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【連載】患者の語りから学ぶ 看護ケア

第37回 最期まで「その人らしく生きること」を支える

  • 公開日: 2016/6/10
  • 更新日: 2021/1/6

医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。


様々な新しい薬や治療法が開発され、がんは慢性疾患になったと言われて久しいですが、未だに死亡原因第一位であり、がんで最期を迎える人は少なくありません。他臓器に転移したIV期になると、治療による延命は可能でも、完治は難しくなります。そのような患者さんの治療選択やサポートを考えるとき、患者さんの思いに耳を傾けることが重要となります。

心のうちにある揺れる思いに寄り添って

乳がんの再発・転移治療を受けている30代の女性

患者さんの声

ちょうどテレビで「余命1ヶ月の花嫁」を見たんですよね。…1ヶ月でこんなに元気そうな人が亡くなるはずはないって見ていて思ったんですけど、やっぱり亡くなってしまったという現実が信じられないのと同時に、何か自分もそうなってしまうんじゃないかという、すごい不安があって。
で、抗がん剤を、こんなにつらい思いをして打っている間だって、自分は生きているんだし、抗がん剤を打って1年生き延びたとしても、何かこう死んだように生きている1年と、抗がん剤をやめて、やりたいことをやって生き生き過ごしている1年って、同じようでいて全然違うんだなっていうことに気づいたんですね。…
――「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン >乳がんの語り」より


この患者さんは、同じ若年性乳がんの主人公に自分を重ねて、死を意識し、残された時間をどう過ごしたいか考え、抗がん剤治療を中止したいと医師に申し出ました。何より抗がん剤の副作用で疲れやすくなり、気持ちも落ち込んでしまうのが辛かったそうです。看護師をしており、がんの診断後も仕事への意欲を持ち、将来を考えるパートナーもいました。この方にとって「未来」があることはとても大切なことでしたが、効果がはっきりしない治療にかけて副作用で気力を失ったまま生きるより、自然治癒力にかけて「今」を生き生きと過ごすことを選択したかったと思いを語っていました。

乳がんの再発・転移治療を受けている40代の女性

患者さんの声2

6月に私が習っている三線という楽器と歌と合わせて…今回は役者さんのお友達と一緒に朗読を合わせてやるライブを計画していたので、「とにかくそのときに何かあったら困る」っていう話を、先生にお話しして。先生も…「それに合わせてそのときが大丈夫なようにしようね」という話をしてくれて、1番はその私のやりたいことを優先、2番目が治療というような選択肢で、一応動いていました。 そして、お薬としては、もう抗がん剤しかないので、やはり髪の毛の抜けないお薬をというふうに相談をして…(中略)
ただ、(抗がん剤を)始めたときの最初の1回目がものすごく副作用がひどくて…「いや、ちょっと体力がもうちょっと無理」っていう感じになってしまったので、先生に相談をして、「ライブが近いので、この状況だと無理だから、ライブが終わるまでもうやらない」っていう話をして、また休薬にしました。
――「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン >乳がんの語り」より


2人目の患者さんは、再発したとき「治ることは難しいが、生きたいように生きられるようお手伝いします」と医師より伝えられ、生きがいであった三線のライブを中心に据えて、治療を計画してきました。お2人とも今の自分にとって何が大切であるかを見極め、人生の量より質を重視した選択をしています。治療の効果は誰にもわかりませんが、がんを少しでも縮小し、延命を考えるのであれば、治療を止めることは正しい選択ではなかったかもしれません。しかし、この患者さんたちは、自分の思いに気づき、それを表現することができ、尊重して一緒に考えてくれる医療者の存在があったことで、一旦治療を休止することに至りました。

インタビューに協力してくれた人の中には、積極的に情報を集め、薬や新たな治療法を調べて主治医に提案しながら、粘り強く治療を進めていた人もいました。何を優先事項にして治療を受けるかは人それぞれ異なっています。それは必ずしも量より質とは限らないでしょう。その人が不確かな見通しの中で、何を大切にして生きたいのか、心模様は最期まで揺れ続けるものなのかもしれません。

揺れる思いに寄り添うことはたやすくはありません。生と死にかかわる局面では、自分自身の価値観も問われることになります。医療者から見て、その患者さんにとってはこの方がよいのではないかと思うことがあったとしても、無意識に自分の価値観を押し付けてしまうことになってはいけないと思うのです。「その人らしさ」は他者が決めることではありません。私たちはその人生の主人公である患者さんの心のうちにある思いをじっくり聴き、対話しながら、その人を尊重する選択ができるようサポートすることが求められていると思います。


「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。

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