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【連載】産科で必要な看護技術を学ぼう!

切迫早産の看護|原因、症状、安静度の維持、心理的支援、療養環境の整備など

  • 公開日: 2025/1/29

切迫早産とは

 切迫早産とは、早産になる危険性が高い状態をいいます。早産は妊娠22週0日から36週6日までの出産を意味し、37週0日から41週6日までは正期産、42週以降は過期産とされます(図1)。

 切迫早産と診断されても、妊娠を継続でき正期産となるケースもあれば、正期産より前に出産となるケースもあり、分娩方法も経過によって異なります。なお、妊娠22週未満での出産は流産とされ、児の救命対象になりません。

図1 在胎期間による分類

在胎期間による分類

切迫早産の原因

 切迫早産の原因の1つとして考えられているのが、絨毛膜羊膜炎をはじめとする感染症です。胎児は脱落膜・絨毛膜・羊膜からなる卵膜に包まれており、絨毛膜羊膜炎は、感染によって絨毛膜と羊膜が炎症を起こした状態をいいます。炎症の影響で子宮収縮、破水、頸管熟化が引き起こされ、早産につながるおそれがあります。

 また、子宮頸部がんなどで子宮頸部円錐切除術の既往がある患者さんでは、手術の影響で子宮頸管が短縮している場合があり、早産のリスクが高まります。

 ほかに、子宮頸管の強度が低下する頸管無力症(図2)、子宮が過度に伸展する多胎妊娠、早産の既往、ストレス、喫煙、低栄養なども原因として考えられていますが、明らかな原因がなくても起こることがあります。

図2 正常な子宮頸管と頸管無力症

切迫早産の症状

 切迫早産では、子宮収縮による腹部の張りや痛み、破水、性器出血などの症状を認めることがあります。

切迫早産の検査

 切迫早産が疑われる場合、経腟超音波検査を行い、子宮頸管の短縮や子宮口の開大といった所見がみられないか確認したり、胎児心拍数モニタリング(non-stress test:NST)で胎児心拍数と子宮収縮の状態を計測・記録したりすることで、リスクを評価します。

 また、頸管膣分泌液中の癌胎児性フィブロネクチン、子宮頸管粘液中の顆粒球エラスターゼの値を調べる検査が行われることもあります。これらは早産マーカーと呼ばれ、正常な妊娠経過では陽性になることはなく、切迫早産の早期発見や診断に役立ちます。

切迫早産の治療

 早く産まれるほど胎児の発育が未熟で、重篤な障害が出現するリスクが高くなり、救命率も低下します。そのため、できる限り妊娠を継続させることが治療の目的となります。

 治療の基本は安静を保つことです。子宮頸管長の程度、症状、家庭環境により、外来での経過観察か入院管理を行うかが検討されます。

 切迫早産における異常な子宮収縮に対しては、子宮収縮抑制薬の投与が行われ、頸管無力症の患者さんには、子宮頸管を縫い縮める子宮頸管縫縮術が妊娠早期に実施されることがあります。原因が感染症の場合は、抗菌薬による治療や必要に応じて膣内洗浄が行われます。

切迫早産における子宮収縮抑制薬の使用

 日本では、切迫早産に対する子宮収縮抑制として、子宮収縮抑制薬の長期投与(long term tocolysis)が広く行われてきました。

 しかし、欧米ではshort term tocolysis(子宮収縮抑制薬の点滴投与は、児の成熟を促すステロイドを投与後、効果が発現するまでの48時間に限定する)が行われていること、子宮収縮抑制薬には胸痛、呼吸困難、動悸、手の震えといった副作用もあることなどから、『産婦人科診療ガイドライン―産科編2023』では、「急性期を経て48時間以上の持続点滴投与、あるいは持続点滴中止後に経口投与を継続する場合には、減量・中止の可否も検討したうえで選択されることが望ましい」としています1)

切迫早産の看護(入院による管理を行う場合)

 症状が強い場合や自宅で安静に過ごすことが困難な場合は、入院による管理が行われます。入院期間は症状や経過によって異なり、出産まで入院するケースもあれば、早産の徴候がおさまり数日で退院できることもあります。

問診

 現在の健康状態や過去の病歴、手術歴、アレルギーなど、外来で収集している情報について再度確認します。新たに気になる症状がみられないかも聞き取りを行います。

安静度の維持

 入院生活における注意点や医師の指示に応じた安静度について説明します。

 患者さんのなかには、「安静にしているだけなのに、なぜ入院までしなくてはならないのか」と、入院に対して否定的な感情を抱く人もいます。その後の安静度の維持にもかかわってくるため、患者さんの理解度に応じて、入院による安静の必要性・重要性を丁寧に説明することが重要です。

 安静にするといっても、どこまで安静にしていればよいのか、どの程度なら動いてよいのか、患者さんには判断しにくいことも考えられるため、具体的な説明・指導を心がけます。

 基本的には、移動を伴う動作や腹圧がかかるような動作は避けてもらい、起き上がるときにも腹筋をあまり使わないように指導します。また、排泄や整容、シャワー浴は安静度に応じて患者さん自身で行うことが可能で、テレビや音楽の視聴、読書やスマートフォンの操作などベッド上の作業も行えるといったように、どういった動きであればできるのかを具体的に説明します。

 入院が長期にわたると筋力が低下していくため、腹圧がかからずベッド上でできる軽い運動も、患者さんの状態に応じて紹介します。

身体状態・心理状態の観察

 医師の指示に応じてNSTを行い、胎児心拍数と子宮収縮の状態を確認します。異常があれば、すぐに担当医に報告します。症状や身体状態を観察するのとあわせて、表情や口調、病室での様子などから、患者さんの心理状態に気付けるようにします。

心理的支援

 早産になるかもしれないという不安に加え、入院期間が未定で先が見えない不安、家族や仕事への影響に対する心配事、動作制限によるストレスなど、患者さんは大きな心理的負担を抱えています。看護師はそうした患者さんの心情に寄り添い、声をかけ、十分に話を傾聴できる時間がもてるよう計画し、早産に対する不安や入院に対するストレスを少しでも軽減できるようにかかわります。

 臨床心理士などの心理専門職によるサポート体制がある場合は、面談につなげることも検討します。

療養環境の整備

 清潔な療養環境を整えるとともに、患者さんの希望に応じて、リラックスできる環境やケアを提供します。例えば、当院では、アロマテラピー(妊娠中でも使用できる精油を使用)や足浴、マッサージのケアを提供することがあります。ケアの提供に際しては、看護スタッフの体制にも配慮し、計画的に行います。

知識・情報の提供

 早産になる可能性が高い場合、分娩の流れ、早産児の状態、必要な管理などの情報を提供し、患者さん自身が今後の見通しを立てて、出産・育児の準備ができるように支援します。ただし、患者さんの心理状態によっては、ネガティブな感情を増長してしまうことがあるため、伝えるタイミングに注意します。

 当院では、患者さんや家族の希望に応じて、NICUのスタッフが病室に訪問し、NICUの環境やケアについて説明を行うことで、不安の軽減を図る取り組みを行っています。

切迫早産における看護師の役割

 切迫早産は有効な治療法がなく、入院中は精神的なサポートが非常に重要になります。看護師は患者さんが現状を受け入れ、前向きに出産・育児へつなげられるようにかかわります。そのためには、患者さんとの信頼関係の構築が欠かせません。

 当院では、担当看護師が中心となり看護を提供しています。継続的にかかわることで、感情を表出しやすい環境を作り、情報の提供などの介入が適切なタイミングで行えるように努めています。また、スタッフ間でも情報を共有し、必要に応じてカンファレンスを行うなど、チームの力で看護を提供していくことも大切です。

引用・参考文献

1)日本産科婦人科学会,編・監:産婦人科診療ガイドライン―産科編2023.日本産科婦人科学会事務局,2023,p.146-50.(2024年12月24日閲覧) https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf
●鈴木俊治,監:患者がみえる新しい「病気の教科書」 かんテキ 産婦人科.メディカ出版,2023,p.128-33.
●荒木勤,他:最新産科学 異常編 第23版.文光堂,2023.
●LSIメディエンス:WEB総合検査案内.(2024年12月24日閲覧) https://data.medience.co.jp/guide/

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