診療報酬の基礎知識
- 公開日: 2019/9/8
診療報酬のイメージ
皆さんは、「診療報酬」という言葉を聞いて、どのようなイメージをもちますか?お金?面倒な書類作成?興味なし?人それぞれ感じることは異なると思いますが、マイナスイメージを思い浮かべる人も多いかもしれません。では、なぜマイナスイメージを思い浮かべるのでしょう?ぜひ、考えてほしいと思います。
今まで、多数の医療機関を訪問してきましたが、医療職の皆さんは「経営」や「診療報酬」という言葉にマイナスイメージを抱いていることが少なくありません。その根幹にあるのは、「患者への医療行為=お金」ということに対する嫌悪感ではないかと感じています。おそらく、多くの人が「私はお金のために医療を行っているのではない」という意識をもたれているのではないでしょうか。
今回のテーマは、「これからの医療政策と看護にまつわる診療報酬」ですが、まずは「なぜ診療報酬が必要なのか」を理解して、少しでも診療報酬や医療政策に興味をもってもらえればと思います。
診療報酬の役割
医療機関で勉強会を行う際、筆者は診療報酬(経営)について2つのことをお伝えします。まず1つ目は、「診療報酬は、皆さんの労働の対価である」ということ。そして2つ目は、「患者に対して本気でよりよい医療を提供したいならば、診療報酬を適切に算定すべし」ということです。
1つ目は、診療報酬は、医療者が患者に対して適切な医療行為を行った結果、その対価として得られるものだということを意味します。
例えば、休日にマッサージに行ったとします。マッサージに行って60分間の施術を受ければ、60分間の施術の対価を支払うでしょう。「看護師さんは、とても疲れるお仕事だと思いますので、今日のお代は結構ですよ」と言ってくれるマッサージ店があるでしょうか?ないですよね。コンビニで買い物をしても、美容室に行っても、遊園地に行っても、サービスを受けたらその対価を支払うのが当然であり、医療や介護だけ例外ということはないのです。
このように、診療報酬とは皆さんの頑張りへの対価であり、この対価によって医療機関は運営することができるのです。そして、給与の支払いや学会・研修会などへの参加、薬剤の購入、新しい医療機器の購入などができるようになるのです。
2つ目の意味は、患者に対してよりよい医療を提供していくためには、お金が必要だということです。患者に対して「よりよい医療を提供していきたい」という思いは、皆さんに共通していることだと確信しています。では、よりよい医療を提供するためには、何が必要でしょうか?「あれも必要だ」「これも必要だ」と、さまざまなことが思い浮かぶのではないでしょうか?その思い浮かんだことを実現するためには、どうすればよいでしょうか?
あらゆることを実現していくためには、お金が必要となります。医療職のスキルアップや新しい技術の導入は、よりよい医療を提供していくためには欠かすことができません。では、スキルアップのための学会・研修会への参加や新しい医療機器導入などのための医療機器の購入は、お金をかけずに実現できるでしょうか?例えば、認定看護師の資格を取るにも膨大な時間と費用がかかります。「お金がないので無料で受けさせてください」と言っても通じません。また、「患者によりよい医療を提供するので医療機器を無料でください」と言っても、提供してくれる会社はないでしょう。
つまり、本気でよりよい医療の実現を目指そうとしたら、医療機関の経営をしっかりと保っていかなければならないのです。経営状態の悪い医療機関には、医療の質を向上させるために投資するお金はありません。
このように「診療報酬は、皆さんの労働の対価であり、よりよい医療を提供するための原資である」といえると思います。
診療報酬の仕組み
診療報酬改定は、2年に1回行われます。特に、病院勤務の人であれば、看護必要度評価の対応に苦心しているのではないでしょうか。ここでは、診療報酬の仕組みを基礎から確認します。
診療報酬の点数本を目にしたことがある人は、複雑怪奇で、呪文をみているような感覚に捉われたのではないでしょうか。1,000ページ以上にわたる分厚い本にびっしりと書かれている文章は、日本人であっても、パッと見て解釈できるものではありません。目にした瞬間に目を背けたくなる、それが診療報酬点数本です。
診療報酬を理解するためには、大枠の構造を理解することから始めるのがお勧めです。まず、診療報酬の最も大きな構造は、「基本診療料」と「特掲診療料」という2つから成り立っています。基本診療料は、初診料、再診料、入院料など、診療の基礎となる点数を定めたものです。特掲診療料では、検査料、処置料、手術料など、個々の診療行為ごとの点数を定めています。
どうでしょう。これだけでもわかりにくいという人も多いかもしれません。イメージしやすいように、ホテルに置きかえて考えてみましょう。
学会や研修会で泊まるビジネスホテルのことを想像してください。ホテル側はサービス提供の有無にかかわらず、チェックイン時に、お客様に部屋代を請求します。このように、個別の医療行為を実施していなくても得られる基本的な報酬が、基本診療料だと理解してください。
次に、お客様がルームサービスでサンドイッチとコーヒーを注文しました。そうすると、チェックイン時に支払った部屋代以外に、チェックアウト時にその料金を請求することになります。これが、特掲診療料です。すなわち、基本的にかかる報酬(基本診療料)以外に、検査や放射線、リハビリテーション、看護師が実施するフットケアの指導などの個別医療行為を提供すると、その分も診療報酬として請求します。
このように、診療報酬がホテルの部屋代とルームサービスの組み合わせで構成されていると考えると、イメージしやすいかもしれません。
基本診療料と特掲診療料の構造が理解できたら、もう一段、階細分化してみてみましょう(図1)。基本診療料や特掲診療料にどのような項目が含まれるか、イメージしてもらえるのではないでしょうか。
図1:診療報酬の構造と点数体系
診療報酬で左右される病棟の看護配置
図2は、病院における収入と費用の構造を示したものです。病院の収入は、大きく分類すると診療報酬に紐づく収入と診療報酬以外の収入があります。
図2:病院における収入と費用の構造
診療報酬に紐づく収入は、基本診療料と特掲診療料および食事療養費に分類することができます。一方、診療報酬以外の収入には、差額ベッド代や院内に設置されている自販機の販売手数料などがあります。診療報酬に紐付く収入のうち、基本診療料の収入は5~7割程度(病院の機能によって異なる)、特掲診療料の収入は3~5割程度を占めます。
基本診療料は、初・再診料や入院料などですが、このなかでも大きな割合を占めるのが、入院基本料収入です。では、入院基本料収入は、何によって決まってくるのでしょうか?入院基本料の決定要因で中心になるのは、看護師の配置人員数です(正確にはさまざまな要件がある)。急性期一般入院料1(旧一般病棟入院基本料7対1)では、患者7人に対して1人以上の看護配置で1日あたり1,591点、急性期一般入院料7(旧一般病棟入院基本料10対1)では、患者10人に対して1人以上の看護配置で1日あたり1,332点となります。急性期一般入院料1(7対1配置)と、急性期一般入院料7(10対1配置)では、患者1人1日あたり259点(2,590円)の差が発生することになります。そうすると、200床で稼働率80%の病院では、1年間で約1億5,000万円の収入差が発生するのです。
病院収入の大きな割合を占める入院基本料収入には、看護師の影響が大きいと理解できると思います。だからこそ、診療報酬改定の際に、入院基本料の見直しが議論されると、大きな話題になるのです。病院にとっては、入院基本料が変更になるということは、収入に影響が及ぶことになります。
診療報酬算定と日常業務
皆さんが、日々の業務のなかで書類や電子カルテに向き合っている時間は、どれくらいでしょうか?1日の勤務時間のなかの5%程度という人もいれば、もしかすると20%程度を占めているという人もいるかもしれません。看護業務のなかで、書類作成にかかる時間は意外と多く、負担に感じることも少なくないでしょう。
2017年9月21日に、日本看護連盟が公表した「日常の看護の業務に関するアンケート」の集計結果(n=11,831名)では、1日の日常業務における「看護実践記録(以下、看護記録)」と「診療報酬書類」への投下時間は60分程度が最も多く36.1%、次いで90分程度が26.5%、そして、150~180分程度と回答した人が8.8%もいました。150~180分程度となると、1日の勤務時間のうち、約3分の1を書類作成に使っていることになります。すなわち、書類作成に、看護の中心業務である「直接ケア」や「診察等の介助」の時間がとられているともいえます。
それでは、書類作成を止めてしまえばいいのかというと、そういうわけにもいきません。日本看護協会によると「看護記録とは、あらゆる場で看護実践を行うすべての看護職の看護実践の一連の過程を記録したものである」と定義されています1)。看護記録は、看護の継続性・一貫性の担保や他職種との情報共有の際の重要なツールとして位置づけられており、看護師には、看護実践を正確に記録することを求めています。
次に、「診療報酬書類」はどうでしょうか?診療報酬において看護師の関与が評価されるのに伴い、診療報酬書類は増加の一途をたどっています。「入院診療計画書」「看護必要度チェック」「看護必要度評価記録」「退院療養計画書」「摂食機能療法指導記録」など、例を挙げればキリがないほどの診療報酬項目があります。
看護師が関与するこれらの診療報酬項目は、医療行為を提供した根拠(診療報酬書類)がなければ、報酬を受け取ることはできません。全国の医療機関が根拠となる書類がない状態で診療報酬の請求を始めると、言った者勝ちになってしまいます。国民の保険料から報酬を受け取る以上、税金と同様に根拠に基づいて請求を行い、支払いを受けなければならないのです。
では、診療報酬記録がなかった場合、どういうことになるでしょうか?まず1つは、医療行為を提供したことに対する報酬を受け取れなくなります。記録がないと診療報酬の請求根拠がないことになるため、事務部門(医事課)では請求を立てることができません。
2番目に考えられるケースとしては、根拠書類がないにもかかわらず、診療報酬を請求してしまうことです。この場合、定期的に実施される適時調査(立ち入り調査)によって、その事実(根拠書類なしなど)が発覚すると、医療機関には多額の診療報酬の返還を求められ、経営的に大きなダメージを被ることになります。
これらのことから、看護師は、多忙な業務のなかであっても、自身が関与する診療報酬について正しく理解し、適切な根拠書類の作成に務めることが大切なのです。
引用文献
1)日本看護協会:看護記録に関する指針. (2018年6月19日閲覧)
https://www.nurse.or.jp/home/publication/pdf/guideline/nursing_record.pdf
(ナース専科2018年8月号より転載)
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