第5回 “情報弱者”になるな!
- 公開日: 2014/4/29
今回の災害では、固定電話・携帯電話回線が不通になるなか、メールやtwitter、facebookが活躍するなど、新しいネットワークサービスが大きな役割を果たしました 。
一方で、情報ツールを使い慣れている人と慣れない人との間で情報格差が生まれました。
「情報」という得体の知れない、でも大事なものの取り扱いについて、一緒に考えていきましょう。
情弱とは?
「情弱」という言葉をご存じでしょうか。
これは流行語ですので知らなくてもよいのですが、「情報弱者」という意味で、情報により失敗したり不安になったり、ときに金銭的・身体的に損をしたりする人のことをいいます。
普段使うと、パソコンや携帯情報端末を活用できていない人、情報をきちんと解釈できない人という悪口にもなりますのであまりよい言葉ではありませんが、大災害のときなど、誰もが情報弱者となる可能性を持っているのです。
1 情弱とは情報にアクセスできないこと
災害時の情報源としてテレビやラジオ、特に今回はワンセグ放送が活躍しました。
ただしそれらは基本的に受信のみで「双方向性」はありません。
したがって、自分の現状を伝えることはできませんし、また、積極的な情報入手は難しくなりますので、得られる情報は限定的になります。
被災した場合、「信頼できる人とのつながり」をどうやって得るかが問題です。
信頼できる誰か一人とでもつながることができれば、それだけで情報の双方向性が確保されます。
被災地では悠長にネットをサーフィンするヒマもバッテリーもないでしょうから、最新の情報機器を操ることができる必要はありません。
最低限必要なスキルは「携帯でメールができること」。通話だけではだめです。
大部分の人は大丈夫だと思いますが、そうでない人は練習しましょう。
そうしてつながった一本の線がときに命を救う蜘蛛の糸になることもあります。切れてはいけない連絡ルートは、複数確保が基本です。
2 情弱とは情報を判断できないこと
情報には食料品のごとく「鮮度」と「対象」があります。
万人向けの情報などは存在せず、いつでも「いつ」「誰のため」などの附帯事情を考えなければいけません。
その意味で、ネットはもちろん、政府や大手マスコミの発表でさえも、「自分にとって」ゴミ情報やウソ情報であふれています。
その中から重要な情報を選び出すこと、それが必要なスキルです。
タイムラインとソースを考える
タイムライン=時系列、つまり情報を出した順序。ソース=情報源、つまり「誰が」言ったか、ということです。
twitterというサービスはその「誰が、どの順で」発言したかがわかりやすいという特徴がありますが、twitterを使わない場合でも必ず情報の発信時刻を確かめるのは大事なことです。
ネットでは新旧遠近の情報がひとまとめになっていますので、その情報が「今の自分にあてはまるか」は自分で判断しなければなりません。
今回の震災で「安全デマ」「危険デマ」という言葉ができました。
「大丈夫です」というかけ声が本当に自分に向けられているものなのか。
またそのかけ声を発した人は誰なのか。それをよく考えましょう。
一般に、遠くの人の「安全だ」は信用できません。当然ですね。
ラジオやテレビは放送が常に「今」であり、視聴エリアが限定的であるために、タイムラインやソースを考える必要性がないのですが、それは「便利」であると同時に「奪われている」ことでもあるのです。
ネットの場合は情報量そのものが諸刃の刃です。タイムラインとソースをきちんと押さえて、自分にとって「正しい」情報を取得しましょう。
自分の判断に自信を持て!
情報を得たとしても、それに基づいた行動を取れなければ意味がありません。
被災地に送る等の理由以外で「買いだめ」をしてしまった人の多くは「少しだけ多めに買っただけ。買い占めはしてないし、それはよくないこと」という意識でしょう。
しかしそれがスーパーマーケットの棚をがらんとさせる結果になるのです。
皆さんは医療に関する専門知識も持っているはずですし、周りには相談できる誰かもきっといるでしょう。
「正しい」情報を得たなら、それをきちんと行動に反映させることが大切です。
情弱ナース 卒業の心得
- ●被災地で得られる情報は限定的になると知れ
- ●信頼できる人との情報ルートを確保せよ
- ●情報にはウソがあると思え
- ●複数筋の情報を比較せよ
- ●未確認情報は未確認情報として処理せよ
「正しい」情報をどこで得る?
情報が得られないのも困りますが、情報過多になると今度は「どれを信じていいかわからない」という状態になり、同じくらい困ることになります。そういうときはどうすればよいのでしょうか。
情報は基本的には「タイムライン」と「ソース」を考えながら、論理的・科学的に解釈を加えてその真偽を判断していきます。
また、複数筋の情報を比較することも大切です。 しかし皆さんはジャーナリストではないのですから、すべてを自分でやろうというのには無理があります。
そこで「信頼すべき情報源」の情報をひとまずは信じる、という対応がよいでしょう。
まずチェックすべきは厚生労働省のページです。
仮にそこに書かれている内容が医学的に間違っていたとしても、厚労省の指示に従って起こった事故なら国が保証してくれます。
逆にいえば、厚労省が推奨していない行為を行うのは、その結果においても自分で責任を負わなければいけません。
ほかには国連機関であるWHOのサイトがお勧めです。
今回の震災はもちろん、新型インフルエンザのときも、日本語で有用な情報を発信してくれました。
これらのサイトは、恐らくどんな災害であっても有用でしょう。
また、原発事故という非常に特殊な災害に対しては、やはり特殊な情報源が有用になります。
これについては災害が起こってから考えるしかありません。
今回、筆者はIAEAと「有志による放射線量まとめサイト」を主に見ていました。
いずれにせよ、患者さんへの処置や質問への対応などの重要な決断には、必ず信頼できる機関の情報を根拠とし、「厚労省によると○○です、WHOによると××です」と、その根拠自体を患者さんにも伝えることです。
それが患者さんと自分の身を守ることにつながります。
デマをデマと見抜け
実際に「何を信じたらいいか」は非常に難しい問題です。
「ここだけの話なんだけど・・・」というデマとWHOの情報を前に、ついデマのほうを信じてしまうのが人情というもの。
デマに「デマ」というシールが貼ってあれば信じる人はいませんが、そうでないから困るのです。
大事なことは「裏を取る」という発想です。
これは別のルートからその情報の真偽を確認する方法のことで、具体的には1次情報、つまり、情報の発信源を調べるのが簡単です。
例えば「水道水が汚染されている!」ならばそれを信じる前に「自分の地域の水道局」に真偽を確認するのです。
被災している場合など、そういった確認が困難なこともあり、その場合は念のために安全を考えた行動を取るのも仕方のないことですが、その場合も未確認情報は未確認情報として処理し、「デマかもしれない」という意識の下で行動することが大事です。
情報戦、これからの対策
日本は震災や原発で大変ですが、世界は世界でエジプトの大規模デモやリビア空爆など、まさに盤根錯節といった様相です。
それらに共通するのはネットワークサービスが重要な役割を果たしているという点です。
待つだけではいけない
これまで情報は一方向性で、中央から末端に向かう流れしかありませんでしたので、マスメディアが重要な戦略拠点でしたが、これからは違います。
インターネットに構築された双方向性のメディアは、為政者の妨害を超えた情報を提供してくれる代わりに、その判断と行動を我々にゆだねるシステムでもあるのです。
口を開けていれば親鳥が情報を運んでくれる時代は終わりました。
これからは積極的に情報を取りに行かなければいけません。
もちろん被災している場合は話が別です。そのときは被災していない知人に情報を入手してもらい、結果を送ってもらうこと。
つまりは、一人だけが情報や情報機器に詳しくなっても駄目なのです。みんなが詳しくならなければ。
「スキル」で備えよ
情報はバーチャルな世界と思われがちですが、違います。
資材があり車があっても、どこに送ればよいかがわからなければ、結局避難民は救われません。
世の中は最終的には人が動いて何かが起こりますが、その「人」を動かすのが「情報」です。
したがってその意味で、情報はとてもリアルなものです。
今回活躍したtwitterやfacebookが10年後に存在するかどうかは、誰にもわかりません。
しかし10年後でも何年後でも、人間が生きて活動している限り、必ず似たような「人とつながるための情報ツール」は存在し、しかも必ず今よりも情報量は増えているはずです。
ですから、本特集で紹介したような情報の扱い方は、時代を超えた普遍的な「技術」ですし、これからますます重要性を増していくと考えられます。
twitterにしても、また今後登場するであろう新しい情報ツールにしても、日ごろ使っていないと使えません。
どうせ使うのであれば、生活の一部として「慣れておく」ことがとても重要なことです。
機械が苦手なら苦手で構いません。大事なのは、人とのつながりです。
これからの時代の情報の重要性の高まりに向け、いずれの皆さんも、自分に合った対策を考えるようにしたらよいでしょう。
立場による「正しさ」の違い
情報が作られた時刻というのはそれ自体が非常に重要な情報です。
本誌・本特集でも数々の情報を発信していますが、本誌の発行時点では既に古くなってしまう情報もあるかもしれません。
また、立場によって違いが出ることがあります。
がんの確率が1%増えることは世間的には大したことはないかもしれず、それはそれで真実でしょう。
しかし例えばHCVの針刺しで感染する確率は1.8%、つまり、医療者はそういう確率と闘っているのです。
医療者は医療者の視点から、情報を判断すべきです。
通話よりもパケット通信
今回の震災で通話回線はダウンしましたが、メールやネットは比較的使えました。
音声通信では、通話相手と継続して良好な通信状態を維持する必要があるのですが、パケット通信は、通信状態が良くなったときに小分けにしてデータ転送をすればよいので、災害のような通信状態が悪いときには技術的・原理的に強いのです。
同様の理由でパケット通信は、通信集中時にも比較的使えます。
今後もこういった事情は変わることはないでしょう。
従って、音声通話だけではなく、メールやネットでの連絡手段を持つことはリスク管理の一つといえます。
次回は、「放射線の基礎知識」です。
(『ナース専科マガジン』2011年6月号より転載)