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新しい生活様式で迎える初めての冬に備える免疫力強化法

  • 公開日: 2020/11/27
  • # 学会・セミナー
  • # 学会・セミナーレポート

2020年9月17日に、「新しい生活様式で迎える初めての冬に備える免疫力強化法」と題したオンラインセミナーが行われました。今年の冬はインフルエンザだけでなく、新型コロナウイルスの流行も予測されることから、免疫力を高めてウイルスから身体を守ることが重要です。今回は、免疫の基礎知識や免疫力を高めるポイントについて、東京大学 定量生命科学研究所 免疫・感染制御研究分野 教授 新藏 礼子先生と、岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授 森田 英利先生による講演をレポートします。

免疫力の強化に欠かせない強い“IgA”を作るためには?

講演:東京大学 定量生命科学研究所 免疫・感染制御研究分野 教授 新藏 礼子先生


自然免疫と獲得免疫

 さまざまなウイルスや細菌感染症が流行する冬を迎えるにあたり大事にしたいのが、粘膜の免疫です。粘膜は皮膚と同様に、常に外界と接しています。ただ、多層構造の皮膚とは大きく異なり、粘膜は身体の内と外を隔てるものが1層の内皮細胞のみ(1層構造)で、異物が侵入しやすい場所です。だからこそ、粘膜を守る免疫系が重要になります。


 免疫には、自然免疫と獲得免疫の2種類があります。自然免疫は生まれながらに持つ防衛機構で、異物を素早く感知・処理するほか、獲得免疫に情報を伝える役割も有しています。一方、獲得免疫は外からのあらゆる刺激を受けて発達する防衛機構で、そのなかの1つが抗体です。


 抗体は身体を守るために特殊化されたタンパク質であり、自然免疫からの情報をもとに作られます。抗原に対して特異的に攻撃しますが、抗体が作り出されるのには最低でも2週間かかります。


 さらに、抗原が多い場合は自然免疫だけでは対処しきれないうえ、獲得免疫が新しい抗体を作り出すための時間を稼ぐことができなくなります。そのため、マスクの着用・手洗い・うがいを行い、侵入する抗原の量を減らすことが大切です。

IgA抗体

 免疫細胞の約7割が腸に集中しているといわれ、生体防御の最前線として「粘膜免疫」を発達させてきました。


 粘膜免疫で重要な役割を果たすのがIgA(免疫ブログリンA)です。IgAは最も多く産生される抗体で、全身の粘膜で作用し毒素などの異物を排除します。抗原特異性も広く、さまざまな異物に対応でき、常在菌に含まれる悪玉菌を排除する働きもあります。


 IgAには強いもの(高親和性IgA)と弱いもの(低親和性IgA)が存在します。強いIgAを常に作ることができれば未知の抗原から身体を守れますが、もともと持っている抗体が弱い場合、抗原が少なかったり、ワクチンを投与したとしても防御できません。このことから、強いIgAを腸内で育てることは非常に重要といえます。


 強いIgAを作るためには、IgAの質を高めることと、産生量を増やすことがポイントになります。IgAの質を高めることに関してはまだ不明な点が多いですが、産生量を増やすには樹状細胞や自然免疫系からの刺激、そして短鎖脂肪酸が大きな役割を持つことがわかっています。


 短鎖脂肪酸は腸内細菌により作られますが、腸内細菌のエサとなるのが食物繊維やオリゴ糖です。普段の食事で、伝統発酵食品(ぬか漬け、チーズ、キムチなど)、ホールフード(野菜、雑穀など)、食物繊維(海藻類、ごぼう、大豆など)、ビフィズス菌などの善玉菌(ヨーグルト、サプリメントなど)をバランスよく摂ることで、IgAの産生量が増えるとともに強いIgAが作られ、免疫力のアップにつながります。


 免疫細胞は日々外敵と戦っています。免疫細胞が活発に働けるよう、まずは食生活を見直し、腸内環境を整えることを心がけましょう。

長寿と腸内環境の関係

講演:岡山大学大学院 環境生命科学研究科 教授 森田 英利先生


老化と免疫

 通常、老化により免疫は衰えていきます。その理由の一つとして、高齢者では特定の腸内細菌に対するIgAの反応性が低下することが挙げられます。


 ほかに、加齢に伴う腸内環境の変動(悪玉菌を捕捉できず、悪玉優位の腸内環境になる)も免疫の衰えに関係しており、結果的に生体に大きく影響を及ぼしていると考えられます。


 また、自己免疫疾患については、年齢に関係なく発症するケースがある一方、関節リウマチや甲状腺機能低下症など、加齢との発症相関が推察されるものもあります。

長寿に関係する遺伝子と免疫細胞

 長寿には、免疫機能を司る各人固有の遺伝子であるHLA遺伝子(ヒト白血球抗原)が関係しているとされています。


 HLA遺伝子には非常に多くの種類の抗原が存在しますが、長寿者の場合、感染症への抵抗性を示す抗原「DR1」が多くみられたり、感染症に罹患しやすくなる抗原「DR9」が少ないといった特徴を有しているという指摘もあります。


 遺伝子以外にも、免疫細胞の1つで、病原体やウイルスに感染した細胞を攻撃・破壊するキラーT細胞が多いことがわかっています。

長寿と腸内環境

 長寿で有名な奄美群島では、高齢者が人口の31.3%1)、百寿者人口は全国平均の約3倍2)となっています。


 そこで、奄美群島の長寿者の腸内細菌叢(腸内フローラ)を調べたところ、ビフィズス菌・アッカーマンシア属・メタノブレビバクター属といった、抗肥満効果を持つ菌が多いことが判明しました(表1)。この結果から、栄養吸収過多は、健康や長寿にとって好ましくないことが示唆されます。なお、栄養摂取、歩行状態、健康状態が悪化すると、ビフィズス菌などは減少します。


表1 奄美群島の長寿者に多くみられる腸内細菌

特徴
ビフィズス菌
・短鎖脂肪酸を産生する菌
・日本人の大腸に多く、「長寿金」「ヤセ菌」などと呼ばれることもある
・加齢とともに減少する
アッカーマンシア属
・腸管バリア機能に重要な菌
・糖尿病患者には少ない
メタノブレビバクター属
・欧米人に多い古細菌で、日本人にはほとんど存在しない
・肥満を抑制する可能性がある

 食生活と腸内フローラは関連づけて考えられることが多いですが、奄美群島では、善玉菌を多く含む発酵食品と、菌のエサとなる食物繊維が組み合わさったものが、伝統食として食されています(表2)。これらの伝統食と腸内フローラ、そして長寿がどのように関係するのか、今後も研究を進めていきたいと思います。


表2 奄美群島の伝統食

作り方
そてつ味噌/ナリ味噌
そてつの実(ナリ)を麹にして、大豆または玄米とともに発酵させる
ミキ(発酵飲料)
米のおかゆ、すり下ろしたサツマイモ、砂糖で作る
パパイヤの味噌漬け
そてつの実にパパイヤを漬ける

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