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【連載】看護に役立つ生理学

第31回 脂質 LDL・HDLと動脈硬化

  • 公開日: 2016/1/9
  • 更新日: 2020/3/26

臨床的には動脈硬化の危険因子として否定的に語られることの多い脂質は、本来は生体に不可欠な構成要素であり、重要なエネルギー源でもあります。今回はこの脂質について理解を深めましょう。



「脂質」と「脂肪」

脂質に関連する用語には「脂質」「脂肪」「脂肪酸」など、紛らわしいものがいくつかあります。

最も広い範囲を指す言葉は「脂質」(lipid)であり、水と混じり合いにくい物質の総称です。この中に、中性脂肪やコレステロールを初めとしたさまざまな物質が含まれます。

「脂肪」(fat)は狭い意味では中性脂肪のみを指しますが、「脂質」と同様の意味で用いられることもあり、やや適用範囲の曖昧な用語です。「脂肪酸」も脂質のひとつですが、脂質を分解して得られる物質(誘導脂質)であり、さまざまな脂質に共通する構成要素となっています。

疎水性と親水性

「脂質」とひとくちに言っても多種多様な物質が存在し、その生体における機能もかなり異なっています。

それでもしばしば一括して扱われるのは、この「水と混じり合いにくい」という共通の性質が、脂質の生理学を理解する際に、どこまでもついて回るためです。

この性質を、「水を疎んじる(うとんじる)性質」という意味で「疎水(そすい)性」呼び、逆の性質を「親水性」と呼びます。個々の物質の細かい化学構造に深入りする必要はありませんが、脂質の疎水性がどこから来るのか、そこだけは詳しく見ておきましょう。

水の分子式がH2Oであることはご存知でしょう。水分子は全体としては電気的に中性ですが、Hのあたりがプラス気味に、Oのあたりがマイナス気味に、電気的に偏った状態になっています(もっと極端に偏ると、NaClのようなイオン性物質になります)。

これを「極性」と呼び、水に溶ける側の物質も、この極性が大きいほど溶けやすい傾向があります。C・H・Oなどのごく少数の元素で占められる有機物質について言えば、「O-H」の結合部は親水的に、「C-H」の結合部は疎水的になります。

例えば脂肪酸は、図1のようにC・Hからなる鎖の先端に酸の構造(COOH)を備えています。

この図を眺めて、細かいことはわからなくとも、「この辺りは水と相性が良さそう(悪そう)だな」ということが読み取れれば充分です。

脂肪酸の場合は、先端部分だけは親水的であるのに対し鎖の部分は疎水的であり、鎖が長ければ長いほど先端の親水性はほとんど目立たなくなります。

注意すべきことは、親水性・疎水性は二元論で語られるものではなく、比較・程度の問題であるということです。「どれくらい疎水的であれば脂質と呼べるか」という明確な基準はなく、脂質の中でも疎水性の度合いはさまざまです。

また、一つの物質に親水的な部位と疎水的な部位が共存することも珍しくありません。

脂肪酸の構造

図1 脂肪酸の構造。どこが疎水性を持つのか読み取ってみましょう。

脂質を「部品」で整理してみよう

代表的な脂質を列挙する前に、脂質を構成する大まかな部品に注目して整理してみましょう。脂質の主な構成要素としては、以下のものがあります。

脂肪酸

前述のような炭化水素鎖を持つ酸で、さまざまな鎖の長さのものが存在して多くの脂質に登場し、脂質の疎水性の中心的な原因になっています。また、この鎖の部分が燃焼することで大きなエネルギーを取り出すことができるため、エネルギー源としての役割も果たします。

グリセリン(グリセロール)

後述する中性脂肪やリン脂質など、主要な脂質の基本骨格として登場します。グリセリンそのものは水に溶けやすく、臨床的には浣腸液として有名です。

コレステロール

ステロイドホルモン(副腎皮質ステロイドだけでなく、男性・女性ホルモンなどを含む)やビタミンDといった、生体に不可欠な多くの物質の原材料となります。細胞膜の成分としても重要です。食事から摂取するだけでなく、細胞で生合成することが可能な物質です。

エステル化で繋がる脂質

これらの部品に他の物質をまじえてさまざまに結合することにより、以下のような多種多様な脂質が形成されます。

その際には、「エステル化」と呼ばれる特徴的な共通の結合様式が見られます。中性脂肪を例にとると、この脂質は先ほどの部品のうちグリセリンと脂肪酸とがエステル化したものです。

グリセリンには脂肪酸と結合できる部位が3箇所あり、中性脂肪はこれを接続基盤にして、脂肪酸の枝が1~3本生えたような姿をとっています。この結合は、もともと備わっていた親水的な部分を互いに埋めるように行われます。

トリグリセリド

上で触れた中性脂肪の主成分をなす物質で、3箇所すべてに脂肪酸が結合しているものを指します(「トリ」は3を意味します)。脂肪酸の酸性がエステル化によって失われているために「中性」の名が冠されています。この構造から容易にわかるように、きわめて効率のよいエネルギー貯蔵物質となっています。

リン脂質

名前のとおり分子内にリンを含むことが特徴で、最も有名なものは細胞膜の主成分をなすフォスファチジルコリンです。この物質もグリセリンを基盤としたエステルですが、3本の枝のうちの1本がリン酸(+コリンという物質)になっており、実はこの枝は親水性を持っています。このように分子の中に親水部分と疎水部分を併せ持つ性質を「両親媒性」と呼び、脂質の生体における存在様態に多大な影響を与えています。

コレステロールエステル

コレステロールと脂肪酸が結合し、エステル化によってさらに疎水性が増したものです。

代表的な脂質例

図3 代表的な脂質。エステル結合(★)を有しています

ミセル化 脂質を運ぶ常套手段

脂質は、まさにその疎水性のために、そのままの形では体内への吸収や血漿中での運搬に困難を伴います。水中で油分をかき混ぜようとしても、時間が経つにつれて油同士が丸く融合してしまうことは日常的に経験される現象でしょう。

そこで、水(体液)と油(脂質)の仲介をしてくれる物質が、以前、述べたリン脂質を初めとする両親媒性の物質です。

両親媒性物質は、疎水部分を脂質のほうに向けてこれを球状に取り囲み、親水部分を表面に向けて水溶性を高めます。

これが有名な「ミセル形成」であり、これによって脂質は少量ずつ各ミセル粒子内に閉じ込められて融合する機会を失います。

これは実は、洗剤などに用いられる界面活性剤と同じ原理です。

食物に含まれる脂質が消化・吸収され体内で運搬される一連の過程において、最初に経験する主要なミセル化は、「中性脂肪が消化を受けたのちに胆汁酸が取り囲み、吸収を容易にする」という局面です。

この胆汁酸も、コレステロールを原料とする両親媒性の物質です。中性脂肪は血中で運搬される際にも、コレステロールなどとともに、吸収時とはまた異なる構造のミセルを形成しています。

これを「リポタンパク」と呼び、臨床にもかかわる脂質の振る舞いを理解する鍵となる存在ですので、以下で詳しく見ることにしましょう。

リポタンパクとは?

リポタンパク(「リポ」は脂質を意味する)は図3のように、トリグリセリドやコレステロールエステルのような疎水性の高い脂質を、両親媒性のリン脂質などでくるみ、さらに表面にタンパク質を備えることで水溶性の高まったものを指します。

血液検査によってコレステロール値や中性脂肪値などを測定することができますが、実際にはほとんどがこのリポタンパクの形で存在しているのです。

リポタンパクは複数の物質の混合物ですから、ひとつのミセルの粒子に含まれる各物質の含有率はさまざまであり、それが密度(あるいは比重)の違いとなって表れます。

この密度の大小によって細かな分類がなされていますが、まずは大きく「高密度リポタンパク(HDL)」と「低密度リポタンパク(LDL)系統」、さらに密度の低い「カイロミクロン」の3つに分けると理解しやすくなります。

「高密度」というと重そうなイメージですが、実は質量(重さ)としては小さく、体積がそれを上回って小さいために、結果として密度が高くなっています。

イメージする際には「高密度なものほど、ギュッと凝縮されていて小さい」と覚えておけばよいでしょう。HDLの直径が10nm(ナノメートル)程度であるのに対しLDLは20nm程度、これらに比べるとカイロミクロンの直径はずっと大きく、数百nmに及びます。

図1 リポタンパクの一般的構造
リポタンパクの一般的構造の図

リポタンパクの種類と動脈硬化

昨今では「善玉コレステロール」「悪玉コレステロール」という語が患者さんにもよく知られるようになっていますが、これらはそれぞれ「HDLコレステロール」「LDLコレステロール」の俗称です。

コレステロール自体にそのような種類があると誤解されやすいようですが、実際には両者のコレステロールの構造には変わりはなく、それを含有するリポタンパクの種類が異なる、という点に注意が必要です。

「善玉/悪玉」という語は、簡単に言えば「動脈硬化のリスクを下げる/上げる」という意味で便利に用いられていますが、私たちはそのメカニズムまで理解しておきたいところです。

そもそも、脂質の含有比率や密度が異なるというだけで、なぜ善玉・悪玉などと呼ばれるような振る舞いの違いが出てくるのでしょうか。

実は、これらの違いはそれだけではなく、由来や性質が異なっており、それが結果として密度の違いという形で表れているのです。

LDLとHDLの体内での役割の違い

最も大きなサイズを持つカイロミクロンは、トリグリセリドが大半を占めており、食事由来の中性脂肪を小腸から肝臓に運搬する際のリポタンパク形態です。

いっぽうLDL系統のリポタンパクは肝臓から分泌され、血中に出た直後はトリグリセリドが豊富で、末梢組織にこれを分配しながらサイズが減少してゆきます。

やがてコレステロールの比率が高まったLDLは、末梢へのコレステロールの供給作用を持ちながら、いずれ肝臓に認識されて回収されます。

ところが、「もともとのトリグリセリド含有量が多かった」など、さまざまな理由で血中に長くとどまっていると、動脈内に進入してマクロファージの攻撃を受け、動脈硬化の原因となるプラーク形成をきたすことになります。

これに対しHDLは、肝や小腸から分泌される(一部はカイロミクロンから分離して生じる)、トリグリセリドをほとんど含まない小さなリポタンパクです。

分泌直後は円盤状をしていますが、やがて末梢組織にある余剰のコレステロールを取り込んでエステル化し、球状に太ってゆきます。そのまますべてが肝臓に回収されてくれれば良さそうなものですが、HDLLDL系統のリポタンパクにコレステロールエステルを引き渡します。

これでは結局コレステロールは末梢に戻ってしまって意味がないように見えるかもしれません。

しかし、LDLはいずれ肝臓に取り込まれるわけですから、一連の流れにより、HDLは全体としコレステロールを末梢から肝臓に回収する方向に寄与しています。

動脈硬化のリスクが異なるのはなぜか

前節で解説したように、同じコレステロールでもLDLに含まれるものとHDLに含まれるものとでは、動脈硬化のリスクという観点からはその意義が全く異なるものであると考えられます。

そもそもコレステロールと動脈硬化の関連が疑われたのは、病巣のプラークそのものがコレステロールの塊と言ってよいような物だからです。

実際に血中総コレステロールの高値は動脈硬化性疾患の危険因子として認められましたが、その値の一部は、余剰コレステロールを回収している姿を見ていたことになります。

そこで、このHDLコレステロールだけを取り出した値と冠動脈疾患のリスクが調査された結果、逆相関する(すなわち、値が低いほどリスクが高くなる)という知見が現在では確立されています。

各種リポタンパクの主要な動態

図4 各種リポタンパクの主要な動態

さらにワンポイント

リポタンパクの性質を決めるタンパク質

リポタンパクの種類の違いによって質的な差異が生じる背景には、表面に存在するタンパク質の種類が異なることが大きな原因となっています。

これらのタンパク質のことを、少々まぎらわしいですが「アポタンパク」(または「アポリポタンパク」)と呼びます。

アポタンパクは単に水溶性の増進に貢献するだけでなく、細胞の受容体に認識されたり、酵素の活性を促進・阻害したりする働きがあります。

例えばHDLLDL系統を比較したとき、LDL系統に特有のアポタンパクのひとつは、肝の「LDL受容体」に結合することによって前述のような回収を可能にします。

いっぽうHDLでは、末梢から取り込んだコレステロールをエステル化するくだりがありました。

これはHDLに含まれるリン脂質から、脂肪酸の枝をコレステロールに移し変えることで実現されますが、この反応にはHDL特有のアポタンパクがかかわっているのです。

(『ナース専科マガジン』2013年6月号より転載)

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