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【連載】知っておきたい! チームケアのパフォーマンスを高める思考スキーム

看護と介護―思考スキームの違いが生む「違和感」

  • 公開日: 2024/7/20

 幸せな人生を歩むためには、「人は互いにわかり合える」と信じたいものです。しかし、分析的に突き詰めていくと、そうともいえません。人は互いに「わかり合えない」のが基本であるということを、前回述べました。今回は、コミュニケーションのギャップに職種という要素がどのようにかかわってくるのか、看護師と介護職員の思考の違いに着目して考えてみましょう。

職種で異なる思考スキーム

 人の思考はとらえどころがありません。多種多様な上、状況によっても変化します。そのため、人が集まって論理的に議論することは困難を極めます。あなたも経験したことはないでしょうか。長時間にわたって話し合ったのに、何を話したのか、何が決まったのか、曖昧になってしまうことは多々あります。 そこで、筆者は人の発言や主張を一定の枠組みに入れて整理する方法を研究してきました。その枠組みというのが「事実」「根拠」「行動」という3つの要素から成り立つ「思考スキーム」です。

 思考スキームを用いて整理することで、対比することが難しい個人や集団の思考を「傾向」としてとらえることができるようになります。

 筆者らの実験では、看護師と介護職員が同じ場面(「事実」の「世界」)に遭遇したとき、同じ「行動」をとっていても、その「根拠」が異なる場合があることが観察されました(https://knowledge.nurse-senka.jp/204846/)。目に見えない思考の差異は、多職種連携のコミュニケーションにおいて互いに抱く「違和感」の一因になっていると考えられます(図1)。

図1 一見協働がうまくいった状況での「違和感」の根源

一見協働がうまくいった状況での「違和感」の根源

 介護職員等に医療的ケアを指導するための「医療的ケア教員講習会」の参加者への調査では、次のような意見がみられました。

・「看護師の当たり前が全てに通用することではないということを頭に入れ、教えながら自分も学んでいきたい」
・「あくまで看護師の視点ではなく介護の発想を考えながら指導をする必要があることがわかった」
・「介護職の現状を知ることで、看護職との意識の違いがかなりあると思った」
・「看護師と介護士では疑問に思うことが違うということに気付くことができた」
・「介護職と看護職の患者様(利用者様)に対する視点の違いに驚きました。その認識の差をどのようにお互いがすりあわせていくか、永遠の課題かなと思います」
一般社団法人 知識環境研究会教育会:1.7.医療的ケア教員講習会修了者の声.医療的ケア教員講習会(2024年4月30日閲覧)https://learning.ackk.org/iryotekikea/.より引用

 同講習会の参加者は、実務経験5年以上の看護師です。日頃から職場で後輩や新人の看護師に指導する立場にあっても、教員として指導する相手が介護職員となると、勝手が違うと感じるようです。

 では、その違和感はどうして生まれるのでしょうか。

「永遠の課題」

 専門職の場合、入職するために必要な専門知識と、入職してから得た専門知識は、それぞれの職種に固有の世界観を作り出します。人間の思考のうち、目に見える部分、すなわち行動や発言は氷山の一角です。経験や探求度が増すほど、思考の深い部分に専門性が刻み込まれます。行動や発言の根拠となる見えない部分は徐々に広がり、特に意図しないと他職への理解ができなくなっていくのです(図2)。

図2 専門性と他職の理解の関係

専門性と他職の理解の関係

 日本看護協会の倫理綱領には、看護者は、他の看護者及び保健医療福祉関係者とともに協働して看護を提供すると定められています。日本介護福祉士会の倫理綱領には、「介護福祉士は、利用者に最適なサービスを総合的に提供していくため、福祉、医療、保健その他関連する業務に従事する者と積極的な連携を図り、協力して行動します」1)という記述があります。

 協働、連携、協力は、医療福祉セクターの専門職にとっては非常に重要です。しかし、別の見方をすれば、「倫理綱領で定めなければならないほど、自然に任せておくと専門職集団のモチベーションは自らの専門性の追求に向かってしまう」ともいえます。「専門性を高めること」と「わかり合うこと」を同時に成立させることは至難の業です。

 多職種連携の際に生じる違和感は、専門職というものがある限り存在し続けます。それを踏まえて、コミュニケーションスキルを向上させる努力を継続する必要があるのです。先に引用した声の中にもあったように、「永遠の課題」であることを覚悟しなければなりません。

 次回は、専門職の特性と多職種連携のコミュニケーションにおける注意点について、さらに掘り下げていきます。

引用・参考文献

1)公益社団法人 日本介護福祉士会:倫理綱領(2024年4月30日閲覧)https://www.jaccw.or.jp/about/rinri
●公益社団法人 日本看護協会:看護職の倫理綱領(2024年4月30日閲覧)
https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/statistics_publication/publication/rinri/code_of_ethics.pdf


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