トリアージ~START法
- 公開日: 2024/1/22
トリアージとは
トリアージとは、フランス語のtrierが由来とされ、「選別する」という意味をもちます。災害医療の最大の目標は、Preventable death(防ぎえた死)を低減させることです。多数の傷病者が発生し、医療の需要と供給のバランスが大きく崩れた状況では、傷病者の緊急度や重症度を素早く見極め、優先順位をつけていくことが必要となります。そこで、トリアージを実施し、傷病者の治療や搬送順位の決定を行うことで、できるだけ多くの傷病者を治療し、防ぎえた死の低減につなげます。
トリアージを行う際は、基本的にトリアージオフィサーと呼ばれる指揮者を1人立てます。日本救急医学会はトリアージオフィサーについて、「現場において最も経験のあるものがトリアージオフィサーになる」としており、必ずしも医師がなるとは限らず、災害や救急医療の経験が深い看護師が行うこともあります。
START法は何を判断するもの?
START法は、Simple Triage and Rapid Treatmentの略称です。名前のとおり、単純かつ迅速に選定を行う方法で一次トリアージとも呼ばれ、傷病者の緊急度を判定し、ふるい分けを行うために用います。緊急度は赤:最優先治療群、黄:待機的治療群、緑:保留群、黒:治療困難群に選別します(表)。
START法は特別な道具を必要とせず、誰しもが画一された方法で優先順位をつけることが可能です。そのため、災害時に限らず、事故などで多数の傷病者が発生した現場(例:混雑した交差点に車が突っ込み、多数の傷病者が発生するなど)において、消防(救急)隊が優先順位をつけるために、START法によるトリアージを行うこともあります。
また、原則としてトリアージを優先させるため、基本的には処置などは行いません。ただし、「用手的気道確保」と「活動性の出血による止血処置」の2つの緊急処置については行ってもよいとされています。
表 トリアージの区分
START法はこう使う!
START法によるトリアージの手順
START式トリアージは、フローチャート(図1)に沿って進行していきます。A:気道、B:呼吸、C:循環、D:意識が正常から逸脱していないか判断し、逸脱している場合は緊急度が高くなります。具体的には、次のような方法で緊急度を判定していきます。
STEP1
まずは、歩行可能か否か判断するために、歩ける人を誘導します。歩ける人は緑とし、緑エリアで待機してもらいます。
STEP2
動けなかった傷病者に声をかけていき、反応の少ない傷病者から優先して自発呼吸の有無を確認します。用手的に気道を確保しても、自発呼吸が認められない場合は黒となります。気道確保により自発呼吸が認められれば、その時点で赤となります。基本的に、トリアージ実施者はトリアージを優先的に行う必要があるため、別の医療従事者が気道確保を行いながら赤エリアまで搬送します。
STEP3
呼吸を評価します。1分間の呼吸回数が9回以下もしくは30回以上であれば赤と判断し、赤エリアに搬送します。
STEP4
脈拍を測定します。橈骨動脈の触知ができなければ赤とし、赤エリアへ搬送します。触知可能であれば黄色と判断し、黄色エリアへ搬送します。
STEP5
最後に意識の確認を行います。呼びかけを行い、手を握ってもらうなど簡単な指示を行い、指示が通れば黄色とし、黄色エリアへ搬送します。指示が通らない場合は赤となり、赤エリアへ搬送します。
図1 START法フローチャート
トリアージタッグの使い方
傷病者の基本情報(氏名・年齢・性別・住所・電話番号)、傷病名や主な症状、トリアージ実施者、トリアージを実施した場所、収容医療機関名、バイタルサインズ、受傷箇所や行った応急処置など、トリアージに関連する情報はトリアージタッグ(図2)に記入していきます。トリアージを行うたびに情報を記入していくことでカルテとして活用でき、現場だけでなく収容先まで傷病者の状態を把握できるようになります。トリアージタッグは3枚つづりとなっており、1枚目は災害現場用、2枚目は搬送機関用、3枚目となる本体は収容先機関で保管する必要があります。
トリアージ区分については、該当する区分までもぎります(トリアージ区分が赤の場合は、黄色と緑色の部分をもぎる)。時間の経過に伴い、傷病者の状態が変化することもありますが、状態が悪化した場合はその区分までもぎり、軽快した場合は最初に使用したトリアージタッグに大きくバツをつけ、新しいトリアージタッグを追加します(修正前のトリアージタッグは残しておく)。なお、原則として、トリアージタッグは傷病者の右手首に装着します。
図2 トリアージタッグ
練習問題
START法を用いたトリアージにチャレンジしてみましょう。
問題①
25歳、男性
自宅が倒壊したため、避難所へ向かう途中、瓦礫で右膝を受傷。右膝の擦過傷からの出血を認めるが、自力での歩行は可能。呼吸数15回/分、脈拍数72回/分、意識清明。
問題②
50歳代、男性
地震により発生した土砂崩れに巻き込まれ、担架で搬送された。気道確保を行っても自発呼吸を認めず、橈骨動脈は触れない。呼びかけにも応じずJCS:Ⅲ-300。
問題③
23歳、女性
地震の際に大きい棚が倒れて右大腿部を受傷。右大腿部に腫脹と疼痛、開放創より出血を認め、自力での歩行は困難。呼吸数32回/分、脈拍数120回/分、意識は清明。
問題④
71歳、女性
地震により津波が発生し、逃げる際に転倒し頭部を打撲。ふらつきがあり、歩行は困難。呼吸数18回/分、脈拍数96回/分。意識障害を認めるが、開眼・閉眼の指示には応じる。
問題⑤
40歳、男性
瓦礫の下敷きとなり一時的に腰を強く挟まれたため下肢に力が入らず歩行は困難。呼吸数15回/分、脈拍数66回/分、意識清明。
64歳、男性、既往症として狭心症
震災によるストレスからか胸部絞扼感が出現。何とか歩行は可能。「胸が苦しい」と発語あり。呼吸数24回/分、橈骨動脈触れず、抹消の湿潤、冷感あり。
歩行可能で、呼吸、脈拍、意識に異常を認めない⇒緑
解答②
気道確保を行っても自発呼吸を認めない⇒黒
解答③
自力での歩行が困難で、頻呼吸(32回/分)を認める⇒赤
解答④
歩行が困難で、意識障害を認めるものの指示は通る⇒黄
解答⑤
呼吸、脈拍、意識に問題はないものの歩行が困難⇒黄
歩行可能。呼吸はやや促迫しているが基準値内。橈骨動脈が触れない⇒赤
START法を看護に活かす!
START法によるトリアージはあくまでも簡易評価であり、緑エリアや黄色エリアに搬送された傷病者が必ずしも優先順位が低くなるとは限りません。トリアージ時点で優先順位の低かった傷病者も待機している間に状態が変化し、優先順位が高くなる可能性があります。そのため、傷病者の一番近い位置でケアを行っている可能性が高い看護師はその変化に気づき、再トリアージの実施やバイタルサインズの測定などを行い、傷病者の状態変化に合わせた緊急度の変更を判断していく必要があります。
近年、トリアージによる訴訟問題も発生しています。2011年に発生した東日本大震災において、石巻赤十字病院でトリアージによる判断に過誤があったとし、患者家族が病院を相手どり訴訟を起こしています。一般に、トリアージの10~30%が誤判断とされていることに加え、START法では30秒程度で1人の傷病者を評価していかなくてはなりません。そのため、確実な方法の会得や実践可能になるための訓練を行っておくことが重要です。