第5回 患者さんが治療情報を探すことをサポートするには?
- 公開日: 2015/6/28
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、病棟業務の中では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療上の悩みや困難さを訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで今回、患者の病いの語りをデータベース化しているDIPEx-Japanの協力のもと、看護師が患者に対応する上で知っておくべき患者の気持ち・考えを解説します。
情報は複数の情報源から、そしてコミュニケーションをとること
療養中に情報とどう付き合うかはとても重要です。人はものを決めるときに必ず情報を必要としますし、情報によって選ぶものも変わります。今回は、インターネットも含め、療養中における情報との付き合い方について扱います。
39歳で乳がんの診断を受けた女性(インタビュー時44歳)
とにかく「複数を聞いて判断しよう」っていう思いがあったので。あと、そうですね。セカンド・オピニオンって、もう一つ情報源になったのは、インターネットで、インターネットはいろんな情報があるんですけれども、その相談(窓口)があるんですよね、インターネット相談。
例えば、私の県ではその県のドクターが集まって、交代で、その患者の質問にインターネットで答えるっていうサイトがあって。私はそのサイトをずうっと継続して見ていたんですよ。
見てたので、そこは信頼できるっていうのを自分で分かっていたので、自分がなったときも、そこにQ&Aを出して、あと、いくつかそういうのが2つ、3つあったので、そこにも詳しく書いて、「この場合は抗がん剤どう考えたらいいんだろうか?」っていうのを、質問を出しました。ですから、直接ドクター会ったのは、2人かな? 3人かな?
で、そういうQ&A。全部で5か6の意見を集めて、で、いろいろまあ最新の本とか、インターネットの情報とかさらに読んで、そういうのを全部総合して自分で決めた。で、主治医の先生と。
だから、A先生がこう言ったから、こう。この先生が言ったからこう。本にこう書いてあったからこう。じゃなくって、とにかく全部自分で情報を集めてトータルして、あ、こことここの意見はちょっと近いじゃないかとか、あ、同じことを、ということは、かなりこう真実に近いとかね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 乳がんの語り」より
情報の探し方の中でまず重要なのは、複数の情報源から情報を得ることです。インタビューに答えてくださった方も、自分の主治医に加えセカンドオピニオンを得ていますし、インターネットも複数のサイトを使っています。
情報は複数のものを見比べることで初めてそれぞれの特徴がわかってきます。また一つの治療でも、言葉を変えて説明されたり、立場が違う人から説明されると患者さん自身の理解が深まります。
納得して治療法を決めたり、何かを決めるだけでなく副作用の対処法を探したり、気持ちの持ち方について知りたいと思った時も、複数の情報源から情報を得て見比べて、自分が納得した上で行動することが求められます。
また情報は、ただ得るだけでなく「やりとり」をすることも重要です。上で語ってくれた方は、インターネットでもただ情報を一方向で得るだけでなく、Q&Aサイトを用いて自分がピンポイントに尋ねたいことを尋ね、それに対する回答を得ています。
このようにその人の個別性を重視したものは、その人のために仕立てられた情報という意味で「テイラード(tailored)」な情報と呼ばれます。
通常インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報は、不特定多数が見ることが前提です。そのため一般的な情報が多く載せられています。もちろんそれも療養中に必要な情報ですが、「私はどうなのか?」という個別性の高い情報を得るには、一方向に発信された情報を収集するだけでは限界があるのです。
情報を得たい側が「自分はこういう状況だ」と説明しないと、個別性が考慮された情報は得られません。ここに情報のやりとりであるコミュニケーションが発生します。療養中に得たい情報を得るには、自分の状況を説明したり、わからないことを尋ねるといったコミュニケーションが不可欠です。
このように、複数の情報源を用いることとコミュニケーションをとることが、療養中の情報利用には重要です。看護師は患者さんにこのようなアドバイスをするとともに、初めてのことに直面して何をどう尋ねたらよいかわからない患者さんがコミュニケーションをとれるような環境を、常に整えておくことも求められると思います。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。