【皮膚異常の看護】皮疹(ひしん)の種類と緊急性の判断
- 公開日: 2011/1/12
皮膚に出た異常が、実は重篤な疾患や緊急を要する疾患のサインであるケースもあります。 目に見える症状の下に隠れた部分を見逃さないようにしましょう。
皮疹の種類と特徴
まずは、これを考えよう!
■皮膚の異常を見落とさないためにも、どんなものがあるのかを知っておこう
皮疹は、皮膚に出るさまざまな症状の総称です。皮膚自体の疾患という場合だけでなく、内科、小児科、産婦人科などの疾患が原因となっていることがあります。
したがって皮膚に異常が見られたら、その症状をよく観察し、その原因、つまり、原疾患が何なのかを精査する必要があります。
患者さん自身が皮膚の異常に気づいて症状を訴えることもありますが、清拭などの清潔ケアやバイタルサインの測定時など、患者さんと触れ合うときに皮膚の状態から異常を察知できるような観察眼をもっていたいですね。
特にかゆみは痛みと同じように主観的な症状なので、その程度がどれほどのものか把握しにくいものです。さらに高齢の患者さんやコミュニケーションが困難な患者さんの場合には、こうした苦痛を見落としがちになるので、注意が必要です。
そのためには、皮膚の異常にはどのような症状があるのか、まず、頭の中の知識を整理しておきましょう。
■皮膚の異常でも緊急対応が必要なものもある
皮疹は一見、緊急対応の必要があまりない症状のように考えられがちですが、中には緊急対応が必要な疾患が起因となっている場合もあります。
例えば、直ちに治療を開始する必要のあるアナフィラキシーショックや、最終的には生命危機につながる可能性の高い重篤な疾患であるため、すぐに対応が必要なメラノーマがあります。このような場合には皮膚科の専門医を受診するようにつなげましょう。
皮膚に出るさまざまな症状と主な疾患
皮膚の異常として出てくるのが、発疹です。
色、皮膚面からの盛り上がりがあるかないか、盛り上がりがある場合には、その形状や中身が何か、ということで区別します。
■色の異常:斑
皮膚の盛り上がりがなく、色だけが異常な症状です。赤くなる紅斑、紫色になる紫斑、白くなる白斑などがあります。
■一時的な皮膚の盛り上がり:膨疹(ぼうしん)
膨疹は、皮膚の浅い層に生じる一過性の浮腫で、大きさは直径が1、2mmから数cmのものまでいろいろあります。
盛り上がりの高さはそれほどでもありません。数時間程度で消失するものが多く、蕁麻疹の発疹などがこれに該当します。
■皮膚の盛り上がり:丘疹(きゅうしん)、結節(けっせつ)、腫瘤(しゅりゅう)
皮膚の表面から少し飛び出したような盛り上がりで、小さなものを丘疹、それより大きいものを結節、さらに大きいものを腫瘤といいます。
■中身のある盛り上がり:水疱(すいほう)、膿疱(のうほう)
いわゆる水ぶくれで、表皮の中や真皮との境目に漿液や血液などの滲出液がたまったもの。黄色い膿がたまったものを膿疱といいます。
■皮膚の損傷:びらん、潰瘍(かいよう)
皮膚は大きく分けて3つの層からできており、下から皮下組織、真皮、表皮といいます。
びらんは表皮までの皮膚の損傷であり、浅い傷です。
潰瘍は真皮以下の組織に達する皮膚の損傷で、びらんよりも深い傷です。これらは褥瘡の症状にも通じるので、低栄養状態や寝たきりの患者さんには特に注意しましょう。
以上の皮疹のそれぞれの特徴とともに、どんな疾患が皮疹を発症するのかを知っておくとよいでしょう(表1)。
緊急性の判断と原因を精査しよう!
■想定リストを大まかに3つに分ける
頭の中に原因想定リストを思い浮かべる際に、1.念頭に置きたい重篤な疾患、2.頻度は少ないけれども忘れてはいけないもの、3.頻度は多いけれどそれほど大事には至らないもの、というふうに仕分けをするとよいでしょう。
1番目の念頭に置いておきたい重篤な疾患は、メラノーマです。悪性黒色腫と呼ばれるがんの一種です。
稀な疾患ではありますが、極めて悪性で、転移を起こしやすく、致死率も高いので、皮膚疾患の想定リストから外すことはできません。「ほくろのがん」といわれることも多いですが、形がはっきりしていなくて、色むらがあり、どんどん大きく成長します。
2番目の頻度は少ないけれども忘れてはいけないものは、アナフィラキシーショックです。
スズメバチに刺されたときの症状として知られていますが、人体の免疫機構によるアレルギー反応で、蕁麻疹などの皮膚症状のほかに、胸部不快感、血圧低下、咽頭浮腫、呼吸困難、意識障害などの重篤な症状が起こり、死亡することがあります。以前にハチに刺されたことがある、アレルギーをもっている、といった要因があると起こります。発症したら、緊急対応が必要です。
3番目の頻度は多いけれどそれほど大事には至らないものは、薬疹、接触性皮膚炎、帯状疱疹、真菌症、蕁麻疹、湿疹、褥瘡などです。このように皮膚に異常を起こす原因は多岐にわたりますが、生命危機につながる場合もあるため、原因精査は緊急性の判断から始めます。
皮疹のフィジカルアセスメント
問診で原因を推定しながら精査する
バイタルサインの測定を行い、患者さんの状態を確認しながら、問診で緊急度や原因を聞き取りましょう。
■1.発症時期やきっかけを聞く
「いつごろ発疹に気が付きましたか?」
■こんな質問で絞り込もう
- 「急にできましたか? それとも徐々にできてきましたか?」
- 「何か、思い当たるきっかけ(原因)はありますか?」
- 「薬を飲んだ後に発症しましたか?」
- 「何かアレルギーをもっていますか?」
- 「発症前に食べたものは何ですか?」
- 「ずっと同じ体勢で座っていたり、寝ていたりしていませんでしたか?」
- 「何かに触ったり、虫などに刺されたりしませんでしたか?」
■アセスメントのヒント
■2.発疹の状態や程度を聞く
「大きさに変化はありますか?」
■こんな質問で絞り込もう
- 「悪化していませんか?」
- 「何日ぐらい続いていますか?」
■アセスメントのヒント
■3.随伴症状について聞く
「何かほかに気になることはありませんか?」
■こんな質問で絞り込もう
- 「熱はありますか?」
- 「かゆみはありませんか?」
- 「痛みがないですか?」
- 「息苦しくはないですか?」
- 「気持ち悪くはないですか?」
■アセスメントのヒント
症状をアセスメントする
問診で集めた情報に加え、視診、聴診などを行って、症状をアセスメントしていきます。
■バイタルサインを確認する
まずは全身状態を確認します。特に、脈拍数の変化、血圧の低下などに注意します。さらに呼吸状態を確認しましょう。
アナフィラキシーショックでは、咽頭浮腫を起こす場合があり、閉塞してしまう前に挿管するなどして気道を確保する必要があります。患者さんが、呼吸困難感を示していたら要注意です。
また、発熱していないかも確認します。水痘、麻疹、風疹などは皮疹のほかに発熱を伴います。伝染性が高いので感染予防が必要となります。
■皮膚の状態を観察する
患者さんの訴えとともに、皮膚の状態もしっかりと観察して記録しておきます。その際、大きさ・範囲なども記録しておきます。
■チアノーゼの有無を確認する
アナフィラキシーショックの徴候の一つである、チアノーゼの有無を確認します。また、そのときに末梢の冷汗も確認できるとよいでしょう。
アセスメントを看護につなごう
ショック症状を引き起こしていると考えられる場合は、生命危機につながる恐れがあります。 また、緊急性がない場合には、原因となる疾患の治療と共に症状の苦痛を緩和するケアを行います。
目に見える症状の原因追求ばかりにとらわれず、常に患者さんの苦痛軽減という視点を忘れずに、アセスメントを看護につなぐようにしましょう。
緊急性のある場合の看護
一口にアナフィラキシーショックといっても、ショック症状が出る時間はアレルゲンによって異なり、ハチに刺された場合は数分~15分以内に、飲食による場合は、胃腸で消化・吸収されてからアレルゲンになるため、食後30分~1時間くらいしてから症状が出ます。
また、数時間後に症状が再び出ることもあるので、症状が落ち着いたからといって油断してはいけません。
ショック症状の徴候を見つけたら直ちに医師に連絡し、治療につなげ、継続して観察を行いましょう。
最終的には生命危機につながる可能性の高いメラノーマも緊急対応が必要です。
緊急性がない場合の看護
皮膚に症状が出ている場合には、適切なスキンケアを行うことが、かゆみなどの苦痛の軽減や感染予防につながります。
患者さんが入浴やシャワー浴が可能な場合には、ぬるめのお湯を用い、せっけんやシャンプーをしっかり泡立てて、手や綿のタオルでやさしく洗います。ナイロン製のタオルやスポンジは皮膚を刺激するので使用しないように注意してください。
肌を拭くときは勢いよくこすらずにそっとたたいて水分を取り、乾かすようにします。乾燥すると角質の間隙にアレルゲンや細菌が侵入しやすくなるため、保湿クリームを適量塗ると、かゆみに奏効することがあります。
市販品の場合、色素や香料などの添加物が皮膚に刺激を与えて逆効果になる恐れもあるので、患者さんには無香料・無着色の保湿剤を用いるように伝えます。こうした小さなことが、実は大切な情報提供なのです。
また、かゆみがあると無意識にかきむしってしまうこともあるので、爪は短くしておく必要があります。
褥瘡の徴候が見られたら、栄養状態の改善、寝具や体勢の工夫などが必要です。医師、管理栄養士など、他職種と連携して取り組みましょう。
まとめ
目に見えるのは発疹ですが、そこには重篤な疾患が隠れている場合もあります。皮膚に出た症状と身体各部の状態を考え合わせて、原因を精査していきましょう。
緊急性のある原因疾患の治療や重篤な疾患の診断につなげることに加えて、生命危機につながるおそれがない場合でも、清潔ケアなどの基本の看護で苦痛の軽減を図りましょう。
(『ナース専科マガジン』2010年6月号から改変利用)