第12回 ホルモン療法をする前立腺がん患者の不安に寄りそう
- 公開日: 2015/10/29
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
男性の部位別がん罹患率2位の前立腺がんの治療は多岐にわたりますが、その中でも内分泌(ホルモン)療法は注射や内服で長期的に行われる治療です。治療が長くなる中で患者さんは、どのようなことを思いながら、治療を続けていらっしゃるのでしょうか。
患者の気持ちを察した医療者の率直なやりとりが希望の光に
前立腺がんの内分泌療法は、主にがんの転移、もしくは年齢、合併症などのために、手術や放射線療法などの局所療法が難しい方に用いられますが、治療の効果を高めるために局所療法と組み合わせて行われることもあります。
進行した前立腺がんでは2~3年で抵抗性が出てきて、薬が効かなくなるといわれています。
60歳で前立腺がんと診断された男性(インタビュー時61歳)
それこそまた、ものの本(で知ったん)やけども、こういうふうなホルモン療法というのは何年か――早い人は1年かも知らんけども――経つと、体にまたそれに抵抗力ができて、また効かんようになると。そしたらまた、行って戻ってのまたこれかというふうな、もう全然こう、光が見えんというかね、救いがないというか。
まあ、その先生が言わっしゃることはもう、ざっくばらんな話で、「ああん、もうあんた、そんな簡単に死にゃあせん」って。「いや、ばってん、薬がもう効かんごとなったら、次の薬、次の薬、どげんなっとるんですか」言ったら、「あんた、よう考えてみね」て。「今の薬が例えば5年間効いて、効かんごとなった。ほんなら、また別な薬で5年間。それで効かんごとなったらまた5年間。それで足しゃ15年やろ」って。「あんた、今、年はなんぼね? 60ね?」て。「61ね」て。「15足しゃ76じゃろが」って。
「男の平均寿命、いっとるやんか」っちゅうたらね、そう言われてみると、「ああ、そうか」っちゅうようなね、うん。そういう先生に巡り合わしていただいたっちゅうような、それが一番の救いで。まあ、そういう、言葉は違いますけども、そういうニュアンスでね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン 前立腺がんの語り」より
この方は、不安の訴えを素直に医師に話し、医師はつくろわず、率直な言葉で説明しています。
このように本音で対話できる医師との出会いで、救われた思いだったと語っています。「光が見えん」「救いがない」という訴えに、薬が効かないことが死をイメージしていると感じた医師は、「そんなに簡単に死にゃあせん」と患者の気持ちを察した言葉を返し、先行きの不安にも、医学の進歩、未来を時間軸で具体的に示しています。
患者はその言葉に光を感じ、これからの時間も希望をもって生きようと思われたのではないでしょうか。
皆さんの病院でも同じような思いで受診されている方がいるかもしれません。
外来の短い関わりの中でも、患者の言葉の奥にある思いを理解することは重要です。
治療や処置の合間に、まずは皆さんから声をかけてみてください。患者さんは思いを打ち明けやすくなるのではないでしょうか。思いを理解してくれる医療者に話すことで、治療の中で感じている心の負担が和らぎ、安心して治療に向き合うことができるのではないでしょうか。
外来時の関わりを大事に、看護していきましょう。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。