1. トップ
  2. 看護記事
  3. 看護教育・制度
  4. コミュニケーション
  5. 多職種とのコミュニケーション
  6. 「多職種連携でわかりあう」は可能か ~思考スキームで、他者の考えを視る~

【連載】知っておきたい! チームケアのパフォーマンスを高める思考スキーム

「多職種連携でわかりあう」は可能か ~思考スキームで、他者の考えを視る~

  • 公開日: 2023/9/11

 多職種連携、安全管理や患者・利用者満足、人材の国際化など、現代の医療福祉セクターを取り巻く課題は多種多様です。これらの課題に共通するキーは、「人間の思考をどのように扱うか」という原始的なものです。

 人は自分以外の人が何を考えているのか、極論すれば、まったくわかりません。他者が何を考えているのか? 自分を害する意図はないのか? 相手に好いてもらうにはどうしたらいいか? など、「他者の思考」への恐れと欲求は、人間がさまざまな知恵や知識を編み出す原動力でした。

 身近な人との間であってもわかり合えない人間という存在にとって、多職種連携は、そもそも「連携相手の思考は理解できない」というスタートラインから始めなければなりません。安全管理においては、人間の勘違いやコミュニケーションの行き違いからエラーが起きることになります。患者・利用者満足を実現するには、千差万別の思考に対応する必要があります。人材の国際化も、言語や文化、人種や民族といった違いによって、同種の集団よりも思考の展開がわかりにくいことが課題の根底にあります。

 本稿では、チームケアのパフォーマンスを高めるためのコミュニケーションについて、「思考スキーム」という観点から述べたいと思います。

互いを理解できない職場

 ケアの高度化と専門化が進む一方で、現代の職場における職員間のつながりは希薄になっているといえるでしょう。

 かつて「飲みニケーション」を重視する職場やリーダーは数多く存在しました。酒席を共にすることで、公式な場面では知り得ない心の動き、つまり思考を共有することができると考えられてきたのです。

 しかし、互いを深く知るためには勤務時間外に多くの時間を要します。かつ、同じ職場に同じメンバーが長年勤務することが前提となります。ワークライフバランスの重視や人材の流動化が進む職場では、濃密なコミュニケーションがとりにくくなっているといえます。希薄で、ドライなコミュニケーションを通じてチームや組織を維持し、質の高いケアを提供することが今日の課題となっています。さまざまな方法論や、ICTなどの技術的な支援を活用しながら、互いの思考を共有することを目指さなければならないでしょう。

協働の際に共有しておかなければならないこと

 互いの思考を共有する際に、重要な視点があります。それは、単に「思考」といっても、何をもって思考というのか? どのような思考を共有したら、相手を理解したといえるのか? ということです。何を共有すべきなのか、そして、その共有から互いに何を確認していくべきなのかを考える必要があります。

 筆者は、異なる価値観や文化を持つ専門職間のコミュニケーション法を研究しています。筆者の研究テーマの1つが、人の思考を共通の枠組みに入れる方法についてです。その枠組みを「思考スキーム」と呼びます。思考スキームは「事実」「根拠」「行動」という3つから成り立ちます。事実とは自分が「何を見たか」ということ、行動は「見たこと(事実)に対してどのように働きかけるか」、根拠は「事実から行動を判断するための価値基準(理由)」です(図1)。

図1 思考のスキーム
思考のスキーム

 考え方や専門性が違う人が協働する際には、行動の背景にある「根拠」をしっかりと共有することが大切です。日常、私たちが他者とコミュニケーションするとき、根拠まで説明することは少ないでしょう。プライベートな付き合いが長い間柄であれば、「以心伝心」で済むことかもしれません。しかし、多職種連携のコミュニケーションにおいては、「何を見て(事実)、どう考え(根拠)、行動するのか(行動)」という思考スキームまで理解しておかないと、思わぬ行き違いやすれ違いにつながることもあるのです(図2)。

 次回は、看護師と介護職員の思考スキームの違いについて考えていきます。

図2 何を見て(事実)、どう考え(根拠)、行動するのか(行動)という思考のスキーム
思考のスキーム_事実、根拠、行動


この記事を読んでいる人におすすめ

カテゴリの新着記事

【看護師のマナー】第42回 病院内で働く他職種との連携が大切です

新人ナースのための社会人マナーブック。今回は「病院内で働く他職種との連携の大切さ」をお話します。 ▼看護師のコミュニケーションとマナーについて、まとめて読むならコチラ 看護師のコミュニケーションとマナー みんなが患者さんのために働いている

2016/2/12