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老年看護|高齢者の特徴、アセスメントとケア、看護計画

  • 公開日: 2022/8/10

老年看護とは

 老年看護とは、高齢者とその家族がこれまでの人生で培ってきた経験や考え方、人とのつながりを尊重し、その人らしく生活するための手段や方法を共に考え支援するものです。

 加齢や身体機能の低下に伴いできることが限られたり、大切な存在との別離を経験したりしますが、「年齢を重ねる=ネガティブなこと」ではありません。社会生活の中で担ってきた役割の変化や老いを前向きに受容できれば、それが老年期でその人らしい生活を送るきっかけとなります。

老年看護において大切なこと、老年看護における看護師の役割

 老年期は人生の最終ステージです。人生の振り返り、慢性疾患との共生、死の受容などの過程を経て、その人の人生を完成させる段階でもあります。

 社会生活からのリタイアを経験し、自身の存在価値や意義を見失いがちな時期ともいえるため、変化に適応できるよう支援するとともに、高齢者とその家族が前向きにこの時期を過ごせるよう、高齢者の特徴や役割を理解したうえでかかわりを考えることが大切であり、看護師に求められる役割といえます。

 また、老年看護においては、治癒を目指すというよりも、その人が持っている残存機能に目を向けたケアの提供が求められます。

高齢者の特徴

 前述したように、老年看護においては、高齢者の特徴に合わせたかかわりやケアが求められます。高齢者の主な特徴を理解しておきましょう。

身体機能・精神機能の低下

 高齢者は複数の疾患を抱えていることが多く、基礎体力も低下しているため、一度状態が悪化すると改善までにより多くの期間を必要とします。長期的な安静によりADLや筋力が落ちるなど身体機能が低下しやすく、転倒による骨折のリスクにつながる可能性があるほか、認知症発症のきっかけになることもあります。

 記憶力・分析力・学習力といった精神機能の低下を認めるのも特徴です。機能低下の程度は個人差があり、高齢者の場合はこれまでの生活習慣、基礎疾患、社会的地位に左右されます。

症状が出にくい、自覚症状に乏しい

 「熱も呼吸苦もないにもかかわらず、SpO2を計ると94%までしか上昇せず、画像検査を行ったところ肺炎が発見された」といったように、高齢者では疾患特有の症状が表れにくかったり、そもそも自覚症状の訴えがないというようなケースがよくみられます。状態の悪化が見過ごされやすいため、自覚症状に頼らず、いつもと様子が違うところがないか注意して観察する必要があります。

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高齢者で主にみられる症状に対するアセスメントとケア

 高齢者は身体・精神機能の低下に伴い、さまざまな症状(障害)が生じます。それぞれの症状について、アセスメントとケアのポイントを押さえておくことが大切です。

転倒・転落

 たとえ患者さんの残存機能が高く保たれていても、転倒・転落のリスクはあるものとしてかかわります。入院時には必ず転倒・転落チェックリストを用いて、リスクを把握したうえでケアプランを立てていきます。チェックリストによる評価は定期的に行い、患者さんの状態に見合ったケアプランとなるように努めます。

 患者さんの1日の生活リズムや居住空間を確認し、ベッドから布団への変更やセンサー使用を検討するほか、ベッド周囲の整理・掃除(床に物を置かない、水漏れがある場合はすぐに拭き取るなど)をこまめに行い環境整備に努め、転倒・転落リスクを減らします。

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麻痺・拘縮

 すでに麻痺や拘縮がある場合は、どれだけの機能が残っているか基本的日常生活動作(BADL)をもとにアセスメントします。

 麻痺側は感覚が乏しく、骨折、脱臼、皮膚損傷といったリスクがあるため、クッションや枕を用いて良肢位を保てるようにしたり、皮膚の保護を行ったりします。一方で、動かさないことによって肺塞栓症、拘縮の進行、褥瘡形成などのリスクも高まるため、定期的な体位変換やリハビリテーションの早期導入が行えるように調整します。

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摂食・嚥下障害

 高齢者では、歯の欠損による咀嚼力低下、口腔から食道にかけての筋力低下、食への無関心など、飲み込みに関連した機能低下が起こってきます。

 むせ、湿性咳嗽、喀痰、口腔内食物残渣、食欲低下、体重減少などを認めた場合は、摂食・嚥下障害を疑います。摂食・嚥下障害では、誤嚥性肺炎発症のリスクが高まるため、言語聴覚士による嚥下訓練などにスムーズにつなげるのと同時に、どの部分の機能低下が原因となっているかを適切にアセスメントします。

 食事は嚥下機能に応じた形態に変更する、食事時の姿勢や介助法を統一する、一人で食べられる場合は詰め込み食べにならないよう一口量の確認と調整をするといった対応を行うことも大切です。

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脱水、低栄養

 高齢者は成人に比べて体液量が少ないうえに、口渇感などの自覚症状に乏しく、脱水になりやすい状態です。in-outバランスや皮膚状態を確認し、脱水の徴候を拾えるように心がけます。また、食欲低下や食事摂取量の低下により低栄養に陥りやすいため、入院早期から栄養アセスメントを行い、患者さんの状態に合わせて管理していくことが大切です。

 具体的な対応として、食事内容の調整、とろみ剤の活用、飲水の促し、必要時の点滴などを行い、脱水や低栄養に陥るのを防ぎます。

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排泄障害

 排泄障害の原因を丁寧にアセスメントし、個々の患者さんに合わせて対応していきます。

 高齢者では、食事量・運動量の低下、腸蠕動の低下による便秘が多くみられます。食事内容を見直す、適度な運動を心がける、場合によっては緩下剤を使用するなどし、排便を促します。

 膀胱括約筋や肛門括約筋の筋力の低下により便失禁が生じている場合は、リハビリテーションと薬物療法で改善を図ります。麻痺や拘縮で移動に時間がかかり、トイレまで間に合わない場合は、排尿日誌を活用してパターンを把握し、トイレ誘導やポータブルトイレの活用について検討します。

 排泄の失敗は患者さんの自尊心を深く傷つけます。汚染された衣類・寝具を交換する際は、患者さんの気持ちに十分配慮した声かけや対応を心がけます。

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せん妄

 高齢者は誰もがせん妄になる可能性があります。アセスメントツールを活用して状態を把握し、早期介入につなげられるようにします。

 ベッドサイドに家族の写真や慣れ親しんだものを飾る、日付や時刻を知らせる、これから行うケアについて丁寧に説明するなど、自分が置かれている状況を把握しやすい環境づくりを行うとともに、処置を最小限にして過剰な刺激を避けるようにし、家族に面会に来てもらうなど安心できる環境づくりを心がけ、せん妄の発症や症状の進行を防ぎます。

 高齢の患者さんでは、ベンゾジアゼピン系をはじめ、せん妄の原因となる薬剤を服用している場合が多々あります。せん妄発症リスクの高い薬剤を使用している場合は、薬剤の調整について医師に相談します。

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認知症

 認知症の症状には、記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、失行(失語、失認)といった中核症状と、中核症状に付随して生じる周辺症状(徘徊、妄想、不潔行為など)があります。

 中核症状は脳の器質的な変化に伴って起こりますが、周辺症状は環境やケアの方法によって症状の表れ方に差が生じる場合があります。患者さんがなぜそのような行動をとったのか、そこにある理由や背景についてアセスメントを行い、適切なケアにつなげます。

 認知症の患者さんは意思の疎通を図るのが難しく、治療やケアに影響することもあります。患者さんに治療やケアについて説明する際は、患者さんの目を見て簡単な言葉でゆっくり話す、1回に伝える内容は1つまでにするなど、患者さんの不安を軽減できるようなかかわりを心がけることが大切です。

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老年医学・看護に関する学会(日本老年医学会、日本老年看護学会など)

 老年看護に関する代表的な学会として、老年看護の発展や老年看護専門職の育成を図るために設立された、日本老年看護学会(http://www.rounenkango.com/)があります。

 また、高齢者医療への貢献と向上をめざし、日本老年医学会、日本老年社会科学会、日本基礎老化学会、日本老年歯科医学会、日本老年精神医学会、日本ケアマネジメント学会、そして日本老年看護学会を加えた7学会で日本老年学会を構成しています。

看護計画

「寝たきり状態で拘縮を認める高齢患者さん」を例に看護計画を紹介します。

看護問題
#1 長期臥床による拘縮に関連した身体可動性の障害

看護目標
・拘縮の進行を防ぎ、残存機能を生かした生活ができる

観察計画(O-P)
・バイタルサイン
・意識レベル
・拘縮の部位と程度
・関節可動域
・皮膚状態
・疼痛の有無と程度
・一日の生活リズム、離床時間、リハビリ実施時間
・ADL
・活動やリハビリテーションに対する本人の意欲の程度

ケア計画・援助計画(T-P)
・良肢位の保持
・定期的な体位変換と除圧
・残存機能に応じた自助具の選択と活用(カトラリー、ベッド、靴、車いすなど)
・拘縮に対するリハビリテーションを多職種と連携して実施する
・患者さんとその家族の思いの傾聴
・ベッドサイドの環境調整
・疼痛コントロール
・リハビリテーションや自動運動への意欲が保たれるよう、動機付けを行う

教育計画(E-P)
・リハビリテーションや身体を動かすことの必要性について説明する
・自助具の使い方を説明、指導する

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