第26回 患者その人にとっての補完代替療法の意味を考える
- 公開日: 2016/2/11
- 更新日: 2021/1/6
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
日本では患者さんの2人に1人は、補完代替療法を利用していると報告されています。補完代替療法を試す、続けることには、その人にとってどのような意味があるのでしょうか。看護師としてどのような関わりが求められるのでしょうか?
補完代替療法を試みている人へのアプローチとは?
64歳の時に前立腺がんと診断された男性(インタビュー時71歳)
その中に、一つ、アガリクスのその錠剤の、発売元があるからということで、それを紹介されて、で、それを、一応、とりよせるようにして、それを飲みはじめましたね。
それが、今の治療(放射線とホルモン療法)を中断しているとき、病院でその時に(=入院中に)、それを紹介していただいて。(体力が低下して)治療を中止している間に、少しずつそれを飲むようになりましてね。病院の先生には何も一切、知らせてませんけど。(中略)
それは、ずっと飲み続けていましたね。ええ。だから、それが、よかったとは思いませんけど、自分自身に、それが「いい」と思って、続けるっていうことも、一つの何となく自分に安心感を与える、一つの手かもわかりませんね。人間なんてそんなもんかなと思いながら、今も少しずつですけど。ま、量は全然違いますけどね、そのころの量と、ほんと。
で、高いんですよ、非常に。うん、その薬っていうか漢方薬がね。高いけど、ま、それはそれでしょうがないと思いながら、うん、それで元気になれたかも分かりませんので、ま、それを続けていますけどね、今は。
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 前立腺がんの語り」より
補完代替療法とは、西洋医学以外の医療をさし、米国国立補完・代替医療センター(NCCAM)では、①健康食品を含む天然産物、②瞑想、気功、鍼灸などの心身医療、③マッサージ、カイロプラクティックなどの手技療法、④エネルギー療法などのその他に分類されており、その種類は非常に多岐にわたります。
日本では、健康食品の利用が圧倒的に多く、はじめたきっかけは、家族や友人からの勧めが自らの意志を大きく上回っているという特徴があります。
患者さんの多くは、今回の語りの人と同様に医師に相談していないようです。
なぜでしょうか。
補完代替療法について相談することで主治医を信頼していないと思われる、取り合ってもらえないだろうと思うことの方が多いのかもしれません。
補完代替療法は、がん患者さんにとって再発予防やがんの進行をおさえたい、体調をよくしたいという意味が一般的にはあると思われます。
それ以外にも今回の語りの人のように、気休めと分かっていながら、何か行うことで安心をえていることもあるようです。家族が勧める場合には、家族の思いに応えるという意味もあるでしょう。
まず、看護師から、ご自分で体調を整えたり、がんの進行を抑えるために、やってみたいことややっていることを教えていただけますかと聞いてみることで、補完代替療法に対する思いや意味、価値観に触れ、そのひとにあう補完代替療法を一緒に考える機会となるかもしれません。
また、それ以上に患者さんにとっては、自分の思いに関心を向け、寄り添おうとしてくれているという実感が何よりのケアや癒しになるのかもしれません。
また補完代替療法の中には、高額なばかりで効果がなく、明らかに身体に悪影響を及ぼす場合もあり、注意が必要です。服用している薬との相互作用により適さない場合もあります。
その際、看護師は、ただ中断することを勧めるのではなく、何を求めてその補完代替療法を続けているのか、その人にとっての意味を考えて関わる姿勢が大切です。
参考資料
1)厚生労働省がん研究助成金「がんの代替医療の科学的検証と臨床応用に関する研究」班:がんの補完代医療ガイドブック第3版,2012.(http://www.shikoku-cc.go.jp/hospital/guide/useful/newest/cam/dl/index.html)
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。