテープを落とし押さえるようにして貼る。

<皮膚からのテープの剥がし方>
リムーバーを必ず使用する。しっかりと塗布した後、テープが浮いてくるまで待ってから剥がす。

口腔ケアを見直し、より効率的で効果的な方法に

 気管内チューブ固定具の導入では、皮膚トラブルの予防だけではなく、口腔ケアにおいてもメリットが大きいと考えています。気管内チューブ固定具の導入後、気管挿管患者さんの口腔ケアについて、数々の文献が報告され始めました。下辻ら1)は、口腔内の細菌数は、口腔ケア4時間後から有意な増加を認めるため、4時間以内での口腔ケアの実施を推奨しています。


 日本集中治療医学会・日本クリティカルケア看護学会「人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案)」2)では、歯垢を除去し洗浄する「ブラッシングケア」は1日に1~2回、これにより簡易的な「維持ケア」を組み合わせて少なくても1日4~6回実施することが望ましいとしています。維持ケアは、手順を簡略にする一方で、頻回に実施することで口腔内の湿潤を保ちながら良好な口腔環境を維持することを目的とするものです。


 わたしたちの検討でも、これらの新たな方法と、従来行ってきた熟練した看護師による1日3回のブラッシングとは同等の効果がみられることが判明し、現在は2回のブラッシングと4回の維持ケアを4時間おきに計6回行う方法を採用しています。気管内チューブ位置の変更が容易な気管内チューブ固定具の導入により視野の確保が可能になったことから、口腔内の観察やケアがしやすくなったことは、これらの検討を促進したと考えています。


気管挿管下でも選択肢を提供できるケアを

 気管挿管患者さんのQOLを向上させるための取り組みは、皮膚トラブルの予防だけに留まりません。特に近年、人工呼吸期間やICU入室期間の短縮など患者アウトカムの改善のために、適切な疼痛管理を行ったうえで浅い鎮静深度を維持することが推奨されています3)。当ICUでも、浅い鎮静での管理により、意識がはっきりしている患者さんが多く、気管内チューブによる不快感を訴えることもあります。不快感を解消するために、位置をいつでも変えられるのも、気管内チューブ固定具のメリットだと考えています。


 また、口腔内の乾燥や喉の奥の痛みを訴える患者さんが多く、それが自己抜管につながることもあります。口腔内の乾燥については、保湿スプレーを患者さんの経済的負担にならないように処方薬としてこまめに用いて、予防するように努めています。


 喉の奥の痛みでは、潰瘍が形成されている場合もあるため、口腔内だけではなく、喉の奥までよく観察するようにしています。口元のチューブだけが動いて奥のところが上手く動いていない場合もあるため、喉の部分までしっかりと移動できるように手技を徹底することも課題です。こうした患者さんでは、抜管後も痛みを訴えることも少なくありません。痛みがあれば、抜管後に食事を摂ることに支障が出るかもしれません。抜管後の生活を見据えたケアを心掛けていきます。


 気管挿管に限らず、ICUでは患者さんの命を守る医療処置やケアが優先されるのは当然のことです。しかし、そのような中でも患者さんの希望がかなえられるように、可能な限りの選択肢を提供できるケアを行うことが重要だと考えています。それが仮に全体からみて数%と稀な意見だとしても、その患者さんにとっては100%の意見なのです。これからも一人ひとりの患者さんが求めることに真摯に対応し、QOLの向上に取り組んでいきたいと考えています。


引用・参考文献

1)下辻聖子,他:心臓血管手術後の経口挿管患者におけるブラッシング法のみを用いた口腔ケアによる口腔内細菌叢の経時的変化.日本クリティカルケア看護学会誌 2016;12(3):65-71.
2)日本集中治療医学会・日本クリティカルケア看護学会合同委員会:人工呼吸器関連肺炎予防のための気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド(案).2016(2020年12月14日閲覧)https://www.jsicm.org/pdf/koku_care2017.pdf
3)Devlin JW,et al:Clinical practice guidelines for the prevention and management of pain, agitation/sedation, delirium, immobility, and sleep disruption in adult patients in the ICU.Crit Care Med. 2018;46(9):e825-73.


公立陶生病院
患者支援センターや周産期母子センターなどを有し、「地域の患者さんを支える病院」「患者さん主体の医療」「各科で連携したサポート体制」をめざし、先進医療を取り入れ、地域に寄り添い支え続けている。

〒489-8642
愛知県瀬戸市西追分町160番地
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公立陶生病院




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