知っておきたい! 新たに保険適用となった変形性膝関節症の新治療
- 公開日: 2023/6/30
2023年6月1日に変形性膝関節症の新たな治療が保険適用となりました。今回は、変形性膝関節症のこれまでの治療と保険適用となった新たな治療について紹介します。
変形性膝関節症の痛みで悩んでいる人は多い
変形性膝関節症は、クッションとなっている膝の軟骨がすり減ることにより骨や軟骨が変形し痛みや腫れが生じる疾患で、進行すると平地でも歩行に支障をきたすようになります。無症状であるものを含め、有病者数は2,530万人、症状を有する患者さんは約800万人といわれており、多くの人が悩んでいる疾患であるといえます。 変形性膝関節症の主症状は膝の痛みです。この痛みは、クッションとなっている膝の軟骨がすり減ることにより骨や軟骨が変形して起こる関節炎、痛みが生じる末梢神経が増えて痛みが強くなり慢性化する神経の異常、痛みが続くことで痛みに神経が過敏に反応してしまう痛み過敏、この3つが複雑に絡み合って起こると考えられています。
変形性膝関節症と診断されると、まずは疾患の進行を遅らせる保存療法が検討されます。保存療法には薬物療法(ヒアルロン酸の関節内注射や経口鎮痛剤の使用)と非薬物療法があり、この2つを行いながら、膝の状態の経過をみていきます。
保存療法で対応できなくなると、人工膝関節置換術が検討されます。6月1日から保険適用となった新たな治療は、保存療法から手術に至る間に実施される治療法になります。
新たな治療は末梢神経ラジオ波焼灼療法というもので、従来の保存療法で痛みが治まらない場合に検討されます。変形性膝関節症の痛みを伝える神経は上外側膝神経、上内側膝神経、下内側膝神経の3つであるということが最近わかってきました。末梢神経ラジオ波焼灼療法はこの3つの神経をターゲットに超音波エコーガイド下で針を刺し、Coolief 疼痛管理用高周波システムという器械を用いてラジオ波を発生させます。痛みを支配する神経を広範囲に焼灼し、痛みを中長期にわたり、コントロールすることが可能となります。
末梢神経ラジオ波焼灼療法は中長期に渡って痛みを和らげる効果が見込める
NRSスコアが7程度だった患者さんに、末梢神経ラジオ波焼灼療法と関節内ステロイド注射を行ったアメリカの臨床試験では、1カ月後の痛みは末梢神経ラジオ波焼灼療法では3程度、関節内ステロイド注射では3.9程度に低下するといった結果が出ました。さらに経過を見ていくと、関節内ステロイド注射では、6カ月時点で5.9程度に痛みの上昇が見られましたが、末梢神経ラジオ波焼灼療法では6カ月から24カ月後でも2.5〜3.6程度を維持していました。
このように末梢神経ラジオ波焼灼療法は、痛みを0にすることはできませんが、中長期的に痛みの程度を2〜3に抑えることができると示されています。痛みは身体の構造を守る役割をしています。構造上すでに悪くなっている膝の痛みを完全に取ると構造のさらなる悪化が想定されるため、ある程度の痛みを残し術後の筋力訓練や生活指導によりさらに良好な結果が得られることが期待されます。
末梢神経ラジオ波焼灼療法に要する時間は長くても1時間程度で日帰りでの治療が可能となっています。また、海外のデータでは1度実施すると効果が1〜2年程度続くとされています。
この末梢神経ラジオ波焼灼療法が2023年6月1日から保険適用となりました。詳細は下記になります。
K697−3 肝悪性腫瘍ラジオ波焼灼療法(一連として)
1 2センチメートル以内のもの
ロ その他のもの15,000円
◯注意事項案
K697−3 肝悪性腫瘍ラジオ波焼灼療法(一連として)
(1)(4) 略
(5) 末梢神経ラジオ波焼灼療法(一連として)は、次に掲げる要件をいずれも満たす場合に限り算定できる。
ア 整形外科的な外科的治療の対象とならない変形性膝関節症に伴う慢性疼痛を有する患者のうち、既存の保存療法で奏功しない患者に対して、疼痛緩和を目的として、上外側膝神経、上内側膝神経及び下内側膝神経に末梢神経ラジオ波焼灼療法を行った場合は、本区分の所定点数の「1」ロを準用して算定する。
イ 関連学会の定める適正使用指針を遵守し、変形性膝関節症に関して、専門の知識及び6年以上の経験を有し、関連学会が定める所定の研修を終了している常勤の整形外科の医師が実施した場合に限り算定する。
変形性膝関節症の患者さんは、人によっては10年、20年、30年と痛みに悩まされます。整形外科医は変形性膝関節症と診断したら、鎮痛剤や湿布、理学療法、筋力トレーニングといったものを組み合わせて治療をしていきます。治療を行うとよくなりますが、少しするとまた痛くなり治療を行うというのを繰り返します。そのうち、継続して鎮痛剤を使用するようになり、弱オピオイドの適応になる患者さんもいます。
鎮痛剤の効果は長く効く薬剤でも6時間程度、ヒアルロン酸の関節内注射は初期には1週間に1回投与を行い、だいたい1週間〜2週間程度効くとされています。ただし、変形性膝関節症は進行すると軟骨がなくなってしまい、この状態でヒアルロン酸を注射しても効かなくなるため、継続して行うことはできません。次に行うのが、手術になりますが、手術は侵襲があります。2時間程度の手術時間、2〜3週間の入院、さらにリハビリにも時間がかかりますし、経済的な負担もあります。しかし、治療効果は大変優れており、非常に強い除痛効果が得られ、効果は10年、20年と続きます。
このように変形性膝関節症の痛みに対しての治療には、効果が数時間のもの、数週間のもの、10年、20年と効果があるものがあります。ただ、数週間効果が続く治療と、数十年効果が続く治療の間がありませんでした。この間を埋める治療として、今回の末梢神経ラジオ波焼灼療法が導入されました。
変形性膝関節症の痛みは複雑だという話がありましたが、患者さんは痛みがあるといろいろなことができなくなります。動けなくなることで身体も心も弱ってしまうことがあります。この療法を行うことで、そういった患者さんの痛みを取って、動けるということを経験し、痛みの悪循環から抜け出してよいQOLが得られるとのではないかと期待しています。
Coolief 疼痛管理用高周波システムの日本市場導入に尽力した赤木將男先生(真ん中)とアバノス・メディカル・ジャパン・インクの2人
『ひざ痛い.jp(https://hizaitai.jp/)』では、変形性膝関節症の痛みや治療法の情報だけでなく、末梢神経ラジオ波焼灼療法が受けられる機関を検索できます。