第25回 手術後の痛みを慢性化させないために、ナースができることとは?
- 公開日: 2016/2/4
- 更新日: 2021/1/6
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
痛みは本人にしかわからない体験です。手術後の痛みは創痛だけではなく、退院後長期化する痛みを抱えながら生活している人もいらっしゃいます。
3カ月以上継続する痛みや付随する特殊な感覚は、生活の質を低下させることになります。手術後の長引く疼痛に着目した支援を考えるとよいでしょう。まずは、どのような痛みを体験しているのかじっくりとお話を聴くことからはじめてみてはいかがでしょうか。
手術後から痛みの訴えに耳を傾ける
44歳で乳がんと診断され温存術を受けた女性(インタビュー時45歳)
(手術を終えて)7カ月たった今は、傷そのものに関しても、強い痛みっていうのは、もう傷にはありません。ただ、乳房には、まだ触ると痛い場所が残っています。多分、これは、7カ月も経って痛みがあるっていうのは、最初、私おかしいんじゃないかと思ったんですけれども、逆に温存したがために残ってしまう痛みっていうのがあるそうで。
全摘の場合は、本当に全摘してしまって、まあ縫って終わりという・・・まあ単純に言えばね。ただ、温存の場合は、おっぱいの一部をくりぬいて、で、あっちこっちちょっとこう肉を寄せ集めて縫合するわけですから、…それ(痛み)が完全になくなるまでには、全摘よりも下手したら長くかかってしまうことはあるそうで、それで、ちょっとまだ一部、まだ痛い場所が残っています。
…やっと生活に差し障りがなくなりました。けど、かなり長い間、痛みは残っていましたので、それがかえって不安の一つでもあったんですね。まだ、痛みがあるけど大丈夫なんだろうかと、そういうのがかなりずっとありました。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より
乳がん術後の慢性痛を予防するためにも、早期から疼痛を緩和する必要があります。手術後に痛みが続いていても、ご本人にとっては初めての経験のため予測がつかず、不安を感じるようになります。こうした不安は、より痛みを長引かせるひとつの背景になり、治りにくい慢性痛につながることがあります。
このかたは、長引く痛みは「おかしい」と思ったが、術式による影響であると術後比較的早い時期に理解し了解したことも、痛みを強めるような、深刻な精神的負担を引き起こすことはなく経過したものと思われます。
44歳で乳がんと診断され温存術を受けた女性(インタビュー時49歳)
すごい腕を下ろしたときの違和感があったので、「すごい気になるんですが」って言ったら、「まあ一応、手を動かすために大胸筋(でしたね?)、筋肉は残しているから、まあそのうち慣れるよ」って言われて。確かに、3カ月ぐらいしたらば慣れましたね。
で、あと、やはり切っているということで、…ということは、皮膚と皮膚が減っているので、こう突っ張っているわけですよね。で、最初のころに、腕に1本、こう何か筋(があるような感覚)…。だから手首から、その傷口まで、腕の付け根まで、1本何かこう引っ張られている感覚があって。(中略)
あとは、時々、まあ今もそうなんですが、傷口が重たかったりとか、痛むときがあるんですね。…ちょうどそうですね。気圧が、えー、だから、天気が悪くなる半日ぐらい前ぐらいにちょうど痛くなるんですよね。
で、ああ、そうかと思って、まあそのうち良くなるのかなと思ったんですが、どうも5年経ってもなってますので、まあこれはしょうがないかな。一生の付き合いかなとは思っているんですが。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 乳がんの語り」より
先にご紹介した方は、数カ月の期間、痛みを感じていましたが、この方は術後数年を経た現在も、継続する痛みや感覚異常があることが伺えます。お二人の語りからは、痛みの出方やそのきっかけなど経過が異なること、その苦痛の受け止め方も違なり、おひとりおひとりが体感している特殊な感覚や、痛みを表現しており、その違いが読み取れます。
慢性痛の特徴は、からだの痛みがこころの痛みを生み、逆に、こころの痛みがからだの痛みを強めるなど相互に影響することが指摘されています。痛みの経過や影響している背景や、長引く痛みをどのように感じ、受け止めているのかを、まずはありのまま聞く姿勢で対応するとよいでしょう。
このことは、痛みの閾値に影響している要因が何かを推察する情報となり、痛みを持つ人をより深く理解する手がかりとなります。このように、術後早期から慢性痛に移行しないよう、疼痛緩和に向けた看護の視点をもちケアにあたるとよいでしょう。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。