第23回 がん患者さんが抱える経済的な不安とは?
- 公開日: 2016/1/21
- 更新日: 2021/1/6
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
がん患者さんが不安に感じることのひとつが経済的な問題です。がんの治療にはいろいろとお金がかかります。手術や抗がん剤などの費用はもちろんのこと、通院にかかるお金も無視できませんし、治療のために離職や休職を余儀なくされ、大きな収入減に直面する可能性もあります。
命の次に考えること
49歳の時に大腸がんと診断された男性(インタビュー時51歳)
手術的には、要するに、それほどの不安はもう…ないわけなんですよ、ええ。だから、そのあとで、結局「じゃ、次は?」っていうと、命は、要するに「まず、普通はOKだ」っていうことだったもんで、「じゃ、次は?」というと、やっぱり、…お金になっちゃうわけじゃないですか、ええ。
で、あとは、保険の見直しやら、そういうのが、こう、次の段階になっちゃう。要するに、ね、命が助かるってなれば、次は、そっちになっちゃうわけですよね。で、あと、やっぱり、子どもの、その費用やら何やらの頭も…授業料やらね、生活費やらの頭も…あるもんで。だから、そういう保険を、全部見なおしたっていうのが実情ですよね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 大腸がんの語り」より
大腸がんと診断されたこの男性は、早期の発見だったため、命についての不安を抱くことはそれほどありませんでしたが、治療費や子どもの授業料、日々の生活費など、お金の不安は大きかったと語っています。
男性は保険を見直すとともに、勤務先の社長から教えてもらった高額療養費の制度を利用して問題に対処しました。一方、乳がんと診断された女性も、たまたまこの制度を知っていて手続きをしましたが、そのなかで感じたのは、「こちらから言わないと一切向こうからは言ってくれないということ」でした。
44歳の時に乳がんと診断された女性(インタビュー時49歳)
たまたま家族ぐるみで付き合っている人のご主人が、白血病ですごい高額医療、治療をしてたので、どういうふうにすればいいっていう、そういう、「いくら以上になるとね、返ってくるよ」っていうことを聞いたので。「その代わり自分で手続きをしないと向こうからは言ってくれないよ」ということを言われたんですね。
で、大きな会社に勤めている場合は、その会社でやってくれるけれども、うちはもう有限会社なので「自分でやるしかないよ」って言われたので、それはもう本当に、それもどこへ行けばいいかも分からなくて。
行っている病院に、相談室があったので、そこに聞きに行ったんですね。「こういうので高額医療のそういうのはどこに行けばいいか?」って言ったらば、説明してくださって、「社会保険事務所に行ってください」。 行っていろんな説明を受けて、でも、やはり、すごいいろんなそういう手続きとか、いろいろしている中で思ったのは、こちらから言わないと一切向こうからは言ってくれないということがすごいよく分かりましたね。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より
こうした制度は患者の経済的な負担を軽減してくれるものですが、制度があることを知らない患者さんもいますし、知っていても、治療のことで手一杯のときに、内容を詳しく調べたり、細かな手続きをしたりするのは簡単ではありません。
さまざまな経済的不安を抱える患者さんが、少しでも安心して治療に取り組んでいくためにも、そういった面への配慮が必要になります。メディカルソーシャルワーカーなど、他職種との連携・協働もきめ細やかな対応につながります。
経済的なことは、治療法の選択や今後の生活プラン、就労との両立など、患者さんがこれからどのように病気と向き合っていくかに深く関わっています。しかし、医療者に対しては、なかなかお金の話を口にしづらいという部分もあるのではないでしょうか。患者さんが経済的な不安を話せるような声かけや雰囲気作りも大切になってきます。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。