第42回 認知症家族介護者の思いに寄り添おう!
- 公開日: 2016/8/19
医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
家族介護者の抑えきれない苛立ちと自責の思い
「病気だから仕方がないとわかっていても、同じことを何度も繰り返す家族に対してついつい声を荒げてしまう」と、認知症のご家族を介護する多くの方が語っています。
何度も同じことを繰り返すのは認知機能の低下によるものであり、本人はやったことを忘れてしまっても、辻つまの合わない状況や理由もなく怒られることに不安や怯えを感じています。そうした不安や怯えが、BPSD(認知症に特有な行動や心理的な症状)を引き起こしていることに気づいていない家族も少なくありません。しかし、正しい知識を持っていても、「身内だからこそ感情を抑えきれない」ことがあるのも事実です。ある女性は、普段は兄夫婦と同居している母と3-4日ともに過ごしたときの実姉の表情の変化について、次のように語っています。
53歳のとき、実母(86歳)がアルツハイマー型認知症と診断された女性(インタビュー時58歳)
私が、まあ看護職なので(認知症の知識について)伝えることもありますし、姉が、ホームヘルパーの資格を持っていて、なおかつ、母がそういう状況になる前から、まあ親の介護に役立てば、といって認知症サポーターの講習会に行っています。
(中略)姉の所に、例えば3泊4日とか、お泊まりすることがあるんですけど、最初のうちはいいんですけど、だんだん疲れてくると、…(中略)…「駄目」とか、やっぱり「さっき言ったよね」とかっていう言葉が多くなってしまう。で、姉の表情も何かきつくなってしまうっていうのは感じます。だから、理解することと、あの、実際にできることっていうのが違うし、その、人間疲れてくると、やさしく対応はできなくなるなっていうのは感じています。
それは多分、お嫁さんもそうだと思うんですけど、親子の関係だともっと密接で、親に対する期待や思いもありますし、えー、近いから、こう、言い過ぎるところもあるのかなというふうに…。――「NPO法人 健康と病の語りディペックス・ジャパン 認知症の語り」より
さらに、わかっていてもつい言ってしまったことに対して、自責の念に駆られる人もいます。
51歳のとき、実母(76歳)がアルツハイマー型認知症と診断された女性(インタビュー時52歳)
(前略) 「ああ、また、さっきこれ洗ったばっかりなのに、またこれ、洗わなきゃいけないの」みたいな、何かもう腹立ってくるときもありますので、本当、「自分、こんなに冷たい人間なのかな。みんな、でもどうしてる…?」「みんな、ほかの方たちってこんな思いしてないのかな? 私だけ1人腹立ててるのかな?」とか、思うことあるんですよね。うん、そういうの、何かまたちょっと聞かせてもらったら、すごく私にも、「ああ、私だけじゃないのかな」っていうのはある、あるのかなと思ったりしますけれど、うん。
――「NPO法人 健康と病の語りディペックス・ジャパン 認知症の語り」より
この女性のように、本人が悪いわけではないのに、なぜこんな風にしか接することができないのか、自分は冷たいのではないかと自分を責め、落ち込んでしまう人も少なくありません。こうしたストレスが、悪循環となって暴力や虐待につながったり、介護者自身が重い病いにかかったりしてしまう人もいます。
医療機関には、認知機能の低下した高齢者が入院する機会が増えていきます。看護師の皆さんには、本人とともに介護されるご家族とも向き合い、思いに耳を傾け、苛立ちや自責の念を感じているようであれば、苛立ちが家族を思う気持ちから生まれてくることであり、「あなただけではない」と伝えてあげて欲しいと思います。ご家族の自責の念を少し軽くしてあげることが、認知症本人の心の平穏を生み出し、症状悪化を食い止める一つの手立てにもなることでしょう。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。