無虹彩症の重症度分類
- 公開日: 2025/4/21
無虹彩症の重症度分類は何を判断するもの?
無虹彩症の重症度分類は、疾患の重症度を評価するとともに、医療費助成の対象となるかどうかを判断するために用いられる指標です。
無虹彩症は、虹彩が完全ないしは不完全に欠損している疾患で、視力障害や羞明といった症状がみられます。また、角膜症(角膜実質混濁、角膜上皮幹細胞疲弊症)、白内障、緑内障、黄斑低形成などの眼合併症が起こり、複数の眼合併症を同時に併発するケースもあるほか、脳梁欠損、てんかん、高次脳機能障害、無嗅覚症、糖尿病といった眼外合併症を伴う場合もあります。
それぞれの症状や合併症に応じた治療が行われ、羞明に対しては、遮光眼鏡や虹彩付きコンタクトレンズ、人工虹彩が用いられることがあります。白内障を合併している場合は、手術により視力の改善が期待できる一方で、術後に緑内障が悪化したり、水疱性角膜症が起こるリスクが高くなるため、十分な説明を行ったうえで実施することが推奨されています1)。緑内障を認める患者さんについては、まずは点眼・内服などの薬物療法を行い、これらで効果が得られない場合は、流出路再建手術、濾過手術(線維柱帯切除術)、緑内障インプラント手術(ロングチューブ手術)、毛様体凝固術といった手術療法が検討されます1)。
無虹彩症は指定難病とされており、一定の基準を満たせば医療費助成の対象となります。複数の合併症を併発してさまざまな治療が必要となり、患者さんの経済的負担が大きくなることも考えられるため、重症度分類で医療費助成の対象となるかを判断することが必要です。
無虹彩症の重症度分類はこう使う!
無虹彩症の重症度分類では、罹患している眼(片眼または両眼)、良好な眼のほうの矯正視力をもとに重症度を評価します(表1)。重症度はⅠ~Ⅳ度の4段階に分類され、Ⅲ度以上で医療費助成の対象となります。ほかに、modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールのうち、いずれかが3以上の場合(表2)、CKDの重症度分類で赤の部分に該当する場合も医療費助成の対象となります(表3)。
<医療費助成の対象>1)~3)のいずれかに該当するものを対象とする。
1)以下でIII度以上の者を対象とする。
表1 無虹彩症の重症度分類
Ⅰ度 | 罹患眼が片眼で、僚眼(もう片方の眼)が健常なもの |
---|---|
Ⅱ度 | 罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.3以上 |
Ⅲ度 | 罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.1以上、0.3未満 |
Ⅳ度 | 罹患眼が両眼で、良好な方の眼の矯正視力0.1未満 |
注1:健常とは矯正視力が1.0以上であり、視野異常が認められず、また眼球に器質的な異常を認めない状況である。 注2:I~III度の例で続発性の緑内障等で良好な方の眼の視野狭窄を伴った場合には、1段階上の重症度分類に移行する。 注3:視野狭窄ありとは、中心の残存視野がゴールドマンI/4視標で20度以内とする。 注4:幼児等の患者において視力測定ができない場合は,眼所見等を総合的に判断して重症度分類を決定することとする。 |
2)modified Rankin Scale(mRS)、食事・栄養、呼吸のそれぞれの評価スケールを用いて、いずれかが3以上を対象とする。
表2 日本版modified Rankin Scale (mRS) 判定基準書
modified Rankin Scale | 参考にすべき点 | |
---|---|---|
0 | まったく症候がない | 自覚症状および他覚徴候がともにない状態である |
1 | 症候はあっても明らかな障害はない: 日常の勤めや活動は行える | 自覚症状および他覚徴候はあるが、発症以前から行っていた仕事や活動に制限はない状態である |
2 | 軽度の障害: 発症以前の活動がすべて行えるわけではないが、自分の身の回りのことは介助なしに行える | 発症以前から行っていた仕事や活動に制限はあるが、日常生活は自立している状態である |
3 | 中等度の障害: 何らかの介助を必要とするが、歩行は介助なしに行える | 買い物や公共交通機関を利用した外出などには介助を必要とするが、通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要としない状態である |
4 | 中等度から重度の障害: 歩行や身体的要求には介助が必要である | 通常歩行、食事、身だしなみの維持、トイレなどには介助を必要とするが、持続的な介護は必要としない状態である |
5 | 重度の障害: 寝たきり、失禁状態、常に介護と見守りを必要とする | 常に誰かの介助を必要とする状態である |
6 | 死亡 |
食事・栄養 (N)
0.症候なし。
1.時にむせる、食事動作がぎこちないなどの症候があるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.食物形態の工夫や、食事時の道具の工夫を必要とする。
3.食事・栄養摂取に何らかの介助を要する。
4.補助的な非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養など)を必要とする。
5.全面的に非経口的栄養摂取に依存している。
呼吸 (R)
0.症候なし。
1.肺活量の低下などの所見はあるが、社会生活・日常生活に支障ない。
2.呼吸障害のために軽度の息切れなどの症状がある。
3.呼吸症状が睡眠の妨げになる、あるいは着替えなどの日常生活動作で息切れが生じる。
4.喀痰の吸引あるいは間欠的な換気補助装置使用が必要。
5.気管切開あるいは継続的な換気補助装置使用が必要。
3)CKD重症度分類ヒートマップが赤の部分の場合を対象とする。
表3 CKD重症度分類
引用・参考文献
1)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班診療ガイドライン作成委員会:無虹彩症の診療ガイドライン.日本眼科学会雑誌 2021;125(1):62-3.●厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業希少難治性角膜疾患の疫学調査研究班,他:無虹彩症の診断基準および重症度分類.日本眼科学会雑誌 2020;124(2):83-8.