第9回 前立腺がんの術後の患者さんの気持ちとは?
- 公開日: 2015/7/26
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、病棟業務の中では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療上の悩みや困難さを訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで今回、患者の病いの語りをデータベース化しているDIPEx-Japanの協力のもと、看護師が患者に対応する上で知っておくべき患者の気持ち・考えを解説します。
手術してわかった、身体と心の変化―男性性を失うこと―
入院期間の短縮化で、術後の患者さんも急性期を脱すると早期に退院されます。そのため、患者さんが手術による身体的変化の多くを実感するのは退院後と言えます。特に、前立腺がんの術後後遺症の一つである性機能障害は、退院後しばらく経って実感されるものです。患者さんたちはどのような思いを抱いているでしょうか。
58歳で前立腺がんと診断された男性(インタビュー時58歳)
尿管を切っているわけですし、精嚢を取っとるわけなんで、状態としたらパイプカットした状態ですよというのは言われましたね。
じゃ、どうなるんですかって言ったら、普段とは恐らく変わりませんからって言うから、ああそうですかって。で、別に変調もないし、ま、いいんだなと(笑)
(中略)パイプカットはあとから聞きました。あとから私が質問したのか。ただ、うん、インポテンツに、一時期ですね、なる可能性があるということと、尿失禁は事前に(説明が)あったんです。
(中略)例えば私がまだあの、若くて、子どもを作ろうという予定があれば、あれですが。まあそれがあれば、医者も事前に言っていたんじゃないでしょうかね。で、医者も私が家内を亡くしたということをもう知ってましたし、そういうことで、まあ年齢が年齢ですから、まああえてご説明がなかったのかなという気はします。ただインポテンツになる可能性は言われているわけですからね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 前立腺がんの語り」より
60歳で前立腺がんと診断された男性(インタビュー時64歳)
女性の前で言いにくいけど……。男性自身の、あのー、元気がなくなった。もう……ね。あんまり役に立ち、もう年齢的にももう役に立たんようになる時期なんだけど、でも、まだ年上で元気な人もいるしね。
だけえ……。もちろん若い人でもね、こればっかりは個人差があるんやろうけど。まあ、それがさびしいかなぐらいのもんだな。うん。それはもう、生殖器の一部を取っとるわけやから、それはもう生理的になくなるもんなんで、だから、それはもうあきらめてはおるけども。
(中略)やっぱ全摘すると、気持ちの上では、あれ、どうせ年齢的に駄目になる…なんだけど、あのー、何でもそうだけど、できるけどしないのと、できないのとの精神的な違い。うん。する能力、それから力。スポーツにしても、勉強にしても、何でもいえると思うんだけど。だけど、しないのとね、したくてもできないっちゅうのとのギャップってあるじゃない?…
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 前立腺がんの語り」より
一人目の患者さんのように、手術までの間は手術を無事に終えることで精一杯で、説明されていたとしても術後を具体的にイメージできなかったと言う方は少なくありません。
また、二人目の患者さんのように、希望して、勃起神経を温存する手術をしたものの身体の変化を徐々に実感し、年だからとか、しょうがないでは整理できない心の葛藤を感じながら生活されている方もいます。
性機能障害の捉え方は個人個人で異なりますが、具体的な性機能に関わる「男性の本音」はなかなか本人からは言い出しにくく、気持ちを察し、看護師から水を向けて話を伺うことも大切です。術後の性機能障害は自尊感情やアイデンティティに関連し、うつ傾向になるという報告もあります。
入院中、外来に関わらず、患者さんが気持ちを抱え込まず聴く存在として<私たち看護師がいる>ことを伝えて下さい。なかなか女性の看護師が聴くことは難しいことかもしれません。今は男性の看護師も多くなっています。同性のナースマンの支援のみせどころかもしれません。患者さんの抱く気持ちを大事に術後、外来での継続看護をしていきましょう。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。