人工膝関節置換術の看護|術直後の観察項目、合併症予防、生活指導など
- 公開日: 2023/2/16
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は、加齢や体重などの影響で関節軟骨の摩耗を引き起こし、疼痛や歩行障害をもたらす、特に中高年に多い疾患です。
超高齢社会の我が国において、健康寿命に影響する運動器疾患である変形性膝関節症の患者さんは、推定1000万人いるとされています1)。変形や痛みの程度、ライフスタイルなどによってさまざまな治療法が選択されますが、今回はその中でも、「人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)」について解説します。
人工膝関節置換術とは
TKAとは、変形性膝関節症や関節リウマチなどにより、傷んで変形した膝関節の表面を取り除いて、人工関節(インプラント)に置き換える手術です(図1)。
人工関節は、大腿骨部・脛骨部・膝蓋骨部の3つの部分から構成されており、金属とポリエチレンでできています。傷んだ関節を交換し下肢のバランスを整えることで、疼痛の緩和はもちろん、可動域の再獲得、関節の安定性を改善させ、日常生活を過ごしやすくすることを目指します。
図1 人工膝関節置換術の流れ
術前の看護
TKAは待機手術であることが多く、手術が決まってから入院まで日数があることもしばしばです。この間に次のことを患者さんに確認し、必要に応じて指導を行います。
感染予防
術後の合併症の一つに感染があります。術前には「う歯」や下肢の「白癬」の有無などを十分に聴取し、挿管時のリスク評価も兼ねて、術前の歯科受診を促します。また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を保菌していないか確認するために鼻腔培養を提出したり、身体に炎症疾患がないか血液検査や尿検査を実施し、必要に応じて治療を行います。皮膚の乾燥は易感染状態を引き起こしやすいため、保湿を行うよう指導します。
既往歴、内服薬、アレルギーの有無の確認
術後に何らかの容態変化があった場合、アセスメントにつなげるための重要な情報が既往歴です。
周術期では、手術自体の侵襲と麻酔の影響からさまざまな合併症のリスクがありますが、既往に慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)や肺結核など呼吸器疾患のある患者さんは、既往がない患者さんと比較して術後の重症化リスクが異なり、観察も慎重に行わなければなりません。
脳血管疾患などで麻痺がある患者さんでは転倒リスクが高まりますし、糖尿病や閉塞性動脈硬化症(Arterio-Sclerosis Obliterans:ASO)があれば、創部の治癒遅延などにもつながります。意識レベルの低下があった場合も、糖尿病の既往を把握していれば、「低血糖かも! 血糖値を測定しよう」と即行動に移すこともできますよね。さらに例を挙げると、術後に便秘を生じた場合、その患者さんに腹部の手術歴があるかどうかはイレウスを疑ううえでも重要な情報となります。
また、周術期に影響する薬がないかを調べるため、服用している薬(市販薬も含めて)をすべて見せてもらい、医師に休薬の有無を確認します。
アレルギーの聴取はアナムネの基本ですが、整形外科においては金属アレルギーの聴取を忘れてはいけません。場合によっては、パッチテストを行う必要も出てくるため、金属アレルギーを把握したらすぐに医師に報告しましょう。
生活指導
待機期間中に、体重管理や自宅での生活様式の見直しについて指導します。退院後は膝の過度な屈曲は避ける必要があり、例えば、和式トイレや布団を使用していたり、日頃よく正座をするといった和式の生活様式であれば、ベッドや椅子、テーブルの使用などを提案します。
術直後の看護
術直後の観察項目
TKAでは全身麻酔が選択されることが多いと思いますが、麻酔方法は病院によって異なります。また、TKAでは硬膜外麻酔や大腿神経ブロック、麻酔薬の局注など、さまざまな疼痛コントロールが行われます。麻酔方法によって観察点も変化しますが、TKAにおいて、特に観察すべき項目は次のとおりです。
【術直後の観察項目】
・足背動脈と後脛骨動脈の触知
・足関節、母趾の底背屈の可否としびれの有無
・創部(あればドレーン刺入部、出血量)の状態
・腓腹部の把握痛
・胸痛や呼吸苦の有無
・貧血症状と術後採血の結果
・良肢位の保持、クーリング
術直後の看護のポイント
術直後の看護で押さえておくべきポイントは、“循環・神経障害”と“出血”です。
循環障害
発症はごくまれですが、重大な合併症に膝窩動脈損傷があります。帰室後は患肢の冷感や皮膚色を確認するのとあわせて、足背動脈を触知し、血流を確認します。
神経障害
注意すべき神経障害として、腓骨神経麻痺があります。術中の損傷、変形のアライメント矯正による神経の伸張、術後の体位によるものなど原因はさまざまで、約1%の確率で起こるとされています2)、3)。
腓骨神経は腓骨頭の後ろを巻きつくように走行しており、腓骨頭周囲では皮膚直下に神経が存在するため、外部からの圧迫で容易に障害が起こります(図2)。TKAを受ける患者さんは、もともと内反膝(O脚)であることが多いため術後の下肢が外旋しやすく、それに伴い腓骨頭が圧迫され、腓骨神経も障害されます(図3)。