-在宅高齢者の低栄養を防ぐ- 継続的な栄養管理を実現するために【PR】
- 公開日: 2017/11/30
【インタビュー】情報共有によって利用者さんの栄養状態を支える
島田雅子さん福寿会 福岡クリニック(在宅療養支援診療所) 看護師長代理
高齢者の低栄養状態は、QOLのみならず生命予後にも影響を与えます。そこで低栄養リスクをもつ高齢者にいち早く気づき、すみやかに適切にアプローチすることが大切です。足立区の地域医療を支えてきた福岡クリニックで、看護師長代理として在宅看護に携わる島田さんに、高齢者への栄養指導や管理のポイントを聞きました。
私は現在、福岡クリニック在宅療養支援診療所(在宅部)に所属し、管理者の立場から在宅看護にかかわっています。当クリニックは足立区全域を中心に24時間365日対応しています。訪問診療を受けているのは、ほとんどが高齢者(平均年齢約80歳)で、現在、足立区全域で600人以上を担当しています。
在宅部の看護師は、訪問診療時に医師に同行しています。診療結果は、福岡クリニックに併設された訪問看護ステーションや地域で連携している訪問看護ステーションに申し送り、担当の訪問看護師と共有します。逆に訪問看護師から利用者さんの状況がファックスなどで送られてくることもあります。
病院と在宅の違うところは、家での生活には規則がなく自由であることです。利用者さんは、好きなものを好きなだけ食べることが多く、栄養は偏りがちです。高齢者は摂取量が少ない傾向があり、栄養状態が不良になりがちです。独居、老老介護、認認介護という状況では、買い物や食事の準備が困難になり、栄養状態は自然と低下していきがちになります。
当クリニックで、今年、在宅栄養科の管理栄養士が中心になって栄養調査を実施したところ、利用者さんの約8割が低栄養の問題を抱えていることが明らかになりました。利用者さんの食生活への介入が必要であることが改めて実感できました。
看護師にも栄養評価能力が求められる
食べることは生きる力です。看護師として利用者さんには少しでも長い期間、口から食べられる状態が続き、1日でも多く食事の楽しみを感じてもらいたいと思っています。
利用者さんが口から食べることができなくなったときは、通常、胃ろうの造設や高カロリー輸液の投与などが選択肢として挙がります。これらは、誤嚥性肺炎を防ぐうえで有効な手段ですが、最近では、安易には胃ろうを造らない傾向になりつつありますし、胃ろうを造設したあとでも嚥下機能が少しでも残っているなら、食形態やポジショニングを工夫し、嚥下リハビリテーションを取り入れたりすることで、口から食事を摂り続けようという方向にあります。実際に、利用者さんの家族からは、「口から食事ができないか」と相談されることがよくあります。
このようなとき、医師から経口摂取の許可が出ていれば、少量で必要な栄養素やカロリーが得られるゼリータイプの栄養補助食品を取り入れることがあります。処方されている経腸栄養剤では甘すぎて飲めなかったり、とろみをつけるのが難しいという声が多いためです。ドラッグストアやスーパーで購入しやすいカロリーメイト ゼリーは、自分で飲んでみたときに、さっぱりした味で口当たりが良かったため、勧めることが多い製品となりました。
機器がない状況でもアセスメントできる力を
利用者さんの栄養状態は、家計などの経済面が影響を及ぼします。そこで在宅部では、訪問看護師やケアマネジャーなどから情報を得て必要と判断すれば、看護師とソーシャルワーカーがチームを組んで、利用者さんのサポートにあたります。また、利用者さんの栄養アセスメントを行う際には、体重、脱水の有無、嚥下の状態などから、低栄養リスクのある人をいち早くスクリーニングすることが大切です。嚥下機能が低下してくると発声しにくくなるため、発声の状態をチェックすることも欠かせません。
特に高齢者では、栄養状態の悪化が直接、生命予後に影響するため、リスクにいち早く気づき、予防する観点でかかわる必要があります。在宅の現場は、病院とは違って身近に十分な検査機器や医療機器がない環境です。そこで検査データや機器に頼らず自分の五感を使って、利用者さんを目で見て、耳で聴き、手で触れて感じ、アセスメントする力が必要になってきます。そして栄養に関する介入が必要であると判断したら、医師やケアマネジャー、管理栄養士がいる場合には在宅訪問食事栄養指導を依頼し、すみやかに対応を進めていくことが大切です。
地域のなかで利用者さんや家族に寄り添い、多職種との連携の橋渡しになることが、在宅医療の場で働く看護師に求められている重要な役割の1つであると考えています。
【座談会】在宅高齢者の食事と栄養について 継続的な支援の工夫を考える
在宅高齢者は、栄養状態を把握しづらく、栄養状態の低下に気づいたとしても継続的な栄養管理は難しいといわれます。そこで在宅医療に長く携わる医療・介護施設のメディカルスタッフに集まっていただき、低栄養リスクの発見と継続的な栄養管理の工夫を聞きました。
座談会参加者:右から、
中村育子さん 福寿会 福岡クリニック 在宅部 栄養課課長 管理栄養士
島田雅子さん 福寿会 福岡クリニック(在宅療養支援診療所) 看護師長代理
弓狩幸生さん 福寿会 在宅総合支援センター ふくろう 所長 社会福祉士、精神保健福祉士、主任介護支援専門員
――足立区に根を下ろし在宅医療に取り組んできた医療機関として、患者さんや利用者さんの食事・栄養についてどのような課題があるとお考えですか。
中村 足立区の人口は約68万人で、65歳以上はおよそ17万人です。当クリニックの訪問診療を受けている対象者は600人以上で、その多くが高齢者(男女比3:7)です。高齢者の独居世帯、老老介護や認認介護の世帯が増え、さまざまな問題が生じています。なかでも低栄養状態は深刻な問題になっています。
島田 高齢者世帯は介護力に不安があります。また、足立区は東京23区のなかでも比較的低所得の世帯の割合が高く、食費に多くをかけられないという世帯も少なくありません。経済的な問題があるなかで生活していかなければならないわけですから、食費を切り詰めざるを得ない家庭もあります。そのため、食事でバランスよく栄養を摂るのが難しい状況が生じてしまいます。
弓狩 たとえば褥瘡ができるなど、健康状態の悪化が顕在化していれば、栄養状態の改善のために食生活を変える取り組みが必要だと理解してもらえますが、栄養状態の低下を予防するために食生活を変えるのは、なかなか難しいようです。特に独居高齢者や老老介護、認認介護世帯では、大変ハードルが高いと感じています。
――食事・栄養に関する課題を解決するために、どのようなアプローチが必要になりますか。
中村 福岡クリニックの訪問診療を受けている利用者さん609人(平均年齢81歳)を対象に、2016年12月から17年3月まで栄養評価のための調査を実施しました。その結果、609人中153人が「低栄養」、326人が「低栄養のおそれがある」と評価されました。全体の約8割が栄養状態に何らかの問題を抱えているという現状が浮き彫りになったのです。
このことで、訪問診療に携わる医師や看護師の意識は変わったと感じます。さっそく「低栄養」「低栄養のおそれあり」の利用者さんとご家族には、栄養評価の結果とともに、低栄養状態が健康や日常生活に及ぼす影響、その対策についてわかりやすく説明した文書を郵送しました。これから個別の取り組みが始まると思います。
島田 利用者さんの8割が食事・栄養に何らかの問題を抱えているという事実には驚きました。「低栄養」の利用者さんにはすみやかに介入し、「低栄養のおそれがある」利用者さんに対しては、予防に力を入れる取り組みが早急に求められていると痛感しました。
弓狩 8割という数字から、在宅の利用者さんは基本的に、低栄養のリスクがあることを認識するべきだと思いました。私が所属する在宅総合支援センターでは、関係医療機関や介護支援事業所に調査結果を伝え、診療や看護、ケアマネジメントに生かしてもらえるように呼び掛けています。栄養状態を改善するサポートは個別性が高く、一律にできるものではないため、必要に応じて管理栄養士から相談・指導を受けられる機会を作るようにしています。
――栄養の偏りや低栄養を是正するうえで栄養補助食品は有効でしょうか。また、栄養管理を継続させるコツをお話しください。
中村 在宅の利用者さんで栄養状態が不良な人に、医師から経口摂取用に経腸栄養剤が処方されることがありますが、製品によって成分や濃度が異なるため、とろみ剤を入れる分量が難しく、とろみがつけにくい問題があります。また、なかには甘くて口に合わないという利用者さんもいらっしゃるようです。
そのようなときは、ゼリータイプの栄養補助食品を勧めるようにしています。ドラッグストアやスーパーで手軽に購入でき、エネルギー、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどが1袋でバランスよく摂れるものを選びます。経口摂取できる量が少ない利用者さんには、少量でも栄養価の高い食品が求められます。そういった視点で製品を選ぶことが大切です。
島田 カロリーメイト ゼリーは味がさわやかで、飲み込みやすいため勧めやすいと感じています。パッケージが特徴的でわかりやすい点も勧めやすさにつながります。また、いかにも介護食であるような製品の購入を嫌がる方もいますが、カロリーメイト ゼリーなら、おやつのようでプライドが傷つかないという利点もあります。お孫さんと一緒に買って飲んでいるという利用者さんの話を聞いたことがあります。
弓狩 栄養管理に関心をもってもらったり、積極的になってもらうためのコツとして、ちょっとお得な話というニュアンスを出すと上手くいく場合があります。
「実はうちの管理栄養士さんが、この製品がいいって言っていたよ、その理由はこうでね」という話し方で情報提供を行うと、高齢者にも関心をもってもらいやすく、抵抗なく受け入れてもらえるようです。
中村 継続のコツとしては、一番重要なポイントを1つだけ変えてもらうようにアプローチすることです。利用者さんの食事についての聞き取りを行うと、改善すべき点がいくつも出てきて、あれもこれも指導したくなりますが、新しいメニューの提案や、食形態の変更など、一気にたくさんの改善案を伝えても受け入れてはもらえません。まじめなスタッフほどこの失敗をしてしまいがちです。
利用者さんの理解力、調理や買い物を含めた家族の介護力などをまずよく把握し、できること、関心をもってもらえそうなことから1つずつ提案していけば、栄養管理を継続できると考えています。