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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第30回 患者さんの“生きたい”を支える哲学

  • 公開日: 2016/3/10
  • 更新日: 2021/1/6

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。

そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


日常の仕事の中で、特に外来では一人一人の患者さんと、病気と生活、病気と生き方などのお話をする時間は殆どとれませんね。

病棟でも入院期間の短縮、治療の高度化、重症化などの影響で、看護師の業務はスムーズな治療の実施・継続が優先されています。入院の目的は治療なので当然のことですが、患者さんはどのような思い・考えで闘病されているのでしょうか?

メーテルリンク「青い鳥」に支えられたAさんの人生!

ご紹介する男性は、80代に入って肺がんと大腸がんが発見され切除術を受けました。

2年前に前立腺がんの診断を受けたときも、高齢のため経過観察か保存療法を勧められましたが、がん細胞が残っているのはイヤなので手術を選択されました。

3つのがんを経験して、旧制高等学校時代に読んだメーテルリンクの名著「青い鳥」が、生きていく支えになったと語っています。
83歳で前立腺がんの診断を受けた男性(インタビュー時:85歳)
こちらからご覧ください
インタビュー時の写真
(この語りはテキストのみです。画像をクリックすると患者さんの語りの全文が読めます)

まあ、早期診断・早期発見というのはこれはどこの世界、どの医学の世界でも大事なことですが、ただ、がんのできる場所によって運もありますから、不運があったらこれはもうしようがないんだと、半分あきらめて。

残りの半分は、じゃ、この運命をどう切り開こうかという方法論を自分なりに探すということが必要じゃないんでしょうかね。それは非常に難しいことですけれども、自分なりにどう判断するか。

私が昔、高等学校のときに考えたのは、メーテルリンクの「青い鳥」。メーテルリンクは生物学者でもありますが、私はむしろ「青い鳥」を読んだときから彼は哲学者だと思っているんです。チルチル、ミチルが、青い鳥を探していくときに、未来の国という所へ行ったんですね。

そうすると、そこでたくさん命(生まれていない子供たち)があるんですけれども、肉体の数が少ないんで、地上に降りて行く順番を待っている。で、命が、順番が回ってきたときに肉体をもらって地上へ降りていくんですが、その生まれていない子供が持っている袋は何かと聞くと、天使が、「生まれていく時持って行くもので、中に猩紅熱と百日咳とはしかが入っていて、それで死ぬ」という。

「(それでは)生まれる意味がない」というと、「だってしかたがないんでしょう」と(つまり、運命だと)。

これを読んだとき、非常に恐怖にとらわれた。たまたま夜、寮で読んでたせいもあるんですが、こうやっているのを、上から誰か偉い人が見てるんだと思ったら身動きできないくらい怖くなって、それで便所へも行けないんですね。(中略)で、ご飯も食べれません、怖くて。だから、食堂行かずに、賄いから、病人食というか、食事だけ運んでもらって、それで2日ぐらい学校を休みました。

(中略) で、2日目の日、ふっと気が付いたら、なるほど天使は生まれたときと死ぬときのことは言ってるけども、地上についてのことは何も言ってないと。地上については、そういう誰か偉い人はわれわれを支配してないんだと。ふっと気が付いたら、それから急に明るくなって、「おれは自由だあ」って、寮の廊下じゅう怒鳴り回って歩いて、みんなが出てきて、「ああ、良かった良かった」ってみんなが一緒にストームやってくれたりして、そういうことがありました。

だから、「青い鳥」は、私にとっては、今でも人生を考えるための、本当のバイブルなんですね。

「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 前立腺がんの語り」より

がんだとわかったとき、患者さんの心のうちには「死ぬかもしれない」「怖い」という思いと同時に、「生きたい」という強い気持ちが湧き出てきます。

その気持ちや日々生きることの拠りどころとなるのが、“生きたい”を支える哲学なのです。

「死について話すなんてタブーよ」と思い込んでいませんか? 勇気をもって、「人生とは」「生きるとは」「あなたにとっての“がん”の意味とは」など、人生を生きている同じ人間として、患者さんと一緒に語りあってみましょう。

患者さんはそんな時間(とき)を心待ちにしていると思います。看護師という聴き手を前にして、患者さんは語ることによって自身の生き方を確認し、看護師にとっても、貴重な経験になると思います。
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