チームの力で患者さんの排便をサポート|排便サポートチームの取り組み
- 公開日: 2023/11/9
東葛クリニック病院は、千葉県の北西部に位置する松戸市にあり慢性腎臓病や透析医療を主に行っています。
透析患者さんが入院している療養病棟と一般病棟では、1週間に1回、排便サポートチームが回診し、患者さんの排泄をサポートしています。今回は、排便サポートチームの活動や回診の様子を紹介します。
褥瘡対策チーム活動の一環として始まった排便サポート
排便サポートの活動を始めたのは2018年ですが、最初は「排便サポートチーム」という名前もなく、褥瘡対策チーム活動の一環として、「便も見ていこう」ということで活動が始まりました。
便も見ていくきっかけは、IAD(失禁関連皮膚炎)の患者さんです。おむつを開けるたびに便が出ていて、IADの要因ともなるため、便を一気に出すことができないかと考えました。ちょうど褥瘡の評価にエコーを使っていたこともあり、褥瘡対策チームで一緒に活動していた臨床検査技師の佐野由美さんから、「エコーを使って便の評価をしてみたら」と提案されました。
ただ、エコーでどのように便を見ていったらいいのか、そのやり方がわからず、いろいろな文献を読んだり、佐野さんが自分の身体のいろいろなところにプローブを当てて試してみたりして、肛門にプローブを当てることによって、直腸下部の便がきれいに見えることがわかりました。
直腸下部の便を見ながら「便があるよ。じゃあ摘便しようか」とか、「便が硬そうだね。柔らかくするために下剤を使う? 食事はどうする?」などと、褥瘡対策チームのメンバーと話し合いをしていくうちに、多職種での排便サポートチームの形ができていったという感じです。
現在の排便サポートチームのメンバーは、医師と皮膚・排泄ケア特定認定看護師の私、病棟看護師、超音波検査士、薬剤師、管理栄養士、作業療法士、アテンダント(介護福祉士)です。当院の排便サポートチームの特徴としては、こうした多職種のメンバーがフラットに意見を出し合うことができることだと思います。
褥瘡対策チームでの活動時も、医師が褥瘡の治療を考えて処置するだけという活動ではなく、褥瘡を治すために栄養をどうしたらいいのか、ポジショニングをどうするかなど、多角的な視点から意見を出し合っていました。それと同じように、排便サポートチームでも、この下剤でよいのか、食事でどうにかならないかと多職種で話し合って進めています。
もともと褥瘡対策チームとして集まったメンバーですので、当初は、「食事で便性の改善ができないか」「なにか運動で改善できないか」というような試行錯誤を繰り返していました。しかし、いつからかチームのみんなもプロフェッショナルなので、排便コントロールに関して調べたり勉強したりしてくれて、回数を重ねるごとに、的確な提案をしてくれるようになっていきました。
現在は、薬剤師は下剤の変更や調整、管理栄養士は食事でのアプローチ、作業療法士は排便時の姿勢や腹圧のかけ方、腸管を動かす運動などの提案といった形でかかわってくれています。
もし、排便サポートチームを自施設でも立ち上げたいと考えている人がいるのであれば、褥瘡対策チームやNSTからスピンアウトさせる形で立ち上げることをおすすめします。排便サポートチームは、診療報酬がついていないため、多職種のメンバーを集めるのが難しいと思いますが、褥瘡対策チームやNSTであれば、排便サポートに必要な職種が揃っているため、そこから派生させるのであれば、比較的始めやすいのではないでしょうか。
エコーで直腸内の便を可視化し、根拠をもってケアを行う
患者さんが便秘の場合、薬剤を使用するのか、食事を変えてみるのか、摘便や浣腸を行って排泄してもらうのかなど、アプローチの仕方がいくつかあります。排便サポートチームでは、このアプローチ方法を選択するために、エコーを用いています。
回診では、まずエコーを使って便の位置と性状を確認します。直腸に便があれば、摘便を実施します。直腸に便がない場合は、摘便や浣腸を行っても便を出せないため、他の方法を考えます。性状がわかることで、摘便で出せるのかどうかも判断できます。状況がわかったところで、薬剤師や管理栄養士に意見をもらいながら、下剤の調整や食事の変更で改善できるかを考えます。さらに必要があれば、作業療法士がベッド上でできる運動や排便の姿勢などを指導します。これらのことを患者さんのベッドサイドで行っています。このようにエコーを使うことで、根拠をもってやるケア・やらないケアを判断できます。
また、患者さんにとってのメリットも大きいと思います。入院してくる患者さんは、便秘以外の疾患の治療が目的です。もともと便秘であったり、環境が変わって便秘になったりしているのだと思いますが、便秘を訴えてくることはほとんどありません。つらいのを我慢していたり、下剤を処方されていたりしていました。
当院では、どうしたら排便できるのかをチームで考えていくことで、患者さんも一人で悩まなくていいということがわかり、この回診を待っていてくれる患者さんもいます。これまで個人的な問題として扱われていた便秘に対して、医療者が真剣に向き合ってくれるのは、患者さんとしてもうれしいようです。
褥瘡では褥瘡を治すこということが目標で医療者の中で共通認識になりますが、排便ケアであれば患者さんの数だけゴールがあります。例えば1週間に1回しか排便がなかった人が、毎日出るようにはならないので、目標設定を1週間に1回の排便にするというゴールを設定し、チーム内と患者さんとで共有します。このように患者さんと一緒にゴール設定を考えることができるのが、このチームの醍醐味でもあります。
回診する患者さんは病棟の看護師が決めています。当初は、便秘に関してなんでも相談を受け付けますと伝えていましたが、これまでの回診を依頼された患者さんのデータを見てみると、下剤の調整に困っているケース、摘便がいいのか浣腸がいいのかといった排便ケアの方法についての相談、苦痛の訴えが強い患者さんが主な対象となっています。これらの患者さんのなかから、大腸がんや潰瘍性大腸炎などの器質的な疾患がある患者さんを除いて、一般的な機能性の便秘の患者さんを回診しています。
今後の展望は排便サポートを外来まで広げることと、エコーナースの育成
今後の展望としては、やりたいことが2つあります。1つは今は病棟だけの活動を外来にまで広げたいということです。療養病棟の患者さんは、ずっとここに入院していますが、一般病棟は退院すると、その後のフォローができません。また、当院の外来は、慢性腎臓病(CKD)の患者さんが多く受診しています。便秘は、透析前のCKDの悪化要因であるというデータがあります1)。CKDの患者さんの排便コントロールを行うことで、透析導入を遅らせることができるのではないかと考えています。そのために排便サポートも外来とかかわっていかなければと思っているので、このチームの形で外来でも排便サポートができるようにしていければいいですね。
もう1つは「エコーナース」の育成です。便秘に対して、例えば3日間排便がなければ下剤投与というようなルーチンなケアではなく、病棟看護師がしっかり患者さんの排便パターンや、便秘の分類ができるなど、排泄に関する知識をつけてもらった上で、根拠をもったケアができるようになることが必要です。その評価のアイテムの1つとして、病棟看護師がベッドサイドでエコーが使えればと思っています。そういった点も含めて「エコーナース」の育成ができればと考えています。
排便サポートチームの回診の様子
臨床にはいろいろな課題があると思っています。元々は褥瘡対策チームで回診を行っていて、院内での褥瘡発生は減らすことができました。でも、そこで終わりではなく、新しい課題として今度は、IADの原因となる下痢もコントロールできないかと考えて、褥瘡対策チームで取り組むことになりました。
みんなと相談しながらケアが実施できるので、一人でケアするよりも自信をもってできるのもチームで取り組むメリットだと思います。
例えば腸の動きの悪い患者さんに対しては、OT、PTと相談して、現時点でのADLを踏まえた上で、病棟でできる運動をお勧めしています。
また、管理栄養士と相談し、食物繊維が含まれるものを食事に提供してもらうなど、意識してケアを行うようになりました。
それでも効果がなければ、今度は薬剤師と相談して、便を柔らかくする薬を検討するなど、便秘だからといって、ルーチン的に刺激性の下剤を使うということはなくなって、ケアが向上したと思っています。
便秘や水溶性の下痢などに対し、食物繊維が含まれたものにするのか、ヨーグルトにするのかなど、一概に便秘だから下剤というのではなく、食事や栄養管理の面からも、いろいろな方法でアプローチができるようになったと思います。
これまで機能回復やADL訓練として日常的にトイレで姿勢は評価していますが、排便そのものについて特別に介入することはありませんでした。排便サポートチームでかかわることで、高齢や不活動に伴う腸の機能低下を呈し便秘になる方に対し、息む姿勢の評価も大切だと思うようになり、排便そのものについて考えさせられました。チーム活動を通しQOLを高められるように介入できればと思っています。
やはりエコー画像では便の性状や、便がどのあたりにあるのかが、見てわかります。それを画像を見ながら先生をはじめ、看護師、薬剤師、管理栄養士さんたちが、いろいろ意見を出し合ってより良い排便方法や下剤の選択などを考えているので、便の評価にエコーを取り入れてよかったと思います。
また、実際に回診していると、1週間前と比べて患者さんの腸の変化もわかり、それが便の性状にどれだけ反映しているのかなど考えながら検査できるので、それがとても勉強になります。
日頃、患者さんと接していて皮膚トラブルを見かけることが多くあります。その際は、看護師と相談し除圧マットレスに変更したり、おむつの組み合わせの工夫ができるようになりました。わずかな変化にも気づくことが増え、迅速な対応で皮膚トラブル悪化予防に努めています。
また、身近にエコーがあることで便の形状を観察でき、とても勉強になります。便秘しやすい透析患者さんにとって、エコーは解決策につながる最短の手段だと思います。多職種が連携することで患者さんの笑顔に繋がることを日々実感しています。
排便サポートチームのみなさん
引用文献
1)Keiichi Sumida,et al:Constipation and Incident CKD.J Am SOC Nephrol 2017;28(4):1248-58.