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がんの疼痛緩和・疼痛コントロール|疼痛の分類、評価・アセスメント、薬物療法、ケア、看護計画

  • 公開日: 2022/7/31

がん疼痛とは

 がん疼痛とは、がん患者さんが体験する痛みのことを指します。がんと診断された時点ですでに20~50%、進行がん患者さんでは70~80%にがん疼痛が存在するとされています1)

 痛みは主観的な症状であり、客観的な評価が難しい側面があるものの、がん疼痛に対するケアを考える際、患者さんが痛いと訴えればそこに痛みは存在すると捉えます。一方で、患者さんからの訴えがなかったとしても、がん疼痛はあるという前提のもと、QOLの維持につながる緩和ケアを考えていく必要があります。

疼痛の分類

 がん疼痛はその原因により、次の4つに分けられます。

・がん自体が直接の原因となる痛み(腫瘍の浸潤・増大、転移など)
・がん治療に伴い生じる痛み(化学療法による副作用、術後痛など)
・がんに関連した痛み(リンパ浮腫、口内炎、褥瘡など)
・がん患者さんに併発したがんに関連しない痛み(頭痛、帯状疱疹など)

 また、痛みの性質により、侵害受容性疼痛(体性痛・内臓痛)と神経障害性疼痛に大別されます。ほかに、病巣周囲や病巣から離れた部位で自覚する痛みとして関連痛があり、例えば上腹部内臓のがんでは、肩や背部に痛みを認めることがあります2)。がん疼痛では、これらが混在しているケースが多く、痛みの病態も変化していきます。

【関連記事】
第2回 がんの痛みの種類と原因ごとの薬物療法を知ろう|がんの痛みと緩和①

痛みの評価、アセスメント

 前述したように、がんと診断されたときから、がん疼痛は存在するものとして緩和ケアを実施していきます。その際、主に次の点について、評価・アセスメントを行います。

痛みの部位、範囲

 痛みの部位や範囲を確認することで、痛みの原因・性質の把握や薬剤の選択につなげることができます。疼痛部位は1カ所とは限らず、患者さんが強い痛みを感じる部位についてのみ訴えている可能性もあります。そのため、患者さんが訴えている部位以外に、痛みが生じているところがないか確認することが大切です。

痛みの経過

 痛みの発生時期、痛みの持続時間及び期間、痛みの増減などを確認し、痛みの経過を知ることで、がんによる痛みか、それともそれ以外の痛みなのかを予測していきます。これまでとは異なる痛みが突発的に発生した場合は、骨折や消化管穿孔、出血など、合併症が生じている可能性があるため注意が必要です。

痛みの強さ

 痛みは主観的な症状のため、痛みのアセスメントツール(図1)を用いた評価を行います。現在の痛み、一番強いときの痛み、一番弱いときの痛み、1日の平均の痛みに分けて評価するとよいとされており3)、治療開始前に評価を行うことで、治療効果の判定や疼痛コントロールの指標として役立てることができます。

図1 痛みのアセスメントツール

痛みのパターン

 がん疼痛には、1日に12時間以上続く「持続痛」と、一過性の痛みの増強である「突出痛」があります。1日における痛みの出現パターンを知ることで、治療薬の選択や使用する量、投与間隔などを決めるのに役立ちます。

痛みの性状

 痛みの性状を把握することで、病態の同定や適切な薬剤の選択につなげることができます。体性痛は刺すように鋭くズキズキした痛み、内臓痛は重く締め付けられるような痛み、神経障害性疼痛は焼けるような、ビリビリとした痛みを認めるのが特徴です。

 痛みをうまく表現できない患者さんに対しては、「どのように痛みますか?」と漠然した質問ではなく、「ズキズキと痛みますか?」「ズーンとした重い痛みですか?」といったように、痛みの表現を具体的に示すことで、患者さんも答えやすくなります。

痛みの増悪因子・軽快因子

 痛みの閾値に影響する因子を確認することで、疼痛コントロールに役立てることができます。増悪因子(不眠、疲労、不安、恐怖など)は避けるか取り除くようにし、軽快因子(安静、保温、冷却、マッサージなど)を積極的に取り入れた生活パターンを組み立てたり、レスキュードーズなど薬剤の予防的投与を実施したりすることで、できるだけ苦痛を和らげるようにします。

日常生活への影響

 がんの痛みによって、社会的活動だけでなく、食事、排泄、睡眠といった基本的な日常生活さえも送りづらくなることがあります。制限されている範囲が拡大すると、ADLやQOLの低下にもつながるため、痛みによりどの程度の支障や制限が生じているか、患者さんの思いと合わせて聴取するようにします。

【関連記事】
神経障害性疼痛(しびれ、電気が走るといった異常感覚と伴う)はどのようにアセスメントするのですか?
医療用麻薬の管理|取り扱いの注意点、記録の書き方、トラブル発生時の対処

がん疼痛の薬物療法

鎮痛薬使用の4原則

 『WHOがん疼痛ガイドライン』(以下、ガイドライン)では、疼痛治療の目標を「患者にとって許容可能な生活の質を維持できるレベルまで痛みを軽減する」4)とし、鎮痛薬を使用する際の原則として、次の4つを示しています。

・by mouth(経口的に)
・by the clock(時間を決めて)
・for the individual(患者ごとに)
・attention to detail(そのうえで細かな配慮を)

 以前は、「by the ladder(除痛ラダーに沿って)」も含まれていましたが、患者さんごとに評価を行い、それに基づいて治療法を選択する5)という観点から、現在のガイドラインでは削除されています。

3段階除痛ラダー

 3段階除痛ラダー(図2)は、鎮痛薬を使用する際の原則からは削除されましたが、ガイドラインにANNEX(付録)として収められ、疼痛マネジメントにおける一つの目安として活用されています。3段階除痛ラダーは、第1段階から始める必要はなく、痛みの強さによって、第2段階あるいは第3段階から開始されることもあります。

図2 3段階除痛ラダー

3段階除痛ラダー

がんの疼痛緩和・疼痛コントロールで用いられる主な薬剤

オピオイド鎮痛薬

 オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)は、オピオイド受容体に結合することで鎮痛作用を発揮する薬剤です。軽度から中等度の痛みに対して用いられる弱オピオイドと、中等度から高度の痛みに対して用いられる強オピオイドに大別されます。

 基本的に経口投与ですが、患者さんの状態によっては静脈内や直腸内などへの投与が行われることもあり、それに合わせて適切な薬剤が選択されます。主な副作用として、嘔気・嘔吐、便秘、眠気などがあり注意が必要です。

非オピオイド鎮痛薬

 非オピオイド鎮痛薬(以下、非オピオイド)には、非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)とアセトアミノフェンがあり、軽度の痛みに対して用いられます。

 NSAIDsは、消化管症状や腎機能障害、肝不全などが主な副作用として挙げられ、投与量が増加すると副作用のリスクも高まります。一方、アセトアミノフェンは抗炎症作用は弱いものの、消化管や腎機能、血小板系への負荷が少なく、NSAIDsの使用が難しい患者さんに対して用いられることがあります。

鎮痛補助薬

 鎮痛補助薬は、オピオイドや非オピオイドと併用することで、鎮痛効果を高めることを目的とした薬剤です。使用される薬剤として、抗うつ薬、抗痙攣薬、中枢性筋弛緩薬、ステロイドなどがあります。

レスキュードーズ

 レスキュードーズとは、痛みの増悪、鎮痛効果の切れ目、突出痛などが生じるタイミングで、臨時で追加投与される鎮痛薬のことを指します。原則として、定期投与されている徐放性製剤と同じ成分の速効性製剤が用いられ、食事や体動など、突出痛の出現が予測できる場合は、刺激が起こる前に予防的に投与されることもあります。

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がん疼痛のケア

服薬指導

 オピオイドを使用する場合は、患者さんと家族が正しい知識を得ていることが大切です。

 「麻薬中毒になるのではないか」「寿命が縮まるのではないか」といった誤った知識による不安があると、必要以上に痛みを我慢してしまうなど、患者さんにとって不利益な結果をもたらすおそれがあります。指導をする際は一方的な説明に終始せず、患者さんの不安や疑問を一つひとつ解消し、納得したうえでオピオイドの使用を開始できるようなサポートを心がけます。

 また、副作用に対する知識も伝えておく必要があります。特に、嘔気・嘔吐や便秘は頻発する副作用のため、オピオイド開始時には制吐剤や緩下剤を併用し、対策を講じることを説明しておきます。

 オピオイドは定期投与される薬剤ですが、多くの患者さんが突出痛を経験するため、レスキュードーズの使用法についての指導も行います。

非薬物療法

 がんによる痛みは、患者さんの主観による症状であるため、痛みの閾値にアプローチができれば、薬物療法以外でも疼痛緩和の効果が期待できます。温・冷罨法、軽い運動、環境整備、ポジショニング、マッサージなど、患者さんが心地よいと感じるケアの導入が可能か検討します。

医療者への痛みの伝え方

 がんによる痛みは、患者さん一人で抱え込む症状ではありません。医療者に伝えることで痛みの評価ができ、より患者さんの状態に適した薬剤の選択や環境整備につなげることができます。

 患者さんが主体的に痛みを伝えられるよう、痛みのアセスメントツール、痛み日記、フローシートの活用について指導し、疼痛コントロールが十分得られない場合の緊急連絡先も伝えるようにします。

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看護計画

「オピオイドによる疼痛コントロールを行っている乳がん患者さん」を例に看護計画を紹介します。

看護問題
# がん疼痛に関連した安楽障害

看護目標
・適切なオピオイド使用により疼痛をコントロールできる

観察計画(O-P)
・バイタルサイン
・痛みのパターン
・痛みの部位と程度(安静時・体動時)
・痛みが増悪する状況
・オピオイドの効果
・レスキュードーズの使用頻度
・オピオイドによる副作用の有無と程度
・倦怠感の有無
・嘔気・嘔吐の有無
・日中の活動状況
・食事量・水分摂取量
・排泄状況

ケア計画・援助計画(T-P)
・痛みのアセスメントスケールに基づいた痛みの評価
・疼痛出現状況からがん疼痛以外の痛みが生じていないかアセスメントする
・医師の指示に基づいたオピオイド投与
・患者さんが安楽と感じる環境整備
・温罨法・冷罨法
・ポジショニング
・排便コントロール
・食欲不振の場合、栄養士と連携して食事内容の見直しや形態変更を行う

教育計画(E-P)
・オピオイドに対する正しい知識について、患者さんと家族に指導する
・疼痛がある場合は必ず医療者に知らせるように伝える
・予測できる突出痛の前にレスキュードーズが使用できるよう、痛みの日記、フローシートの活用方法を指導する
・患者さん、家族、医療者が共通認識で疼痛コントロールに取り組めるよう、都度すり合わせを行う

【関連記事】
足浴に関する看護計画|がん性疼痛で入浴できない患者さん

引用文献

1)厚生労働省医薬・生活衛生局・監視指導・麻薬対策課:医療用麻薬適正使用ガイダンス.2017,p.2.(2022年7月22日閲覧) https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/iryo_tekisei_guide2017b.pdf
2)日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会,編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版).金原出版,2020,p.22.(2022年7月22日閲覧) https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2020/pdf/pain2020.pdf
3)日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会,編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版).金原出版,2020,p.34-5.(2022年7月22日閲覧) https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2020/pdf/pain2020.pdf
4)World Health Organization:WHO Guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents.2019,p.9. (2022年7月22日閲覧)https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/279700/9789241550390-eng.pdf?ua=1
5)日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会,編:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版).金原出版,2020,p.40.(2022年7月22日閲覧) https://www.jspm.ne.jp/guidelines/pain/2020/pdf/pain2020.pdf

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